ブラザーフッド:インテリヤクザと三下ヤクザの洒落にならない話 【全話執筆完了!毎日更新中!】

美風慶伍

文字の大きさ
29 / 78
参:明治村・前編

参の弐:明治村前編/村内下見

しおりを挟む
 明治村の敷地内を俺は時間をかけてゆっくりと回った。
 物見遊山として遊びで見ているわけじゃない。これから起こりうることつぶさに想定して一つ一つを確認していた。
 敵の攻撃パターン。
 身を隠す場所。
 逃走経路。
 そして――

「仕掛けるならここいらか」

――こちらからの攻撃場所。

 俺の頭の中では相手となる連中が何を考慮しているのか大体想像がついていた。

「やっぱり、反撃は必要ですか?」
「多分な。おそらくやっこさんが狙ってるのは――」

 俺は足元の砂利を踏みしめながらさりげなく視線を巡らせて歩いていた。

「――俺たちの〝面接〟だ」
「〝面接〟――俺たちの実力を探ろうってわけですね」
「まあそれが妥当だろうな。最終決定権のすべてはこっちじゃなくて向こうにある。派遣されてきた交渉役に取引に値する実力が見いだせなければ、俺達だけじゃなく全てが見くびられる。そうなれば緋色会はともかく、俺のオヤジは命脈を絶たれる」

 無論そうなれば俺たちも終わりだ。
 手を差し伸べてくれるものは誰もなくなり、詰め腹切らされて命を落とすか、一生をゴミのように逃げて回るかしかなくなるのだ。

「今何時だ?」

 俺は隣の田沼に時間を尋ねた。大体の時間は把握していたが田沼のやつにも時間感覚を促すためだ。

「4時50分、もう少しです」
「よし、散開するぞ。トイレで適当にやり過ごせ」
「はい」

 日がな一日ずっと敵の出方を待った。だが動きは何もない。衆目のある昼間ではなく、夜間に何かをしでかすつもりなのだろう。
 だがそうなると問題はセキュリティだ。
 設備本来のセキュリティが生きている状態でやりあうか、もしくは向こうがあの連中がこの明治村のセキュリティ設備を完全掌握した上で俺達と遊ぼうとしていると言うことだ。
 
「後者だな」

 誰にも聞かれない状況で俺はそっとつぶやく。
 とある建物の男子トイレの個室の中、閉館時間を知らせるアナウンスを耳にする。トイレ個室の一つ一つを確かめる素振りはない。念のため余裕を持って20分ほどそのまま待機する。
 季節柄、日が沈むのは早い。トイレを出て建物の外に出ればそこはすでに夜のとばりの中だったのだ。
 視線を走らせれば、少し離れたところに田沼が佇んでいるのがわかった。
 向こうも俺に気づいたらしくすぐに近づいてくる。

「――準備はいいか」
「はい」

 落ち着いた声が返ってくる。田沼のやつも腹がくくり始まっていた。

「奴らが来るぞ」

 俺の脳裏の中で〝勘〟が働いていた。いよいよ面接が始まるのだ。


 †     †     †


――明治村――

 明治時代に建築された著名な建築物を日本中から集めて移築した記念公園だ。
 その敷地は想像以上に広く、全体が五つに分かれている。
 正面入り口がある〝一丁目〟
 そのすぐ隣でレンガ通りのある〝二丁目〟
 さらにその隣、隣接する湖に突き出した〝三丁目〟
 そこから北へと移動、SL・市電・バスと言った交通機関のある〝四丁目〟
 最初に俺たちが監獄を見学した〝五丁目〟
 これらの位置関係を頭の中に叩き込む。
 おそらく戦いは営業時間後の明かりの落ちた暗がりの中になるからだ。
 自分が現在どこにいるのか?
 それが頭の中に入っていなければ逃げ回ることしかできない。
 そしてそれは同行する田沼も同じだ。俺は奴にカマをかける。

「ブラジル移民の住宅ってどこだっけ」
「四丁目、六郷川鉄橋の隣ですね」
「カレーパンは?」
「二丁目、赤レンガ通りの入り口です」
「それじゃ、日本庭園」
「一丁目、和食レストランの真裏です、湖に突き出したところで背後に崖があります」

 もういい、十分だ。

「合格だ。よく覚えてたな?」

 俺が満足げに語れば田沼は言う。

「暗がりの中で走り回ることになりますからね。どこに何があるのか頭に叩き込まないと。迷子になったら命取りです」
「分かってるじゃねえか」
「ええ」

 そう答えると田沼は意味深に続けた。

「これぐらいの頭のめぐりを良くしとかないと〝あいつ〟のところじゃあっという間に死にますから」

 〝あいつ〟――その言葉の意味が俺にはすぐに分かった。

「榊原か」
「――はい」

 田沼は低い声ではっきりと告げた。

「それじゃ、その知恵と努力。今夜俺のために使ってもらうぞ」
「もちろんです」

 その横顔に覚悟が浮かんでいる。ならば目上の者として俺はその覚悟を無駄にするわけにはいかない。

「行くぞ。どこで出くわすかわからんがとりあえず四丁目の辺りに行こう」
「はい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...