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81.恋心

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「は?」

ルーフはゆっくり振り向いた。

「グレイが人の言葉を話さないんだ。まるで弱体化した魔族みたいに…。
グレイには私の言葉が通じてるみたいだけど、私はグレイの言葉が分からなくて…。
ルーフはトトの言葉を理解してただろ?…だから、グレイとの通訳になって欲しいんだ。」

「ああ、そういう事ね。で、報酬はいくらだ?」

ルーフはルイと向き合い腕を組んだ。

「言い値で買う。頼む、お前が頼りなんだ。」

ルイはルーフに頭を下げた。

「…なぜそんなにグレイにこだわる?」

ルーフは小さな声で呟いた。
ちょうど酒屋から笑い声が聞こえ、ルーフの声は掻き消された。

「え?」

ルイは頭を上げルーフを見た。

「何でもねぇよ。…分かった。俺は報酬さえキッチリ貰えりゃどんな仕事でもいい。明日からでいいか?」

「ああ、助かる!ありがとう!」

ルイは屋敷の場所を伝えた。




ルイが部屋に戻るとグレイは小さく丸まって寝ていた。

「必ず元の姿に戻すからな。」

ルイは眠るグレイに誓った。






次の日、早速ルーフがルイの屋敷に訪れた。

「竜人公爵の屋敷っつーから期待して来たけど、随分質素な屋敷だな。」

ルイは屋敷の中を案内しながらグレイのいる部屋へ向かう。

「そうかもな。まあ、私は生活が出来ればどんな家でも構わないからな。ルーフ、お前の家はどこだ?
空いてる部屋もあるから住み込みで働くか?」

「繁華街の外れに部屋を借りてる。住み込みなんて絶対やだね。」

「はは、言うと思ったよ。
グレイはさっき起きたばかりだが、お前が来ると伝えたら喜んでるように見えたよ。」

「なんだ、そりゃ。うぜぇな。言っとくが俺とグレイは友達でも何でもねぇぞ?俺は通訳の仕事で来てるだけだ。それ以上の事はしないからな。」

「ああ、分かってる。さあ、部屋に着いた。」

ルイとルーフは扉を開け、中に入った。

「この部屋の造りって、マスターベットルームじゃねぇか。まさかグレイはお前の部屋で過ごしてるのか?」

「ああ、グレイに何かあったら困るからな。グレイは奥の寝室にいる。」

ルイは当たり前のように言ったが、ルイは眉間に皺を寄せて固まっている。

「…あのさ、お前とグレイってデキてんの?」

「は!?」

「だっていくら借りがあるって言っても普通同じ部屋で過ごさねぇだろ。グレイはお前に惚れてたみたいだけど、お前もやっぱりグレイが好きなのか?」

「好き…って、もちろん好きだが…。」

私がグレイを好き?

もちろん好きだが、それは命の恩人だからで…。
純粋なグレイの気持ちを利用した罪悪感もあって、一緒に過ごした時間はたった数日だったけど、何度も自分を助けてくれて。
いつでも本音でぶつかってくるグレイがいたから、自分の種族への偏見も変わるきっかけになった。
魔王やジルドと戦った時も命懸けで助けてくれた。

だから自分もグレイに何かあったら全力で助けたいと思った。
戦争が終わった後は、種族への偏見がなくなるような世の中を作りたいと思って奔走してきた。
そうすれば、グレイだって地上でもアスディアでも暮らしやすくなる。一緒に暮らす事だって出来る。
グレイを探し続けていたのは会いたかったから。
会って、抱きしめて…それから…。

ルイの顔は一気に赤くなり心臓がバクバクと鳴り始めた。

「え!?私はグレイに惚れてるのかっ!?」

ルイが当然叫び、ルーフはびっくりした。

「な、なんだよ、今更。惚れてるからそんなに必死で助けたいんだろ?誰が見たってお前はグレイに惚れてるだろ。」

鈍すぎるルイは50年越しにグレイへの恋心を自覚した。
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