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12.邪魔者増える
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エルシィはこの日サロンでメイナードと静かにティータイムを過ごしていた。
「このお茶の葉は輸入したものですか?」
「エルシィのために隣国から取り寄せた。気に入ったかい?」
「とっても美味しいです。きっと飲みたがる女性は多いと思いますわ」
おっとりと微笑みを浮かべる。本当なら嬉しい! でも他の女性に贈っている可能性もある。簡単に喜んではいけない。どうせロレインとか他の女性にも同じことを言って渡している。
「そうか。女性受けしそうか。ならば我が家の経営する店にも置いてみるか……」
メイナードもティーカップを口元に運び、飲みながら思案気な顔になる。そういう意味じゃなくて嫌味だったのだけど伝わらなかった。
彼の浮気防止策を考えるのは保留にしてせっかくの二人の時間を和やかに過ごしていた。ところが屋敷に思わぬ嵐がやって来た。
突如玄関が騒がしくなった。執事の制止の声が聞こえる。メイナードが不快気に眉を寄せた。すると扉がバーンと音を立てて開いた。ちょっとマナー違反! 現れたのは女性だった。彼女は猛然と扉からズカズカと部屋に入って来た。どうやら執事や従者を振り切って来たようだ。思わずメイナードとエルシィは顔を見合わせ立ち上がる。その女性は派手な化粧と露出多めのドレスを着ていた。香水の香りが部屋に充満した。臭い!
「メイナード様。結婚したって本当なの? 私という存在がありながら酷いわ。その図々しい女と今すぐ離婚してすぐに追い出して!」
この女性だれ? ロレインではなくまさか彼女こそが本命なのか。
「これはビンガム侯爵令嬢。お招きした覚えはないのですが随分な訪問ですね」
ビンガム侯爵令嬢? この女性が? いやいや、あまりにマナーが成っていない。侯爵令嬢の振る舞いとは思えないのですが……。
「あなたは私と結婚するのよ。愛人にするなら許してあげるからとにかく離婚してちょうだい」
「離婚? ふざけたことを。私の結婚はあなたには何の関係もない。許しを得る必要はない」
彼女のヒステリックな声は大きく屋敷中に響いた。メイナードは動揺することなくその態度は冷ややかだ。ビンガム侯爵令嬢なら妹のジリアン様だ。王が変わりすぐに姉のルシアンナ様と一緒に最近まで国外にいたはずだ。辺境にいて王都で社交をしていなかったエルシィは会ったことがなかったので顔を見るのは初めてだ。ジリアンはエルシィの存在に気付くとすうと目を細めた。
「お前が泥棒猫なのね。辺境の田舎貴族が図々しい。お前などメイナード様に相応しくないのよ。さっさと出ていきなさい!」
言うや否やエルシィの顔目がけて大きく腕を振りかぶる。打たれると思いとっさに躱した。ジリアンは盛大に空振りをした。そのままよろけて床に倒れた。ピンヒールでバランスを崩したら体勢保持は難しいからそうなるのは仕方がない。ジリアンは床の上で顔を真っ赤にして目を吊り上げた。ぶたれてあげるつもりはない。お気の毒さま~とエルシィは心の中で舌を出した。
メイナードはエルシィの前に立ち守るように自分の背に隠した。ジリアンを見下ろす目には感情がない。綺麗な顔の人が無表情で怒るとより怖い。ジリアンは怯まずにメイナードにも悪態をついた。
「メイナード様。なぜこの女を庇うの。私が倒れているのにどうして手を貸さないの?!」
「ビンガム侯爵令嬢。私の妻への侮辱は許さない。それと馴れ馴れしく私の名を呼ばないでもらおうか。不快だ」
「何ですって。メイナード様は私と結婚する約束をしていたはずよ。どういうつもりなの?」
エルシィはその言葉にメイナードを見上げた。ジリアンと結婚の約束?
「そんな約束はしていない。確かに以前、ビンガム侯爵が婚約の打診をしてきたがとっくに断っている」
ですよね! ビンガム侯爵と縁付くことを妨害するためにエルシィが結婚したのだから。
「な、なんでよ。私ほどあなたに相応しい立場の人間はいないわ。女としてもよ。それなのに……。私の両親だってそれを望んでいるわ。あなたにとっても利があるはずよ? だから早くその女を追い出して」
メイナードは表情を変えることもなく突き放す。
「ビンガム侯爵令嬢。今すぐ出て行け。そして私の目の前に二度と顔を見せるな」
ジリアンは目を見開いてわなわなと唇を震わせる。拒絶されるとは思わなかったのだろう。屈辱からか怒りで顔を真っ赤にしてエルシィをキッと睨む。
「メイナード様、あなた後悔するわよ」
そう言い捨てて帰って行った。ジリアンがいなくなるとメイナードは溜息をついた。
「エルシィ、すまない。巻き込んで」
「いえ、大丈夫です。彼女とは本当に何もなかったのですか?」
これは大事なことなので確認しておこう。
「もちろんだ。昔から言い寄られてきたが面倒な相手なので誤解をさせないように接してきたが、彼女は思い込みが激しくて冷たくしても自分の気を引きたがっていると思い込む。言葉が通じない人間だ……」
「あーー」
いますね。相手の言動を全部前向きに解釈してしまう人。でも派手だけど美人ではあったから今まで心がくらっとしたことはないのだろうか。
「本当に面倒な女だ。私も注意するがエルシィも警戒して欲しい」
「はい」
なさそうだ。ちょっと安心した。それにしても面倒な女性が増えた。ロレインだけでも荷が重いのに今後夜会で絡まれるかもしれない……。せっかくの二人の時間も台無しになってしまった。
麗しい夫を持った妻は苦労するのだ。
「このお茶の葉は輸入したものですか?」
「エルシィのために隣国から取り寄せた。気に入ったかい?」
「とっても美味しいです。きっと飲みたがる女性は多いと思いますわ」
おっとりと微笑みを浮かべる。本当なら嬉しい! でも他の女性に贈っている可能性もある。簡単に喜んではいけない。どうせロレインとか他の女性にも同じことを言って渡している。
「そうか。女性受けしそうか。ならば我が家の経営する店にも置いてみるか……」
メイナードもティーカップを口元に運び、飲みながら思案気な顔になる。そういう意味じゃなくて嫌味だったのだけど伝わらなかった。
彼の浮気防止策を考えるのは保留にしてせっかくの二人の時間を和やかに過ごしていた。ところが屋敷に思わぬ嵐がやって来た。
突如玄関が騒がしくなった。執事の制止の声が聞こえる。メイナードが不快気に眉を寄せた。すると扉がバーンと音を立てて開いた。ちょっとマナー違反! 現れたのは女性だった。彼女は猛然と扉からズカズカと部屋に入って来た。どうやら執事や従者を振り切って来たようだ。思わずメイナードとエルシィは顔を見合わせ立ち上がる。その女性は派手な化粧と露出多めのドレスを着ていた。香水の香りが部屋に充満した。臭い!
「メイナード様。結婚したって本当なの? 私という存在がありながら酷いわ。その図々しい女と今すぐ離婚してすぐに追い出して!」
この女性だれ? ロレインではなくまさか彼女こそが本命なのか。
「これはビンガム侯爵令嬢。お招きした覚えはないのですが随分な訪問ですね」
ビンガム侯爵令嬢? この女性が? いやいや、あまりにマナーが成っていない。侯爵令嬢の振る舞いとは思えないのですが……。
「あなたは私と結婚するのよ。愛人にするなら許してあげるからとにかく離婚してちょうだい」
「離婚? ふざけたことを。私の結婚はあなたには何の関係もない。許しを得る必要はない」
彼女のヒステリックな声は大きく屋敷中に響いた。メイナードは動揺することなくその態度は冷ややかだ。ビンガム侯爵令嬢なら妹のジリアン様だ。王が変わりすぐに姉のルシアンナ様と一緒に最近まで国外にいたはずだ。辺境にいて王都で社交をしていなかったエルシィは会ったことがなかったので顔を見るのは初めてだ。ジリアンはエルシィの存在に気付くとすうと目を細めた。
「お前が泥棒猫なのね。辺境の田舎貴族が図々しい。お前などメイナード様に相応しくないのよ。さっさと出ていきなさい!」
言うや否やエルシィの顔目がけて大きく腕を振りかぶる。打たれると思いとっさに躱した。ジリアンは盛大に空振りをした。そのままよろけて床に倒れた。ピンヒールでバランスを崩したら体勢保持は難しいからそうなるのは仕方がない。ジリアンは床の上で顔を真っ赤にして目を吊り上げた。ぶたれてあげるつもりはない。お気の毒さま~とエルシィは心の中で舌を出した。
メイナードはエルシィの前に立ち守るように自分の背に隠した。ジリアンを見下ろす目には感情がない。綺麗な顔の人が無表情で怒るとより怖い。ジリアンは怯まずにメイナードにも悪態をついた。
「メイナード様。なぜこの女を庇うの。私が倒れているのにどうして手を貸さないの?!」
「ビンガム侯爵令嬢。私の妻への侮辱は許さない。それと馴れ馴れしく私の名を呼ばないでもらおうか。不快だ」
「何ですって。メイナード様は私と結婚する約束をしていたはずよ。どういうつもりなの?」
エルシィはその言葉にメイナードを見上げた。ジリアンと結婚の約束?
「そんな約束はしていない。確かに以前、ビンガム侯爵が婚約の打診をしてきたがとっくに断っている」
ですよね! ビンガム侯爵と縁付くことを妨害するためにエルシィが結婚したのだから。
「な、なんでよ。私ほどあなたに相応しい立場の人間はいないわ。女としてもよ。それなのに……。私の両親だってそれを望んでいるわ。あなたにとっても利があるはずよ? だから早くその女を追い出して」
メイナードは表情を変えることもなく突き放す。
「ビンガム侯爵令嬢。今すぐ出て行け。そして私の目の前に二度と顔を見せるな」
ジリアンは目を見開いてわなわなと唇を震わせる。拒絶されるとは思わなかったのだろう。屈辱からか怒りで顔を真っ赤にしてエルシィをキッと睨む。
「メイナード様、あなた後悔するわよ」
そう言い捨てて帰って行った。ジリアンがいなくなるとメイナードは溜息をついた。
「エルシィ、すまない。巻き込んで」
「いえ、大丈夫です。彼女とは本当に何もなかったのですか?」
これは大事なことなので確認しておこう。
「もちろんだ。昔から言い寄られてきたが面倒な相手なので誤解をさせないように接してきたが、彼女は思い込みが激しくて冷たくしても自分の気を引きたがっていると思い込む。言葉が通じない人間だ……」
「あーー」
いますね。相手の言動を全部前向きに解釈してしまう人。でも派手だけど美人ではあったから今まで心がくらっとしたことはないのだろうか。
「本当に面倒な女だ。私も注意するがエルシィも警戒して欲しい」
「はい」
なさそうだ。ちょっと安心した。それにしても面倒な女性が増えた。ロレインだけでも荷が重いのに今後夜会で絡まれるかもしれない……。せっかくの二人の時間も台無しになってしまった。
麗しい夫を持った妻は苦労するのだ。
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