死神憑きの微笑み

戸山紫煙

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陰陽庁

その全貌

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エレベーターが着くと二人は乗り込んだ。
静かに動くエレベーターの中は二人の会話もなく静まり返っていた。やがて7階へと着く。
7階の廊下は夕日に照らされてほんのり明るかったが誰も居らず静かである。
「行こうか。」
志木河は廊下を歩き出す。それを追うように沙夜も歩きだした。
窓から見える景色は大きな公園の緑と都会のビル群の灰色。空は夕日と混ざって紫色に照らされている。その世界に二人の足音だけが響く。
「ここ、入って。」
部屋には703会議室と書かれている。
『会議室?』
沙夜は疑いを持ちながら志木河が開けたドアをくぐる。中は大学の小さい講義室のように綺麗に机と椅子が並べられており、見るからに会議室といった雰囲気だ。
「ここが、陰陽庁?」
「いや、ちょっと仕掛けがあってね。」
と言いながら志木河は会議室の前方にある排気口をいじり始める。排気口は普通に比べるとやや大きく、不自然な感じもある。
ガチャンー
「ここの中、行くよ、大丈夫?」
排気口の蓋が外され大人一人がギリギリ通れるかの道が開かれた。志木河はその中に行くことを促している。
「え、ここですか?」
「大丈夫。危なくないから。」
そう言って志木河は排気口の中へ進む。沙夜は仕方なくその後を追ってかがんで排気口の中を行く。
真っ暗な排気口の中を志木河はスマホのライトで照らしながら進む。やがて排気口は幅が広くなっていき、立ち上がって歩けるほどの高さになっていった。
行き止まりに着くと、先程警備員に見せたカードを扉にかざしてドアを開けた。
開いた扉の向こうはコンピュータがたくさんある部屋と複数の厳重そうな扉が広がっていた。天井は普通の高さになっており、理科室のような素材で作られた床が広がっている。
「ここ、これが陰陽庁。」
志木河は沙夜を振り返り、周囲を見せた。沙夜は信じられない光景に言葉を失う。
「陰陽庁…本当に…」
「さ、こっち来て。」
志木河は厳重そうな扉の一つに進んでいく。入り口付近のパソコンをいじっている人は志木河に会釈し、不思議そうに沙夜を見ていた。
沙夜は志木河についていき、扉のそばまで近づいた。
志木河は重い扉を開く。その先には見たこともないような実験機械がたくさん並べられているのが見える。沙夜は怖気付いて志木河の影に隠れた。
「大丈夫。何もしないからさ。」
沙夜を諭して扉の向こうへ誘導すると一緒に志木河も扉の向こうへ入った。
複雑な機械の薬品の匂いや実験動物の獣の匂いが少しだけ漂う。その機械に紛れて奥に人の気配がした。
「おい、じいさん。連れてきたよ。」
志木河は声を大きめにして奥にいる人物へ声をかけた。
奥の人物は気づいたのかよろよろと機械の間から出てきた。
「お、おお、志木河くん。おお、このお嬢さんが。」
いかにもな科学者といった出立で、汚れた白衣に白髪の混じった薄い頭髪、眼鏡をかけた60歳くらいの小柄な男が声をかける。
「ああ、例の“死神憑き”だ。」
「こんな若い子が…かわいそうに。」
沙夜は訳もわからない様子で志木河や小柄な男を交互に見る。
「や、すまんね。私は小岩井秀夫。陰陽庁の研究者だよ。」
小柄な男は後頭部を掻きながら自己紹介をした。それから彼と志木河はよくわからない小難しい話のやりとりをしていた。しばらくすると志木河が沙夜に話しかける。
「君に憑いている“死神”を取りたいと思ってる。そのために仕事してくれるのが、小岩井博士だ。」
急な紹介に沙夜は戸惑った。これまでの出来事、不幸なことは自分のせいだと思っていたのにそれが死神の仕業だと言われたこと、それを取り除くと言われたこと、そしてそれまでにあった沢山の悲しいこと。全てが脳裏をよぎった。
「死神を…取ってくれるんですか?」
「ああ、嫌というなら…しないが、どうだろう。」
全てが頭をかすめた沙夜にとって断る理由はなかった。それと同時にふっと涙が浮かんできた。
「お願い…します…」
考えるより先に沙夜の口から言葉が漏れた。この言葉に志木河と小岩井は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべるのだった。
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