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12月29日(金)
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コーヒー豆が焙煎される香りを身体中に浴びながら、私たちはホイップクリームが添えられたバームクーヘンに、フォークを入れた。クリームを乗せて口に運ぶ。
「うん、美味しい」
向かいに座る史穂さんは、コーヒーとのマリアージュも含めた感想を言った。
決して広くはないお店に、定期的に人が入ってきては、コーヒー豆や焙煎を頼んでいく。お隣のお客さんも、焙煎待ちついでにお茶をされている人らしい。
「年内は今日までなんだって」
史穂さんに言われて、「あ~、なるほど」と膝を叩いた。そういえば、この辺りのお店も何件かは「謹賀新年」や「賀正」と書かれた年末年始休業の案内を出していた。
「ウチも形の上では昨日からお休みなんだけど、出社しないだけでカタカタやってるわ」
「ウチもです」
史穂さんは、「それ、ウチのせいよね? ごめんなさい」と言った。私は即座に「いえいえ、とんでもないです」と答えた。
「森田さんご夫妻には、大変お世話になりました。また、来年もよろしくお願いします」
「ああ、いえ、こちらこそ、お世話になりました」
史穂さんが深々と頭を下げるから、私も頭を下げた。向こうがなかなか頭を上げないから、こちらも頭を上げにくい。たっぷり間を置いて、史穂さんが頭を上げ、私も合わせるように頭を上げた。
史穂さんは、思い出したようにフォークを手に取り、バームクーヘンを一口大に切る。
「今日は、お嬢ちゃんたちは?」
「旦那と、私の下の弟が」
彼女は新しく入ってきたお客さんを目で追いかけながら、コーヒーカップを口元に運んだ。
「お宅は?」
「ウチはほら、みんな自由だから」
史穂さんは、ケラケラと笑いながら言った。二人とも思春期、中高生ともなると手がかからなくなるのも当然か。いつかウチも、そんな風になるんだろうか。それはそれで楽なんだろうなと思う反面、寂しい気もする。
「あそこで芽衣さんとすれ違ったおかげで、私も今、ちょっとだけ自由だし」
彼女はニコッと笑った。そんな彼女はかなりの軽装、私も大した荷物もなく、すぐそこの駅前ですれ違った。彼女は向こうの郵便局へ、私はすぐそこの銀行へ。年内最後の平日にバタバタしていたら、史穂さんとすれ違って、「ちょっとお茶しない?」と今に至る。
「あ、もしかしてすぐに帰らなきゃいけなかった?」
私がぼんやりしていると、史穂さんが申し訳なさそうに言った。私は慌てて、「いえ、全然、大丈夫です」と言った。
「良かったー。この時期はどうしても、私たち主婦はバタバタするもんね」
彼女は残りのバームクーヘンを食べ、コーヒーを飲んだ。お皿に残っていたクリームを上手にフォークの上へ乗せていく。
「だから、休める時には休んどかないと」
かき集めたクリームは口に入るのかと思いきや、コーヒーの中に投入された。コーヒーをよくかき混ぜながら、「ね?」と私に笑いかけた。私も釣られて、ふふっと笑ってしまった。
史穂さんは、私が食べ終わるのを待ってくれた。私が取ろうと思った伝票を彼女は目の前でサッと持って行って、私が財布を出す前に払い終わってしまった。
お店の外に出て、横の駐輪スペースに止めた自転車のカギを外しながら、「すみません、ご馳走様です」と言うと、彼女は「気にしないで」と自転車のスタンドを上げた。
「じゃあ、良いお年を」
史穂さんは狭い歩道を、自転車を押しながら駅の方へ歩いて行った。私はそれを見送りながら、反対方向へ自転車を押して歩く。彼女も今頃、自転車に跨っているんだろうなと思いながら、周囲を見回した。
「うん、美味しい」
向かいに座る史穂さんは、コーヒーとのマリアージュも含めた感想を言った。
決して広くはないお店に、定期的に人が入ってきては、コーヒー豆や焙煎を頼んでいく。お隣のお客さんも、焙煎待ちついでにお茶をされている人らしい。
「年内は今日までなんだって」
史穂さんに言われて、「あ~、なるほど」と膝を叩いた。そういえば、この辺りのお店も何件かは「謹賀新年」や「賀正」と書かれた年末年始休業の案内を出していた。
「ウチも形の上では昨日からお休みなんだけど、出社しないだけでカタカタやってるわ」
「ウチもです」
史穂さんは、「それ、ウチのせいよね? ごめんなさい」と言った。私は即座に「いえいえ、とんでもないです」と答えた。
「森田さんご夫妻には、大変お世話になりました。また、来年もよろしくお願いします」
「ああ、いえ、こちらこそ、お世話になりました」
史穂さんが深々と頭を下げるから、私も頭を下げた。向こうがなかなか頭を上げないから、こちらも頭を上げにくい。たっぷり間を置いて、史穂さんが頭を上げ、私も合わせるように頭を上げた。
史穂さんは、思い出したようにフォークを手に取り、バームクーヘンを一口大に切る。
「今日は、お嬢ちゃんたちは?」
「旦那と、私の下の弟が」
彼女は新しく入ってきたお客さんを目で追いかけながら、コーヒーカップを口元に運んだ。
「お宅は?」
「ウチはほら、みんな自由だから」
史穂さんは、ケラケラと笑いながら言った。二人とも思春期、中高生ともなると手がかからなくなるのも当然か。いつかウチも、そんな風になるんだろうか。それはそれで楽なんだろうなと思う反面、寂しい気もする。
「あそこで芽衣さんとすれ違ったおかげで、私も今、ちょっとだけ自由だし」
彼女はニコッと笑った。そんな彼女はかなりの軽装、私も大した荷物もなく、すぐそこの駅前ですれ違った。彼女は向こうの郵便局へ、私はすぐそこの銀行へ。年内最後の平日にバタバタしていたら、史穂さんとすれ違って、「ちょっとお茶しない?」と今に至る。
「あ、もしかしてすぐに帰らなきゃいけなかった?」
私がぼんやりしていると、史穂さんが申し訳なさそうに言った。私は慌てて、「いえ、全然、大丈夫です」と言った。
「良かったー。この時期はどうしても、私たち主婦はバタバタするもんね」
彼女は残りのバームクーヘンを食べ、コーヒーを飲んだ。お皿に残っていたクリームを上手にフォークの上へ乗せていく。
「だから、休める時には休んどかないと」
かき集めたクリームは口に入るのかと思いきや、コーヒーの中に投入された。コーヒーをよくかき混ぜながら、「ね?」と私に笑いかけた。私も釣られて、ふふっと笑ってしまった。
史穂さんは、私が食べ終わるのを待ってくれた。私が取ろうと思った伝票を彼女は目の前でサッと持って行って、私が財布を出す前に払い終わってしまった。
お店の外に出て、横の駐輪スペースに止めた自転車のカギを外しながら、「すみません、ご馳走様です」と言うと、彼女は「気にしないで」と自転車のスタンドを上げた。
「じゃあ、良いお年を」
史穂さんは狭い歩道を、自転車を押しながら駅の方へ歩いて行った。私はそれを見送りながら、反対方向へ自転車を押して歩く。彼女も今頃、自転車に跨っているんだろうなと思いながら、周囲を見回した。
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