ブラザーフッド:インテリヤクザと三下ヤクザの洒落にならない話 【全話執筆完了!毎日更新中!】

美風慶伍

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参:明治村・前編

参の壱:明治村前編/金沢監獄

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 明治村――
 愛知県犬山市にある野外博物館。
 1965年の開設以来、貴重な明治時代ゆかりの建物や施設を移築し、今日に残していた。
 高校の頃、就学旅行で立ち寄った記憶があるが、はたして何年前だったろうか。
 昔の記憶はとうに霞んでいた。それに今は物見遊山ではない。組織の――、いや、俺の〝親〟の命運がかかっているのだ。
 とは言え目に入ったものは興味が沸く。それがヤクザにはつきものの刑務所となれば見てみようかという気にもなる。
 俺は田沼へのうんちくを垂れながら建物の中を歩いていた。
 
「すごいですね。こんなところに入れられてたんだ」
「暖房なんかねぇからな。温暖化前だから冬場なんか相当寒かった。桶の中の氷の張った水を割りながら顔を洗ったって話もあるくらいだからな」
「話だけで鳥肌立ってきますね」
「この頃はそれが当然だったんだ。何しろ――」

 俺たちは今〝監獄〟の中に居た。
 
――金沢監獄中央看守所・監房――

 明治時代の刑務所である金沢監獄の保存建築物だ。ヤクザである以上、俺たちもいつ厄介になるとも限らない。
 
「――何しろ、人権思想なんて無いからな。犯罪者を矯正する施設じゃなく、処罰する施設なんだ。痛い苦しいはむしろ当然だったのさ」

 俺と田沼が足を止めると、独房の中が覗ける位置に有った。中では当時の橙色の麻の監獄衣を着させられた囚人のマネキンが正座させられていた。
 
「見ろ」

 俺があごでしゃくって指し示した先には、当時の囚人どもの食事が並べられていた。
 
「これだけ?」

 流石に田沼が驚いている。並んでいるのは飯と味噌汁、昼と夜にわずかに漬物、肉や魚は一切ない。
 
「これで一年通じて休み無く重労働をさせられてたんだ。たとえば網走監獄の有る北海道――明治大正期には囚人たちが作った道路が山ほどある。作業途中に怪我して死んでもそのまま路傍に埋められたなんて話もある。人の命なんて吹けば飛ぶような時代だったのさ」

 俺のこの話を田沼は神妙な顔で聞いている。なにか思うところがあるようだが、俺は掘り下げなかった。

「行くぞ――」
 
 俺は田沼に声をかけながら歩き出す。物見遊山も程々にしよう。
 
「――これから起こることに備えて状況を下見するぞ」
「はい」

 俺たちは監獄をあとにした。
 もっとも、世の中が危険に満ちた今の時代と、まだまだ人間がゆったりと流れていた時代。どちらが幸せなのか、俺にはわからなかった。
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