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12月5日(火)
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遊び疲れた娘たちは、二人ともソファの上で横になっている。子供部屋から毛布を取ってきて、起こさないように注意しながらかけてあげた。
「ベッドに連れて行った方がいいんじゃないの?」
食卓でコーヒーを飲んでいた母が、二人の寝顔を見ながら言った。
「お風呂もまだだし、孫の寝顔をじっくり見たいでしょ?」
私は亜衣の口元の汚れを優しく拭きながら、母に向けて言った。映美の方はそこまで汚れていないらしい。
「私のことなんか気にしないで、お風呂に入れちゃいな」
母の言うことももっともだけど、ようやくひと段落ついたところ。康徳さんももうそろそろ帰る頃だし、本格的にベッドへ連れていくのはそれからでもいい。お風呂に入れるのも、旦那にお願いしよう。
二人ともぐっすり寝ているのを確かめて、私は母の向かいに座った。彼女はそこでコーヒーカップに手を添えたまま、孫娘の方を眺めている。
「近くで見てきたら?」
母は首を振って、「起こしちゃ悪いから」と言った。私は「そんなこと、気にしなくてもいいのに」と言いながら、卓上に放り出してあったレシートを引き寄せた。金額を確かめながら、財布を開く。
母は私の動きを見ながら、「ああ、いい」と手を振った。
「本当にいいの?」
「いいよ、タマには。お父さんも、外で飲んでるし」
父の件と、母が今夜の食費を出してくれるのがどう関係しているのかはよく分からないけど、康徳さんが外食するからと宅配ピザを取ってしまった私には、異議を唱える余地はない。
「で、そっちはどう?」
「も~、バッタバタ」
牧人のところに晴ちゃんが生まれて、半年ちょっと。まだまだ実家で同居には至らないようだけど、受け入れを見越した掃除や片付けが大変らしい。私たちも時々手伝いに行くものの、そんなに手助けができているとは思えない。
「じゃあ、やっぱり年始は長居しない方がいい?」
私の質問に、母が顔を歪めながら考え込む。
「お泊まりは全然いいんだけど、牧人たちの予定がまだ分からなくって」
「あ~、なるほど。じゃあ、それが分かってから」
「ごめんね。そうしてくれる?」
私は「了解」と応えながら、手元にメモを引き寄せて「後日連絡」と書き殴った。雄輔も同じタイミングで帰ってくるなら、上手に調整しないとダメ、か。
「でも、もう確定しないとお節とか大変なんじゃないの?」
「本当にねぇ。あんたはどうすんの?」
「ウチはまだ、クリスマスとかもあるから……」
母と違って、手作りするとも限らないし、そもそも大した物は毎年作らない。子供らがもう少し大きくなってきたら、そういうのもやんなきゃいけない気もするけど、その時はその時で助けてもらおう。
母の方を見ると、彼女は娘たちの方を見ていた。コーヒーを飲み切り、時計を見上げると、「さて、そろそろ帰ろうかな」と言った。
「康徳さんはまだなんでしょ?」
彼女にそう言われてスマホを確かめるものの、「帰る」というメッセージはまだ来ていない。母は椅子から腰を上げ、静かに伸びをした。私は娘たちの様子を見に近寄った。
「起こさなくていいよ」
母はそう言いながら、パパッとコートを着て、マフラーを巻いた。そそくさと玄関の方へ向かう。せめて玄関までは見送らなければと、私は慌てて母の背中を追いかけた。
「ベッドに連れて行った方がいいんじゃないの?」
食卓でコーヒーを飲んでいた母が、二人の寝顔を見ながら言った。
「お風呂もまだだし、孫の寝顔をじっくり見たいでしょ?」
私は亜衣の口元の汚れを優しく拭きながら、母に向けて言った。映美の方はそこまで汚れていないらしい。
「私のことなんか気にしないで、お風呂に入れちゃいな」
母の言うことももっともだけど、ようやくひと段落ついたところ。康徳さんももうそろそろ帰る頃だし、本格的にベッドへ連れていくのはそれからでもいい。お風呂に入れるのも、旦那にお願いしよう。
二人ともぐっすり寝ているのを確かめて、私は母の向かいに座った。彼女はそこでコーヒーカップに手を添えたまま、孫娘の方を眺めている。
「近くで見てきたら?」
母は首を振って、「起こしちゃ悪いから」と言った。私は「そんなこと、気にしなくてもいいのに」と言いながら、卓上に放り出してあったレシートを引き寄せた。金額を確かめながら、財布を開く。
母は私の動きを見ながら、「ああ、いい」と手を振った。
「本当にいいの?」
「いいよ、タマには。お父さんも、外で飲んでるし」
父の件と、母が今夜の食費を出してくれるのがどう関係しているのかはよく分からないけど、康徳さんが外食するからと宅配ピザを取ってしまった私には、異議を唱える余地はない。
「で、そっちはどう?」
「も~、バッタバタ」
牧人のところに晴ちゃんが生まれて、半年ちょっと。まだまだ実家で同居には至らないようだけど、受け入れを見越した掃除や片付けが大変らしい。私たちも時々手伝いに行くものの、そんなに手助けができているとは思えない。
「じゃあ、やっぱり年始は長居しない方がいい?」
私の質問に、母が顔を歪めながら考え込む。
「お泊まりは全然いいんだけど、牧人たちの予定がまだ分からなくって」
「あ~、なるほど。じゃあ、それが分かってから」
「ごめんね。そうしてくれる?」
私は「了解」と応えながら、手元にメモを引き寄せて「後日連絡」と書き殴った。雄輔も同じタイミングで帰ってくるなら、上手に調整しないとダメ、か。
「でも、もう確定しないとお節とか大変なんじゃないの?」
「本当にねぇ。あんたはどうすんの?」
「ウチはまだ、クリスマスとかもあるから……」
母と違って、手作りするとも限らないし、そもそも大した物は毎年作らない。子供らがもう少し大きくなってきたら、そういうのもやんなきゃいけない気もするけど、その時はその時で助けてもらおう。
母の方を見ると、彼女は娘たちの方を見ていた。コーヒーを飲み切り、時計を見上げると、「さて、そろそろ帰ろうかな」と言った。
「康徳さんはまだなんでしょ?」
彼女にそう言われてスマホを確かめるものの、「帰る」というメッセージはまだ来ていない。母は椅子から腰を上げ、静かに伸びをした。私は娘たちの様子を見に近寄った。
「起こさなくていいよ」
母はそう言いながら、パパッとコートを着て、マフラーを巻いた。そそくさと玄関の方へ向かう。せめて玄関までは見送らなければと、私は慌てて母の背中を追いかけた。
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