竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる

33.最終学年

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初夏を迎えたミール王国に朝日が昇る。
真っ暗な部屋のカーテンの隙間から、少しずつ柔らかい光が広がっていく。

誰かに髪を撫でられる感触で、目を覚ましたルーフは眉間に皺を寄せる。

「うぅー…」

まだ瞼は重く、頭も回らない。起きる事を拒否するルーフは布団に顔を埋めた。

「おはよう、ルーフ。今日は定期検診の日でしょ?起きて。美味しい朝食も用意したんだ。俺と一緒に食べよ」

覆い被さるように体重をかけられ、頬に柔らかい感触が、ちゅっ、と当たる。そのまま耳や首すじまでちゅっ、ちゅっと移動しながら布団を奪おうとする。

「んー…、やめろよ、シロ。検診は休む。まだ眠いんだ。あっち行け」

まるで恋人を起こすように寄り添ってくるシロを押し退け、ルーフは布団を奪い返して包まった。

「…ふーん。じゃあこのまま抱いていい?ルーフは寝てていいからさ」

「…ん、あ…」

そう言ってシロは、布団の中に滑り込みルーフの胸と下腹部に手を這わせた。
心地良い感覚にそのまま流されそうになったルーフだったが、相手がシロだということを思い出し飛び起きた。

「って、おい!その起こし方やめろって言っただろ!」

「だってぇ、いつまでも無防備に寝てるルーフがいけないんだろ」

口を尖らせルーフを恨めしそうに睨むのは15歳になったシロだ。

出会った頃は、体は小さく枝のようにガリガリだったシロは、この5年で体は大きく成長し、適度な筋肉が付いて逞しく頑丈になった。身長もルーフより若干低いぐらいで、きっと抜かれるのも時間の問題だ。
話し方もかなりフランクになり、自分の意思はしっかり伝えられるようになった。
肉体的にも精神的にも健康に育っている。

ただ、問題なのは隙あらば、こうして迫ってくる事だ。
5年前の夏祭りの日、急に告白してきたシロは、あの日以降、毎日のようにルーフに愛を伝えてくる。

子供の頃は、言葉と軽いハグだけで済んでいた愛情表現も、最近では際どいボディタッチまで増えてきた。

それでもルーフが「やめろ」と言えば、不本意な顔をしながら渋々諦めるので、まだ一線は超えていない。

「ったく、なにが無防備だよ。寝てる時は誰だって無防備だろうが。普通に起こせよ」

大きな欠伸をしたルーフを、シロが後ろから抱きしめた。

「ふふ、気付いてないの?ルーフは俺といる時が1番無防備なんだよ。俺を信頼して安心しきってる。俺はそんなルーフがすごく愛おしい。だから普通になんて起こせない」

シロは幸せそうに微笑んで、赤い瞳でルーフを見上げる。
そうやって見つめれば、ルーフが何も言えなくなる事を理解しているからだ。

「…アホか」

ルーフは少し照れて目線を逸らし、立ち上がった。




朝食を終えた頃、チャイムが鳴り竜人騎士団医療班所属のスノウがやって来た。

「おはようございます。左目の定期検診に来ました」

「スノウさん、いらっしゃい。いつも家まで来てもらって、すみません」

「いえいえ、仕事ですから。シロ君、また身長伸びましたね!もう僕より高い!」

竜人にしては小柄なスノウは、シロを見上げながら手をかざした。

「えへへ、成長期みたいです」

世間話をしながらシロはスノウを部屋に案内した。

スノウは、ルーフの目の検査のため年に2回ほど訪れる。
本当は竜人の国アスディアにある専門病院で検査を受けた方がいいのだが、ルーフが「竜人の国なんか絶対行きたくない!」と嫌がったためスノウが往診する事になったのだ。


スノウはルーフの傷跡に手を当て、治療魔法で状態を確認している。竜人ならではの医療方法で、長年の経験と幅広い知識がないと使いこなせない魔法だ。シロは少し離れた場所で、その様子を食い入るように観察している。

「うん、今のところ問題なさそうですね。体の不調や魔力の不具合はありませんか?」

「ねぇよ。なぁ、もう終わりでいいだろ?」

「もー、相変わらずルーフさんは医者嫌いですね。検査はこれで終わりです。でも少しでも変だなって思ったらすぐに相談してくださいね!」

「へいへい。どーもな」

ルーフは適当な返事をして、さっさと寝室に戻ってしまった。

「はぁー。信用ないなぁ。シロ君もルーフさんの様子に違和感を感じたらすぐ連絡してくださいね」

「分かりました。ありがとうございます。…あの、俺にも、その治療魔法って使えるようになりますか?」

シロは真剣な顔をしてスノウに聞いた。

「もちろんですよ。でも専門職になるので竜人騎士学校で学ぶ必要があるんですよ。シロ君は今年最終学年ですよね?竜人学校に進学するつもりはあるんですか?」

「それはありません。レニー先生の病院で医学の勉強をしつつ働くつもりです」

「そうするとそこで聖剣に関する治療を身に付けるのは難しいかと思います。独学だけじゃ習得できるような魔法じゃないんです。一度ユーロンさんに相談してみては?シロ君なら特待生で授業料免除の対象になるかもしれませんよ」

「金の問題もあるけど、俺はルーフのそばを離れたくないんです。でも今のままじゃ、ルーフの傷を治せない。それが悔しくてたまらない…」

シロはルーフが座っていたソファを見つめて拳を固く握った。
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