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5.竜人、目を覚ます

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グレイがもう一度見たいと思っていた竜人の真っ青な瞳は、やはり美しく息を飲むほど綺麗だった。

薄暗い牢の中でも、澄んだ青い瞳は輝いてみえる。
白銀や黄金も混ざっていて、まるで夜明けの空に雪の結晶が煌めいているようだった。


「…お前はだれだ?」


「…え、あ、俺?」

竜人に話しかけられ、グレイは我に返った。

「ああ、えっと、俺はグレイ。
コウモリ魔族で今日だけここの看守係を任されてるんだ。…って朝、話したんだけど覚えてない?
ほら、お前、俺に噛みついただろ?」

グレイはそう言って包帯を巻いた手を見せた。

「…ああ、なんとなく覚えている。」

竜人は夢から覚めたばかりのような気怠さで、ゆっくりとしゃべる。
まだ意識がはっきりしないのだろうか。

それでもグレイは、竜人と話している事が嬉しくてドキドキしながら竜人へ近づいた。

「なあ、体は大丈夫か?
お前さっきまで死にそうだったんだぞ。」

「大丈夫かって…、お前たち魔族のせいだろ。さっさと殺せばいいのに、しつこく拷問され続けたんだ。」

「まあ、そうみたいだね。
戦争の前線にいる魔族は、気性が荒いし残虐を好むヤツらが多いからな。強くて憧れるよな。」


「…憧れる?」

竜人に冷たく睨まれ、グレイは萎縮した。

なにか気に触ることを言ってしまったのだろうか。
しかし、強さが全ての魔族の世界で生きてきたグレイにとって理由が分からなかった。


「うん、憧れるだろ?だってすごく強いんだもん。」


「罪なき人間や竜人の命を無駄に奪い、破壊を好む魔族らしい感想だな。
本当の強さは、力を誇示する事ではない。弱い者を守り共に生きていく力こそ強さだ。」

ああ、なるほど。
そういえば昔、グリから竜人はプライドが高く、弱い人間を守り共存していく変わった連中だと言ってたな。

魔族にとって強さが正義で弱さは罪だ。

グレイは弱いせいで周りから馬鹿にされ虐められた事もあったが、誰も助けてくれなかった。
それは虐めるヤツらが悪いわけではなく、弱い自分が悪いと思っていたし、今もそう思っている。

弱い者を守るべき対象だと思う竜人は確かに変わっている、とグレイは昔のグリの話に共感した。

「じゃあさ、弱い者を守るならこの手の怪我を治してよ。お前が噛んだ所、全然血が止まらないんだ。
俺の魔力じゃ治せなかったんだ。」

グレイは包帯を外し、骨まで見えそうな深い傷口を竜人に見せた。

竜人は少し目を見開き、しばらくその傷口を見つめていた。

魔族の怪我は治してくれないのだろうか。
弱い者を守るって言ったくせに。

グレイが諦めて手を下ろそうとした時、「…傷口を私の口に当てろ」と言われた。

とりあえず言われたとおり、竜人の口元に手をやると、竜人の長い舌でペロリと舐められた。

「ひゃあ!!」

グレイはびっくりして思わず手を引っ込めた。

「ななな、何すんだよ!急に!」

グレイ自身も先程竜人の首筋を舐めたくせに、自分が舐められるとなんだか変な気持ちになってしまう。

「傷を治しただけた。本来、手を当てて治癒魔法を使うが、両手を拘束されてるからな。
使える舌を使っただけだ。」

そう言われて改めて手を見ると、噛まれた傷は跡形もなくきれいに消えていた。


「すごい。一瞬で治った!ありがとう!!」

グレイは傷があった場所を触りながら、竜人に笑顔でお礼を言った。
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