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参:明治村・前編
参の弐:明治村前編/村内下見
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明治村の敷地内を俺は時間をかけてゆっくりと回った。
物見遊山として遊びで見ているわけじゃない。これから起こりうることつぶさに想定して一つ一つを確認していた。
敵の攻撃パターン。
身を隠す場所。
逃走経路。
そして――
「仕掛けるならここいらか」
――こちらからの攻撃場所。
俺の頭の中では相手となる連中が何を考慮しているのか大体想像がついていた。
「やっぱり、反撃は必要ですか?」
「多分な。おそらくやっこさんが狙ってるのは――」
俺は足元の砂利を踏みしめながらさりげなく視線を巡らせて歩いていた。
「――俺たちの〝面接〟だ」
「〝面接〟――俺たちの実力を探ろうってわけですね」
「まあそれが妥当だろうな。最終決定権のすべてはこっちじゃなくて向こうにある。派遣されてきた交渉役に取引に値する実力が見いだせなければ、俺達だけじゃなく全てが見くびられる。そうなれば緋色会はともかく、俺のオヤジは命脈を絶たれる」
無論そうなれば俺たちも終わりだ。
手を差し伸べてくれるものは誰もなくなり、詰め腹切らされて命を落とすか、一生をゴミのように逃げて回るかしかなくなるのだ。
「今何時だ?」
俺は隣の田沼に時間を尋ねた。大体の時間は把握していたが田沼のやつにも時間感覚を促すためだ。
「4時50分、もう少しです」
「よし、散開するぞ。トイレで適当にやり過ごせ」
「はい」
日がな一日ずっと敵の出方を待った。だが動きは何もない。衆目のある昼間ではなく、夜間に何かをしでかすつもりなのだろう。
だがそうなると問題はセキュリティだ。
設備本来のセキュリティが生きている状態でやりあうか、もしくは向こうがあの連中がこの明治村のセキュリティ設備を完全掌握した上で俺達と遊ぼうとしていると言うことだ。
「後者だな」
誰にも聞かれない状況で俺はそっとつぶやく。
とある建物の男子トイレの個室の中、閉館時間を知らせるアナウンスを耳にする。トイレ個室の一つ一つを確かめる素振りはない。念のため余裕を持って20分ほどそのまま待機する。
季節柄、日が沈むのは早い。トイレを出て建物の外に出ればそこはすでに夜のとばりの中だったのだ。
視線を走らせれば、少し離れたところに田沼が佇んでいるのがわかった。
向こうも俺に気づいたらしくすぐに近づいてくる。
「――準備はいいか」
「はい」
落ち着いた声が返ってくる。田沼のやつも腹がくくり始まっていた。
「奴らが来るぞ」
俺の脳裏の中で〝勘〟が働いていた。いよいよ面接が始まるのだ。
† † †
――明治村――
明治時代に建築された著名な建築物を日本中から集めて移築した記念公園だ。
その敷地は想像以上に広く、全体が五つに分かれている。
正面入り口がある〝一丁目〟
そのすぐ隣でレンガ通りのある〝二丁目〟
さらにその隣、隣接する湖に突き出した〝三丁目〟
そこから北へと移動、SL・市電・バスと言った交通機関のある〝四丁目〟
最初に俺たちが監獄を見学した〝五丁目〟
これらの位置関係を頭の中に叩き込む。
おそらく戦いは営業時間後の明かりの落ちた暗がりの中になるからだ。
自分が現在どこにいるのか?
それが頭の中に入っていなければ逃げ回ることしかできない。
そしてそれは同行する田沼も同じだ。俺は奴にカマをかける。
「ブラジル移民の住宅ってどこだっけ」
「四丁目、六郷川鉄橋の隣ですね」
「カレーパンは?」
「二丁目、赤レンガ通りの入り口です」
「それじゃ、日本庭園」
「一丁目、和食レストランの真裏です、湖に突き出したところで背後に崖があります」
もういい、十分だ。
「合格だ。よく覚えてたな?」
俺が満足げに語れば田沼は言う。
「暗がりの中で走り回ることになりますからね。どこに何があるのか頭に叩き込まないと。迷子になったら命取りです」
「分かってるじゃねえか」
「ええ」
そう答えると田沼は意味深に続けた。
「これぐらいの頭のめぐりを良くしとかないと〝あいつ〟のところじゃあっという間に死にますから」
〝あいつ〟――その言葉の意味が俺にはすぐに分かった。
「榊原か」
「――はい」
田沼は低い声ではっきりと告げた。
「それじゃ、その知恵と努力。今夜俺のために使ってもらうぞ」
「もちろんです」
その横顔に覚悟が浮かんでいる。ならば目上の者として俺はその覚悟を無駄にするわけにはいかない。
「行くぞ。どこで出くわすかわからんがとりあえず四丁目の辺りに行こう」
「はい」
物見遊山として遊びで見ているわけじゃない。これから起こりうることつぶさに想定して一つ一つを確認していた。
敵の攻撃パターン。
身を隠す場所。
逃走経路。
そして――
「仕掛けるならここいらか」
――こちらからの攻撃場所。
俺の頭の中では相手となる連中が何を考慮しているのか大体想像がついていた。
「やっぱり、反撃は必要ですか?」
「多分な。おそらくやっこさんが狙ってるのは――」
俺は足元の砂利を踏みしめながらさりげなく視線を巡らせて歩いていた。
「――俺たちの〝面接〟だ」
「〝面接〟――俺たちの実力を探ろうってわけですね」
「まあそれが妥当だろうな。最終決定権のすべてはこっちじゃなくて向こうにある。派遣されてきた交渉役に取引に値する実力が見いだせなければ、俺達だけじゃなく全てが見くびられる。そうなれば緋色会はともかく、俺のオヤジは命脈を絶たれる」
無論そうなれば俺たちも終わりだ。
手を差し伸べてくれるものは誰もなくなり、詰め腹切らされて命を落とすか、一生をゴミのように逃げて回るかしかなくなるのだ。
「今何時だ?」
俺は隣の田沼に時間を尋ねた。大体の時間は把握していたが田沼のやつにも時間感覚を促すためだ。
「4時50分、もう少しです」
「よし、散開するぞ。トイレで適当にやり過ごせ」
「はい」
日がな一日ずっと敵の出方を待った。だが動きは何もない。衆目のある昼間ではなく、夜間に何かをしでかすつもりなのだろう。
だがそうなると問題はセキュリティだ。
設備本来のセキュリティが生きている状態でやりあうか、もしくは向こうがあの連中がこの明治村のセキュリティ設備を完全掌握した上で俺達と遊ぼうとしていると言うことだ。
「後者だな」
誰にも聞かれない状況で俺はそっとつぶやく。
とある建物の男子トイレの個室の中、閉館時間を知らせるアナウンスを耳にする。トイレ個室の一つ一つを確かめる素振りはない。念のため余裕を持って20分ほどそのまま待機する。
季節柄、日が沈むのは早い。トイレを出て建物の外に出ればそこはすでに夜のとばりの中だったのだ。
視線を走らせれば、少し離れたところに田沼が佇んでいるのがわかった。
向こうも俺に気づいたらしくすぐに近づいてくる。
「――準備はいいか」
「はい」
落ち着いた声が返ってくる。田沼のやつも腹がくくり始まっていた。
「奴らが来るぞ」
俺の脳裏の中で〝勘〟が働いていた。いよいよ面接が始まるのだ。
† † †
――明治村――
明治時代に建築された著名な建築物を日本中から集めて移築した記念公園だ。
その敷地は想像以上に広く、全体が五つに分かれている。
正面入り口がある〝一丁目〟
そのすぐ隣でレンガ通りのある〝二丁目〟
さらにその隣、隣接する湖に突き出した〝三丁目〟
そこから北へと移動、SL・市電・バスと言った交通機関のある〝四丁目〟
最初に俺たちが監獄を見学した〝五丁目〟
これらの位置関係を頭の中に叩き込む。
おそらく戦いは営業時間後の明かりの落ちた暗がりの中になるからだ。
自分が現在どこにいるのか?
それが頭の中に入っていなければ逃げ回ることしかできない。
そしてそれは同行する田沼も同じだ。俺は奴にカマをかける。
「ブラジル移民の住宅ってどこだっけ」
「四丁目、六郷川鉄橋の隣ですね」
「カレーパンは?」
「二丁目、赤レンガ通りの入り口です」
「それじゃ、日本庭園」
「一丁目、和食レストランの真裏です、湖に突き出したところで背後に崖があります」
もういい、十分だ。
「合格だ。よく覚えてたな?」
俺が満足げに語れば田沼は言う。
「暗がりの中で走り回ることになりますからね。どこに何があるのか頭に叩き込まないと。迷子になったら命取りです」
「分かってるじゃねえか」
「ええ」
そう答えると田沼は意味深に続けた。
「これぐらいの頭のめぐりを良くしとかないと〝あいつ〟のところじゃあっという間に死にますから」
〝あいつ〟――その言葉の意味が俺にはすぐに分かった。
「榊原か」
「――はい」
田沼は低い声ではっきりと告げた。
「それじゃ、その知恵と努力。今夜俺のために使ってもらうぞ」
「もちろんです」
その横顔に覚悟が浮かんでいる。ならば目上の者として俺はその覚悟を無駄にするわけにはいかない。
「行くぞ。どこで出くわすかわからんがとりあえず四丁目の辺りに行こう」
「はい」
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