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sideフィーナ
尊き最高の日々
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また別のある日のこと、私は二人が廊下で立ち話をしているところを発見した。
耳に届く心地いい笑い声は、二人が着実に良好な関係を築いていることを表している。
「二人の関係は順調ね。うーん、でも……たまにまだよそよそしい時があるのよね」
二人きりの時はピタリとくっつくように身を寄せ合っているけれど、今いる廊下や食堂といったように、人目につくところでは一定の距離を保っている。節度があって好ましく思えるけれど、私からしたら人前でももっとイチャつけ! と思ってしまう。使用人たちだって、屋敷の主人夫婦が仲良しこよしで嬉しいに決まっているもの。
さてさて、今日も少しお節介を焼くとしますか。
私はお母様の背後に回り込み、気配を殺してゆっくりと接近する。
お母様にぶつかるふりをしてお父様に抱きとめさせる作戦よ!
ハァ……ハァ……とこの後の展開を妄想して激る気持ちを抑えながら、ジリジリとお母様の背後に忍び寄る。
「……はっ!」
よーし、と両手を引いたところで、二人の背後にヌッと現れたクロエとバチンと視線が交わった。
うっ……ま、まずいわ!
お母様を押そうものなら、流石にひどく叱られてしまうだろう。
そう思って渋々両手を下げようとして――
クロエがため息を吐きながら、フイと視線を逸らせた。
こ、これは……!
分かる。分かるわ!私には分かる!
これは、(まったく……仕方がありませんね。文字通り目を瞑ってあげます)ということね、クロエ!!
その証拠に、決定的瞬間を捉えるべくクロエは薄目を開けている。
よーし、任せてちょうだい! 仕切り直して……
「おっとっとぉ~、フィーちゃんつまづいちゃいましたわ!」
「きゃっ、フィ、フィー!? わっ」
「おっ、と……大丈夫か?」
「あ……す、すみませんっ」
「いや、いい。気にするな」
私がぶつかったことでよろけたお母様をしっかとお父様が抱き留めた。
見間違いじゃなければ、ちゃっかりお母様の腰を抱き寄せている。あまりの至近距離にお母様は頬を薔薇色に染めているし……お互いがお互いに釘付けになって瞳を潤ませている。二人の顔が近い。
カーーーーッ!!! 尊いッ!!! ピュアかっ!!!
やだもう!!! 好きっ!!!
グッジョブ過ぎるわ、私。
尊い尊い尊い!!! 今すぐ布団にダイブしてのたうち回りたい!!!
悶えながら二人の後方にいるクロエに視線を向けると――
クロエあなた……手で口元を隠しているけれど、肩が震えているじゃない。分かるわ~~~!!!
あまりの尊さに打ち震えているのね!! 後で存分に語り合いましょう。
「はっ! フィ、フィーナ? 大丈夫? どこかぶつけたのかしら……」
「ごほん。フィーナ、危ないだろう、気をつけなさい」
「ぐふ……はっ! は、はい。きをつけまちゅ」
私がピュアピュアでラブラブな波動に耐えきれずに両手で顔を覆ってうずくまったから、お父様とお母様が心配して側に寄ってきた。
「問題ありません。萌えの過剰摂取による発作です」
サッと素早く私の背後に立ったクロエが、ひょいと私を抱き上げて自室へと連れて行ってくれた。
「もえ……? 過剰摂取……?」
後ろからは戸惑う両親二人の声が聞こえて来た。
部屋に帰ってしばらくしてから心配した二人が様子を見に来てくれた。
優しくて尊い両親に囲まれて、本当に毎日幸せだわっ!
◇◇◇
お父様とお母様に連れられて街に出かけたある日の夜。
私はすっかり日課となったクロアネ観察日記にペンを走らせている。
さて、確かそろそろ王都での社交シーズンね。
辺境伯領は王都からかなり遠いし、国境の警備があるから長期間この地を不在にすることはできない。
けれど、王家主催の大きなパーティには参加するはずだ。
そう、そのパーティで原作小説だとクロヴィスがヒロインと出会うのよね。王都まで連れ出すのは憚れると、アネットは留守番させられて。
でも、今のクロヴィスお父様は、王都にアネットお母様を連れていくはず。
二人の関係は気兼ねなく遠方のパーティへの同伴を頼めるほどにまでは発展している。
「うん、二人でいればヒロインがお父様に接近することはないでしょうね。でも、念には念を入れておかなきゃね」
不測の事態が起こることだって考えられる。
例えば、ヒロインも私のような転生者であるといった場合。原作通りにクロヴィスお父様を待ち構えている可能性だってある。
「よし! どうにかして私も王都に連れていってもらわないとね!」
もし、本当にヒロインが現れたら?
フフン、いくらヒロインとはいえ、もう私の推しカプの間に割って入る余地はないわ!!!
むしろ二人の尊さをこれでもかと布教してあげる所存よ。実は、密かに発足を試みている推しカプ愛好会に引き込もうと思っているわ。メンバーはもちろん、私、クロエ、ヒロインね! メンバーは随時募集中よ!
さあ、どこからでもかかってらっしゃい!!!
――こうして、推しカプ守り隊を自称するフィーナの目論見通り、いずれ現れるヒロインもアネットとクロヴィス夫婦の虜となる……のかもしれない。
おしまい
ーーーーー
ちょっと続きを描いてみました!
ヒロイン登場させるなら長くなるので中編~長編で連載したいですね。。。
ちょっと書籍化作業などが落ち着いたら考えるかもしれない。連載できるかは神のみぞ知る。
耳に届く心地いい笑い声は、二人が着実に良好な関係を築いていることを表している。
「二人の関係は順調ね。うーん、でも……たまにまだよそよそしい時があるのよね」
二人きりの時はピタリとくっつくように身を寄せ合っているけれど、今いる廊下や食堂といったように、人目につくところでは一定の距離を保っている。節度があって好ましく思えるけれど、私からしたら人前でももっとイチャつけ! と思ってしまう。使用人たちだって、屋敷の主人夫婦が仲良しこよしで嬉しいに決まっているもの。
さてさて、今日も少しお節介を焼くとしますか。
私はお母様の背後に回り込み、気配を殺してゆっくりと接近する。
お母様にぶつかるふりをしてお父様に抱きとめさせる作戦よ!
ハァ……ハァ……とこの後の展開を妄想して激る気持ちを抑えながら、ジリジリとお母様の背後に忍び寄る。
「……はっ!」
よーし、と両手を引いたところで、二人の背後にヌッと現れたクロエとバチンと視線が交わった。
うっ……ま、まずいわ!
お母様を押そうものなら、流石にひどく叱られてしまうだろう。
そう思って渋々両手を下げようとして――
クロエがため息を吐きながら、フイと視線を逸らせた。
こ、これは……!
分かる。分かるわ!私には分かる!
これは、(まったく……仕方がありませんね。文字通り目を瞑ってあげます)ということね、クロエ!!
その証拠に、決定的瞬間を捉えるべくクロエは薄目を開けている。
よーし、任せてちょうだい! 仕切り直して……
「おっとっとぉ~、フィーちゃんつまづいちゃいましたわ!」
「きゃっ、フィ、フィー!? わっ」
「おっ、と……大丈夫か?」
「あ……す、すみませんっ」
「いや、いい。気にするな」
私がぶつかったことでよろけたお母様をしっかとお父様が抱き留めた。
見間違いじゃなければ、ちゃっかりお母様の腰を抱き寄せている。あまりの至近距離にお母様は頬を薔薇色に染めているし……お互いがお互いに釘付けになって瞳を潤ませている。二人の顔が近い。
カーーーーッ!!! 尊いッ!!! ピュアかっ!!!
やだもう!!! 好きっ!!!
グッジョブ過ぎるわ、私。
尊い尊い尊い!!! 今すぐ布団にダイブしてのたうち回りたい!!!
悶えながら二人の後方にいるクロエに視線を向けると――
クロエあなた……手で口元を隠しているけれど、肩が震えているじゃない。分かるわ~~~!!!
あまりの尊さに打ち震えているのね!! 後で存分に語り合いましょう。
「はっ! フィ、フィーナ? 大丈夫? どこかぶつけたのかしら……」
「ごほん。フィーナ、危ないだろう、気をつけなさい」
「ぐふ……はっ! は、はい。きをつけまちゅ」
私がピュアピュアでラブラブな波動に耐えきれずに両手で顔を覆ってうずくまったから、お父様とお母様が心配して側に寄ってきた。
「問題ありません。萌えの過剰摂取による発作です」
サッと素早く私の背後に立ったクロエが、ひょいと私を抱き上げて自室へと連れて行ってくれた。
「もえ……? 過剰摂取……?」
後ろからは戸惑う両親二人の声が聞こえて来た。
部屋に帰ってしばらくしてから心配した二人が様子を見に来てくれた。
優しくて尊い両親に囲まれて、本当に毎日幸せだわっ!
◇◇◇
お父様とお母様に連れられて街に出かけたある日の夜。
私はすっかり日課となったクロアネ観察日記にペンを走らせている。
さて、確かそろそろ王都での社交シーズンね。
辺境伯領は王都からかなり遠いし、国境の警備があるから長期間この地を不在にすることはできない。
けれど、王家主催の大きなパーティには参加するはずだ。
そう、そのパーティで原作小説だとクロヴィスがヒロインと出会うのよね。王都まで連れ出すのは憚れると、アネットは留守番させられて。
でも、今のクロヴィスお父様は、王都にアネットお母様を連れていくはず。
二人の関係は気兼ねなく遠方のパーティへの同伴を頼めるほどにまでは発展している。
「うん、二人でいればヒロインがお父様に接近することはないでしょうね。でも、念には念を入れておかなきゃね」
不測の事態が起こることだって考えられる。
例えば、ヒロインも私のような転生者であるといった場合。原作通りにクロヴィスお父様を待ち構えている可能性だってある。
「よし! どうにかして私も王都に連れていってもらわないとね!」
もし、本当にヒロインが現れたら?
フフン、いくらヒロインとはいえ、もう私の推しカプの間に割って入る余地はないわ!!!
むしろ二人の尊さをこれでもかと布教してあげる所存よ。実は、密かに発足を試みている推しカプ愛好会に引き込もうと思っているわ。メンバーはもちろん、私、クロエ、ヒロインね! メンバーは随時募集中よ!
さあ、どこからでもかかってらっしゃい!!!
――こうして、推しカプ守り隊を自称するフィーナの目論見通り、いずれ現れるヒロインもアネットとクロヴィス夫婦の虜となる……のかもしれない。
おしまい
ーーーーー
ちょっと続きを描いてみました!
ヒロイン登場させるなら長くなるので中編~長編で連載したいですね。。。
ちょっと書籍化作業などが落ち着いたら考えるかもしれない。連載できるかは神のみぞ知る。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(7件)
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読了ありがとうございます!
ヒロイン出すとしても、私自身がストレス展開嫌いなのでうまくコメディにまとめたいと思います笑
フィーナの言う通り、推し活仲間に引き込めればなと思ってますw
色々設定広がりそうですよね。
長編化するかはまだ分かりませんが、その時は色々考えたいと思います。
フィーナ劇場にお付き合いいただきありがとうございました(*´꒳`*)
クロエには着実に伝播していますねw
二人三脚でこれからも夫婦関係にいいスパイスを施していくことでしょう笑
それこそフィーナの目指す姿かもしれませんね!
多分そのうち屋敷内で夫婦の同人誌がひっそりと流行します…笑
ありがとうございますw
ぜひ一緒に拳を突き上げてください(,,•ω•,,)و
接着剤になるべく頑張ってもらいます!
そうですそうです。
きっと素敵な家族になりますね( ˘ω˘ )