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4月30日(日)
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ケトルでお湯を沸かしながら、お茶請けになるようなものが何かあったかしら、とお菓子入れを覗く。ソファの上で寝静まっている子供たち向けの物しかなさそうに思える。
どうしたものかと思案していると、車が止まり、玄関から色んな音が聞こえてくる。買い物袋を下げた康徳さんが、「ごめん、ごめん。遅くなった」とリビングに入ってきた。テーブルに置いた袋の中には、柏餅とちまきが入っていた。
「緑茶はコッチ」
康徳さんは肩にかけた袋から、お茶の袋を取り出して渡しに差し出した。残りは冷蔵庫の前に行って、野菜室なり、冷凍庫なりに詰め込んでいく。彼はパパッと片付けて、洗面所へ手を洗いに行った。私は彼が戻ってくる前にお茶を淹れ、お客さん用の湯飲みも準備して食卓についた。
「すみません、座ったままで」
康徳さんの赤が入ったコピー用紙を二人で話し込んでいた小野寺さんと、そのお友達の野村さんが顔を上げた。小野寺さんは、野村さんに書類と文具を片付けるように促しつつ、お茶の準備を手伝ってくれた。野村さんもカバンに荷物を仕舞い終えると、「何から何まで、すみません」と、頭を下げた。
「ああ、いいの。座ってて」
彼女まで席を立って手伝おうとしてくれるけど、広いとは言い切れないキッチンに、そんなに大勢は入らない。小野寺さんに和菓子をセットしてもらい、ポットに追加のお湯を足して、席に着く。康徳さんは私の隣に座ると、スッとピンクの味噌餡に手を伸ばした。
「ちょっ、お客さんより先に取るなんて」
彼はさっさと葉っぱを剥がして、餅にかじりついている。
「こちらが何も持たずに押し掛けてるので、気にしないでください」
「本当に、すみません」
小野寺さんと野村さんは、同時に頭を下げる。康徳さんは私の方を見ながら、何事もなかったかのように、餅の残りを口に放り込んだ。
「なっちゃんの分も、選んで」
「いいんですか?」
彼の言葉に、野村さんは私の顔も見る。私が頷くと、彼女は「じゃあ、遠慮なく」と白いこし餡、よもぎの粒餡を選んだ。よもぎの方はふんわりとラップで包んでおく。
私はもう一つの粒餡を手に取ってかじりついた。小野寺さん、野村さんも美味しそうに柏餅を食べている。一人先に食べ終えた康徳さんは、私たちを眺めながら、空いた手でスマホを弄っていた。
「昨日の香帆さん、見に行った?」
彼は、小野寺さんたちに、スマホの画面を差し出した。昨日の春フェス会場で撮影した、香帆さんと義姉さんの写真。ちょっと離れたところで、運転手らしい武藤さんのお父さんの姿も写っている。
お餅を食べ切った小野寺さんは手を拭いて、彼からスマホを受け取った。何枚かスライドして、実母の活躍ぶりを眺めていた。隣から野村さんも画面を覗き込み、「へー、かっこいいね」と、小野寺さんに囁いた。
「収支はまだ未確定だけど、そこそこ儲かったんだって」
小野寺さんからスマホを返してもらいながら、康徳さんは言った。
「今度の茨音も、ねじ込んでもらったんだって?」
「みたいですね。サポートというか、間借りみたいな形らしいですけど」
康徳さんは「みたいですね、ってルミちゃんの頑張りでしょ?」と、小野寺さんに突っ込んだ。彼女は「いえいえ、私の影響力なんて微々たるもので」と小さくなりながら頭を掻いた。
楽しそうな雰囲気を壊さないようにスッとキッチンに戻り、ポットに残りのお湯を足す。時計を見ると、そろそろ午後5時になりそうだ。遅くなってしまったけど、お米を研いで夕食の準備も進めねば......。
どうしたものかと思案していると、車が止まり、玄関から色んな音が聞こえてくる。買い物袋を下げた康徳さんが、「ごめん、ごめん。遅くなった」とリビングに入ってきた。テーブルに置いた袋の中には、柏餅とちまきが入っていた。
「緑茶はコッチ」
康徳さんは肩にかけた袋から、お茶の袋を取り出して渡しに差し出した。残りは冷蔵庫の前に行って、野菜室なり、冷凍庫なりに詰め込んでいく。彼はパパッと片付けて、洗面所へ手を洗いに行った。私は彼が戻ってくる前にお茶を淹れ、お客さん用の湯飲みも準備して食卓についた。
「すみません、座ったままで」
康徳さんの赤が入ったコピー用紙を二人で話し込んでいた小野寺さんと、そのお友達の野村さんが顔を上げた。小野寺さんは、野村さんに書類と文具を片付けるように促しつつ、お茶の準備を手伝ってくれた。野村さんもカバンに荷物を仕舞い終えると、「何から何まで、すみません」と、頭を下げた。
「ああ、いいの。座ってて」
彼女まで席を立って手伝おうとしてくれるけど、広いとは言い切れないキッチンに、そんなに大勢は入らない。小野寺さんに和菓子をセットしてもらい、ポットに追加のお湯を足して、席に着く。康徳さんは私の隣に座ると、スッとピンクの味噌餡に手を伸ばした。
「ちょっ、お客さんより先に取るなんて」
彼はさっさと葉っぱを剥がして、餅にかじりついている。
「こちらが何も持たずに押し掛けてるので、気にしないでください」
「本当に、すみません」
小野寺さんと野村さんは、同時に頭を下げる。康徳さんは私の方を見ながら、何事もなかったかのように、餅の残りを口に放り込んだ。
「なっちゃんの分も、選んで」
「いいんですか?」
彼の言葉に、野村さんは私の顔も見る。私が頷くと、彼女は「じゃあ、遠慮なく」と白いこし餡、よもぎの粒餡を選んだ。よもぎの方はふんわりとラップで包んでおく。
私はもう一つの粒餡を手に取ってかじりついた。小野寺さん、野村さんも美味しそうに柏餅を食べている。一人先に食べ終えた康徳さんは、私たちを眺めながら、空いた手でスマホを弄っていた。
「昨日の香帆さん、見に行った?」
彼は、小野寺さんたちに、スマホの画面を差し出した。昨日の春フェス会場で撮影した、香帆さんと義姉さんの写真。ちょっと離れたところで、運転手らしい武藤さんのお父さんの姿も写っている。
お餅を食べ切った小野寺さんは手を拭いて、彼からスマホを受け取った。何枚かスライドして、実母の活躍ぶりを眺めていた。隣から野村さんも画面を覗き込み、「へー、かっこいいね」と、小野寺さんに囁いた。
「収支はまだ未確定だけど、そこそこ儲かったんだって」
小野寺さんからスマホを返してもらいながら、康徳さんは言った。
「今度の茨音も、ねじ込んでもらったんだって?」
「みたいですね。サポートというか、間借りみたいな形らしいですけど」
康徳さんは「みたいですね、ってルミちゃんの頑張りでしょ?」と、小野寺さんに突っ込んだ。彼女は「いえいえ、私の影響力なんて微々たるもので」と小さくなりながら頭を掻いた。
楽しそうな雰囲気を壊さないようにスッとキッチンに戻り、ポットに残りのお湯を足す。時計を見ると、そろそろ午後5時になりそうだ。遅くなってしまったけど、お米を研いで夕食の準備も進めねば......。
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