2023 森田芽衣編

仮面ライター

文字の大きさ
18 / 21

12月5日(火)

しおりを挟む
 遊び疲れた娘たちは、二人ともソファの上で横になっている。子供部屋から毛布を取ってきて、起こさないように注意しながらかけてあげた。
「ベッドに連れて行った方がいいんじゃないの?」
 食卓でコーヒーを飲んでいた母が、二人の寝顔を見ながら言った。
「お風呂もまだだし、孫の寝顔をじっくり見たいでしょ?」
 私は亜衣の口元の汚れを優しく拭きながら、母に向けて言った。映美の方はそこまで汚れていないらしい。
「私のことなんか気にしないで、お風呂に入れちゃいな」
 母の言うことももっともだけど、ようやくひと段落ついたところ。康徳さんももうそろそろ帰る頃だし、本格的にベッドへ連れていくのはそれからでもいい。お風呂に入れるのも、旦那にお願いしよう。
 二人ともぐっすり寝ているのを確かめて、私は母の向かいに座った。彼女はそこでコーヒーカップに手を添えたまま、孫娘の方を眺めている。
「近くで見てきたら?」
 母は首を振って、「起こしちゃ悪いから」と言った。私は「そんなこと、気にしなくてもいいのに」と言いながら、卓上に放り出してあったレシートを引き寄せた。金額を確かめながら、財布を開く。
 母は私の動きを見ながら、「ああ、いい」と手を振った。
「本当にいいの?」
「いいよ、タマには。お父さんも、外で飲んでるし」
 父の件と、母が今夜の食費を出してくれるのがどう関係しているのかはよく分からないけど、康徳さんが外食するからと宅配ピザを取ってしまった私には、異議を唱える余地はない。
「で、そっちはどう?」
「も~、バッタバタ」
 牧人のところに晴ちゃんが生まれて、半年ちょっと。まだまだ実家で同居には至らないようだけど、受け入れを見越した掃除や片付けが大変らしい。私たちも時々手伝いに行くものの、そんなに手助けができているとは思えない。
「じゃあ、やっぱり年始は長居しない方がいい?」
 私の質問に、母が顔を歪めながら考え込む。
「お泊まりは全然いいんだけど、牧人たちの予定がまだ分からなくって」
「あ~、なるほど。じゃあ、それが分かってから」
「ごめんね。そうしてくれる?」
 私は「了解」と応えながら、手元にメモを引き寄せて「後日連絡」と書き殴った。雄輔も同じタイミングで帰ってくるなら、上手に調整しないとダメ、か。
「でも、もう確定しないとお節とか大変なんじゃないの?」
「本当にねぇ。あんたはどうすんの?」
「ウチはまだ、クリスマスとかもあるから……」
 母と違って、手作りするとも限らないし、そもそも大した物は毎年作らない。子供らがもう少し大きくなってきたら、そういうのもやんなきゃいけない気もするけど、その時はその時で助けてもらおう。
 母の方を見ると、彼女は娘たちの方を見ていた。コーヒーを飲み切り、時計を見上げると、「さて、そろそろ帰ろうかな」と言った。
「康徳さんはまだなんでしょ?」
 彼女にそう言われてスマホを確かめるものの、「帰る」というメッセージはまだ来ていない。母は椅子から腰を上げ、静かに伸びをした。私は娘たちの様子を見に近寄った。
「起こさなくていいよ」
 母はそう言いながら、パパッとコートを着て、マフラーを巻いた。そそくさと玄関の方へ向かう。せめて玄関までは見送らなければと、私は慌てて母の背中を追いかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...