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壱:集会
壱の四:集会/カミソリと呼ばれた男
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俺が言い放った言葉を耳にして、何人かが怒りの形相で睨んでいる。それを意に介する事なく立ち上がり向き直れば、まさに一触触発。このままでは埒があかない。
第一、このような形で揉め事を起こす事のメリットがない。今回の集会の責任者である天龍のオヤジに恥をかかせるにしても、榊原自らがここに来ているのがそもそもおかしいのだ。
騒動を起こすなら、それこそ息のかかった子飼いの連中に暴れさせればいい。あとからシラを切れば足がつくこともないだろう。なのに人目につくところに親分格が自ら顔を晒すことにどんな意味があるというのだろう?
――何を考えているんだこいつ?――
したり顔を垣間見せている榊原に俺は内心苛立っていた。と、その時だ――
「お前ら。破門になりたいのか?」
――やや甲高く鋭いトーンの威圧感のある声が響く。聞き覚えのあるあの人の声だ。周囲の視線が一斉にそちらを向く。
鈍い光沢のある暗灰色の三つ揃え高級スーツに身を包み髪はポマードでかっちりとなでつけている。カニ目のメガネをかけており、濃朱のYシャツにクリーム色のネクタイ。独特の美意識を宿したシルエットはその人ならではのものだった。その人の名は緋色会に身を置く者なら、嫌でも知ることになる。
その人の名は氷室淳美と言う――
「明――」
何者かが不用意にとある名前を呼ぼうとする。だが――
「やれ」
――その人は冷酷に声を発する。その声と同時に、どこから現れたのか一切の物音無しに〝制裁〟を加える。
漆黒の燕尾服と白磁のYシャツ姿のその人は、榊原の傍らの一人に瞬時に肉薄すると弾丸のようなインパクトで鋭い蹴りを繰り出した。
――スパンッ!――
高速のパンチでサンドバックを叩いたような音がして、不用意な声を発した男は糸が切れたように崩れ落ちた。
それは華麗なまでの延髄蹴り、ノーモーションで繰り出された右のつま先が、いとも簡単に一人の人間の意識を刈りとった。
日本刀か弾丸でも抜き放たれたかのような出来事に、その場に居た者たちが言葉を失っている。蹴りのたった一発で、相手を言いくるめる手間もかけずに一気にその場を掌握してしまった事になる。
おそらくは全て計算の上だろう。つくづく思うが、恐ろしい人だ。
「ご苦労」
氷室のオジキはねぎらいの声を発した。その傍らには命令をこなし終えた一人の〝ピアニスト〟が佇んでいる。
その人は氷室さんが子飼いにしている者で名を〝コクラ〟と言う。東欧だかどこかのハーフだそうで、表向きはフリーのピアニストとして活躍しつつ、裏では氷室の直属のエージェントとして諜報や暗殺などに密命を受けて動いている。特技はその鋭い蹴り技で、ピアニストと言う職業柄か手は戦闘には使わないそうだ。
「軽口たたきは死ぬぞ。お前ら。いいか、一度しか言わん――」
氷室のオジキは一呼吸置いた。メガネのレンズ越しに、飢えた毒蛇のような視線が光っていた。
「――手を煩わせるな。さっさと裏口に移動しろ。異論も反論も後で聞く。いいか10秒以内だ」
オジキの言葉がヒヤリとするような残響を残している。ごねる人間は誰も居ない。
「おい」
そこでやっと榊原が声を発した。それが合図となり、榊原とその子分たちは速やかに移動していく。車に乗ってあらためて所定の裏口ルートへと入り直すためだ。歩き始めたそいつらに氷室のオジキは告げる。
「事前指定された入場ルートは使うな。別ルートを使え」
念を押すその言葉に榊原の舌打ちが聞こえる。その後に――
「あぁ」
――とだけ答えが帰ってきた。
思わぬトラブルの種が姿を消すと同時に氷室のオジキの声は俺へとかけられた。
「おい」
「はい」
俺は振り向きつつ返答する。氷室のオジキは、数歩進み出てきた俺とすれ違い際にそっと耳打ちする。。
「入場Bルートの場外誘導役と連絡がつかない」
たったそれだけだが、それが意味するところを理解したとたん、俺の背中は瞬間的に凍りついた。
予想外の事実に俺はヒヤリとする。だが氷室のオジキはその言葉だけを残して姿を消した。
そもそも今回の秘密集会は、一般向けのカモフラージュの正面入口とは別に、俺達のような〝本職〟の人間たちのために、集集会会場への秘密入場ルートが複数設けられている。目立たないように分散しながら会場へとたどり着くのだ。
無論、そのためにはノーガイドと言うわけには行かない。誘導役が会場外の周辺にいたるところに隠されて配置されているのだが、その一つのルートと連絡が取れない――
――まさか!?――
――その事実の重さに俺は背筋が凍った。
入場誘導の失敗、そしてその責任は当然、会場運営総括である天龍のオヤジにかかってくることになる。
俺は動揺しそうになる自分を抑えながら、部下たちに指示を発した。
『要介護者2名を回収、しかるのちに各自持ち場に戻れ。1名残留して警察などの介入を警戒しろ』
部下たちは視線で互いに合図しながら本来の持ち場に戻る。この場には牛尾が残った。
俺は牛尾と視線で合図を交わすとその場をあとにした。
全員の入場が終わるのを確認し終えれば、次は集会会場内部の監視と警備に重点が移行する。
――いやな予感がする――
俺は内心、そう思いながら、これから起きるであろう出来事を予想せずには居られなかった。
さらなる指示を下す。
『巡回1番』
『はい』
俺は木原に声をかけた。
『入場Bルートの誘導担当を探せ。運営本部と連絡が取れないそうだ』
『了解、3人ほど連れて行きます』
『よし、なにかわかったら報告しろ』
『了解。行動開始します』
行動が早いのが木原の特徴だ。自分の脚についてこれる人間に声をかけるとすぐに姿を消した。
今は報告を待つしか無い。
第一、このような形で揉め事を起こす事のメリットがない。今回の集会の責任者である天龍のオヤジに恥をかかせるにしても、榊原自らがここに来ているのがそもそもおかしいのだ。
騒動を起こすなら、それこそ息のかかった子飼いの連中に暴れさせればいい。あとからシラを切れば足がつくこともないだろう。なのに人目につくところに親分格が自ら顔を晒すことにどんな意味があるというのだろう?
――何を考えているんだこいつ?――
したり顔を垣間見せている榊原に俺は内心苛立っていた。と、その時だ――
「お前ら。破門になりたいのか?」
――やや甲高く鋭いトーンの威圧感のある声が響く。聞き覚えのあるあの人の声だ。周囲の視線が一斉にそちらを向く。
鈍い光沢のある暗灰色の三つ揃え高級スーツに身を包み髪はポマードでかっちりとなでつけている。カニ目のメガネをかけており、濃朱のYシャツにクリーム色のネクタイ。独特の美意識を宿したシルエットはその人ならではのものだった。その人の名は緋色会に身を置く者なら、嫌でも知ることになる。
その人の名は氷室淳美と言う――
「明――」
何者かが不用意にとある名前を呼ぼうとする。だが――
「やれ」
――その人は冷酷に声を発する。その声と同時に、どこから現れたのか一切の物音無しに〝制裁〟を加える。
漆黒の燕尾服と白磁のYシャツ姿のその人は、榊原の傍らの一人に瞬時に肉薄すると弾丸のようなインパクトで鋭い蹴りを繰り出した。
――スパンッ!――
高速のパンチでサンドバックを叩いたような音がして、不用意な声を発した男は糸が切れたように崩れ落ちた。
それは華麗なまでの延髄蹴り、ノーモーションで繰り出された右のつま先が、いとも簡単に一人の人間の意識を刈りとった。
日本刀か弾丸でも抜き放たれたかのような出来事に、その場に居た者たちが言葉を失っている。蹴りのたった一発で、相手を言いくるめる手間もかけずに一気にその場を掌握してしまった事になる。
おそらくは全て計算の上だろう。つくづく思うが、恐ろしい人だ。
「ご苦労」
氷室のオジキはねぎらいの声を発した。その傍らには命令をこなし終えた一人の〝ピアニスト〟が佇んでいる。
その人は氷室さんが子飼いにしている者で名を〝コクラ〟と言う。東欧だかどこかのハーフだそうで、表向きはフリーのピアニストとして活躍しつつ、裏では氷室の直属のエージェントとして諜報や暗殺などに密命を受けて動いている。特技はその鋭い蹴り技で、ピアニストと言う職業柄か手は戦闘には使わないそうだ。
「軽口たたきは死ぬぞ。お前ら。いいか、一度しか言わん――」
氷室のオジキは一呼吸置いた。メガネのレンズ越しに、飢えた毒蛇のような視線が光っていた。
「――手を煩わせるな。さっさと裏口に移動しろ。異論も反論も後で聞く。いいか10秒以内だ」
オジキの言葉がヒヤリとするような残響を残している。ごねる人間は誰も居ない。
「おい」
そこでやっと榊原が声を発した。それが合図となり、榊原とその子分たちは速やかに移動していく。車に乗ってあらためて所定の裏口ルートへと入り直すためだ。歩き始めたそいつらに氷室のオジキは告げる。
「事前指定された入場ルートは使うな。別ルートを使え」
念を押すその言葉に榊原の舌打ちが聞こえる。その後に――
「あぁ」
――とだけ答えが帰ってきた。
思わぬトラブルの種が姿を消すと同時に氷室のオジキの声は俺へとかけられた。
「おい」
「はい」
俺は振り向きつつ返答する。氷室のオジキは、数歩進み出てきた俺とすれ違い際にそっと耳打ちする。。
「入場Bルートの場外誘導役と連絡がつかない」
たったそれだけだが、それが意味するところを理解したとたん、俺の背中は瞬間的に凍りついた。
予想外の事実に俺はヒヤリとする。だが氷室のオジキはその言葉だけを残して姿を消した。
そもそも今回の秘密集会は、一般向けのカモフラージュの正面入口とは別に、俺達のような〝本職〟の人間たちのために、集集会会場への秘密入場ルートが複数設けられている。目立たないように分散しながら会場へとたどり着くのだ。
無論、そのためにはノーガイドと言うわけには行かない。誘導役が会場外の周辺にいたるところに隠されて配置されているのだが、その一つのルートと連絡が取れない――
――まさか!?――
――その事実の重さに俺は背筋が凍った。
入場誘導の失敗、そしてその責任は当然、会場運営総括である天龍のオヤジにかかってくることになる。
俺は動揺しそうになる自分を抑えながら、部下たちに指示を発した。
『要介護者2名を回収、しかるのちに各自持ち場に戻れ。1名残留して警察などの介入を警戒しろ』
部下たちは視線で互いに合図しながら本来の持ち場に戻る。この場には牛尾が残った。
俺は牛尾と視線で合図を交わすとその場をあとにした。
全員の入場が終わるのを確認し終えれば、次は集会会場内部の監視と警備に重点が移行する。
――いやな予感がする――
俺は内心、そう思いながら、これから起きるであろう出来事を予想せずには居られなかった。
さらなる指示を下す。
『巡回1番』
『はい』
俺は木原に声をかけた。
『入場Bルートの誘導担当を探せ。運営本部と連絡が取れないそうだ』
『了解、3人ほど連れて行きます』
『よし、なにかわかったら報告しろ』
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今は報告を待つしか無い。
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