スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第84話 パルムさんに訪れた救いの時です #1

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「パルム君、ピノ君、一区切りしたら私の部屋まで来てくれ。連絡事項がある」

ピノが戻った事でようやく落ち着きを取り戻した受付カウンター。もう間もなく人の波が途切れるであろうタイミングで、ブラックはカウンター業務を行っている受付嬢二人にそう呼び掛けた。

「連絡事項? 何だろう」
「あ、突然消える受付嬢への戦力外通告とか?」
「あれ? 否定するための材料が欠片もない……」

そんな会話を交わしながらも受付業務の手は止まる事無く、二人は次々と対応を済ませてゆく。
間もなくして受付カウンターから冒険者の姿は消え、今日の受付業務は終了した。

「失礼します。受付業務が終了しました」
片付けを終えた二人がギルドマスターの執務室に訪れると、ブラックは早速とばかりに話し始めた。
「急に呼び出してすまない。先ほど本部から連絡があった案件なのだが、君達二人には今すぐ伝えておかなければならない事なのでな。」

どうやらピノへの戦力外通告ではなさそうだ。

「実はな、明日からこのギルドに新卒職員が新人研修に来る事になったのだ」
「ああ、もうそんな時期なんですね」
思わずと言った様子で呟いたパルム。
その呟きにブラックは『うむ』と返事を返し、そして話を続ける。

「君達も覚えがあると思うが、新卒職員達は本部での様々な基礎研修、そして実地での冒険者体験研修を終えると、最後の研修となる実地業務研修に入る。その研修で今年はヒトツメギルドに2名の窓口担当が来る事となった」
窓口担当とは、いわゆる受付嬢の事である。
「1名ではなく2名の窓口担当が同時に? 珍しいですね」
「以前から本部に申請していた窓口担当の増員がようやく通ってな。その2名は研修を終えたらそのままこちらに正式配属される事になっているのだ」

それを聞いたパルムの表情がパッと明るくなる。
「ああ、これでやっと……」
心底安堵したといった様子のその姿に、ブラックとピノは揃って申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「本部からの依頼などで私とピノ君が留守になる事が続いて、パルム君にはかなりの負担を強いる事となってしまっていたからな。これまで苦労を掛けてすまなかった。今後は窓口を3名体制とし、勤務時間の短縮と休日のローテーションの改善を行う。3人体制であれば、急遽1名抜けたとしても残る2名で業務を回せるようになるはずだ」

「よかった……ようやく以前の状態に戻るんですね」
その笑顔に『ああ』と大きく頷くブラック。

「ここ暫く――特に魔法の鞄の貸し出しを開始してからは、貸し出し関連業務と持ち帰り素材の増加が窓口業務を圧迫していたからな。解体班の増員を優先したため窓口が後手に回ってしまった。すまなかったと思っている」

そしてその状態の中で度々ピノに呼び出し要請があった為、残されたパルムに掛かる負担は非常に大きかった。日中の時間帯だけであればまだそれでも良かったのだが、時には夕方まで掛かってしまう場合もある。そういった場合は臨時で他の職員が窓口を担当するなどで何とか業務を回してきた。
だが当然ながら窓口業務に不慣れな彼らは基本的な業務しか行う事が出来ないため、ややこしい話などが舞い込んだ場合は、どうしてもパルム頼りとなってしまっていたのだ。

そして今日発生したピノの突然の離脱。これはもう完全に私的理由による業務放棄である。いくらカルアの命が掛かっていたとしてもだ。
カルアを助けて戻ってきたピノは突然抜けた事をパルムに平謝りしたが、そんなピノを笑顔で許したパルム。むしろ『帰ってきてくれてありがとう』とまで言ったのである。
――その目に薄っすらと涙を浮かべて。



「それでだ、明日から研修に来る2名というのは双子の姉妹でな、名を『パピ』と『ピコ』という。本部の話では二人とも即戦力級だそうだ」
「ほー、研修直後で即戦力ですか。それはまたかなり優秀ですね」
「ああ。これは聞いた話だが、彼女達は在学中、長期休暇の度に地元で冒険者ギルドの業務手伝いを行っていたそうだ。臨時見習い制度を利用してな」

冒険者クラスであれば長期休暇では冒険者としての活動を行うのが一般的であるが、希望すれば『臨時見習い』としてギルドで働く事も出来る。
「何でも彼女らの母親と姉が地元のギルドの名物受付嬢らしくてな、その影響で彼女らも小さい頃から受付嬢を志望していたとの事だ」
「それはまた……受付嬢一家かぁ……」
「そしてその子達も、受付嬢のサラブレッドという訳ね……」

「うむ。そういう事情もあり、ヒトツメ固有の状況や業務の説明が済めばそのままローテーションに参加出来るとの事だ。なので初日となる明日は君達二人とも来てもらうが、その翌日からは交代で未取得の休みを取得するようにな」

『はいっ』と力強く返事する二人。溜まりまくっていた休暇が、これでようやく消化できる!

「あと、ピノ君にはまた本部から業務指示が来ている。学校からの依頼で、今度は冒険者クラスに所属する『とあるパーティ』への短期特別指導との事だ。開始日は追って連絡する」
「分かりました」
「では話は以上だ。明日から頼むぞ」



そして翌日――
「本日よりこちらでお世話になりますパピです」
「本日よりこちらでお世話になりますピコです」
「「どうぞよろしくお願いします」」

冒険者体験研修によるものだろうか。どちらも小麦色に焼けた肌が眩しい、そして瓜二つな容姿の二人である。そんな彼女達を簡単に見分けられる大きな特徴は、その髪型で――
「姉のパピが左テール、妹のピコが右テールと覚えてください。私達姉妹はこのテールで繋がって生まれてきた、という設定です」

「「いや設定って……」」
どう反応するのが正解なのか……これまで培ってきた受付嬢スキルをもってしても、ピノとパルムにその答えは見つけられなかった。

「すみません、今のは姉のちょっとした双子ジョークです。テールをパキっと折って二人に分かれた――なんて事実は無かったらいいなあって思います。これは周りの人たちが見分け易くするのを目的にやってるだけ、そうご認識ください」

「「はあ……」」
ここ、笑えばいいのだろうか?
結局最後までどんな顔をすればいいのか分からないまま、曖昧な返事となってしまう先輩受付嬢達だった。
(早く慣れて正解を見つけなきゃ)

そんな不安なスタートではあったが、研修が始まると新人達は前評判に違わぬ有能ぶりを発揮し始め、そしてピノとパルムもまた無事パピとピコのペースに順応アジャストしていった。

こうしてこの2名の新人受付嬢増員によってヒトツメギルド窓口の混雑状況はその後劇的に改善され、某ガラス工房長から『この嬢ちゃん達の職場って実はうちよりブラックなんじゃ……いやうちはもうホワイトじゃよ?』などと突っ込まれる未来は回避されたのである。
そしてギルド名物となりつつあったパルムの悲鳴もまた……



フタツメの街に戻った僕達はクーラ先生お勧めの食堂で晩御飯を済ませ、ホテルに戻ってきた。
「さてと、今日はこれで解散よ。明日はギルドに行くから今日はゆっくりと休みなさい。身体を休めてコンディションを整えるのだって冒険のうちなんだから、今から出掛けようなんて考えちゃだめよ?」

それで部屋に戻ったんだけど、今から出掛ける元気なんてもちろんなく、そのままベッドに倒れ込んだ。はぁ、色々あり過ぎて、もう疲……れ…………
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