侯爵令嬢は悪霊憑き〜婚約破棄なんてやめて!私に害を加えると霊たちが貴方を呪い殺してしまいます!〜【全5話完結済】

水都 ミナト

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婚約解消?マジですか

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「ルウシェ、俺たちの婚約を白紙に戻そう」
「はい…?」

 燦々と降り注ぐ陽気の元、青々と色づく木々や色とりどりの花々が溢れる自慢のお庭で、私、ルウシェ・レイミエールの目の前に座っている婚約者様は表情ひとつ変えずにとんでもないことを言い出した。

「えっ、と…今なんと?」

 きっと聞き間違いだろう。そう思いピクピクと引き攣る頬を無理矢理上げて笑顔を作り、私は婚約者のノロワレール侯爵家のご令息であるレイナード様に再度問いかけた。

 レイナード様はため息を一つ落とすと、真っ直ぐに私の目を見て再び口を開いた。

「婚約を解消しようと言ったんだ」
「ま、ままま待って!考え直してくださいっ!私のどこが駄目だったの!?直す、直しますから婚約解消だけは…!どうか、お願いします!」

 聞き間違いではなかった。マジでか。私はガタンと身を乗り出し、レイナード様に真意を尋ねた。なんで、どうして…!?私の何がいけなかったの…?

 必死で縋るも、レイナード様は髪と同じ藍色の目で見下ろすばかりだ。

「ルウシェ、君が良き婚約者であろうと頑張ってくれていることは分かっている。礼儀作法は完璧だし、花嫁修行にだって精が出ていると聞いている。だが、君はいつも心ここにあらずというか、何を考えているのか分からないんだ。ぼーっと空を眺めていたかと思うと、急に笑い出したり、一人で居る時に何もないところに向かって話しかけていたり。正直不気味なんだ。やはり『奇人令嬢』と呼ばれるだけのことはある。俺は君と心を通わせる自信がない」
「そ、そんな…」

 私は愕然とした。気をつけていたつもりが、が出てしまっていたなんて。

 ガーンガーンと顔を青ざめさせていると、不意にレイナード様がポッと頬を染めて口を開いた。

「それに、俺には他に好きな女性ができた。運命の出会いだった。彼女も俺を好きだと言ってくれている。だから君との婚約を解消し、俺は彼女と結婚する」
「なっ…!どこのどなたですかっ!?」

 なんと、私の知らないところで運命の出会いを果たしたとおっしゃるのか。私は更なる衝撃に眩暈を覚えた。きっとこっちが婚約解消を希望する本当の理由なのだろう。

「カサンドラ嬢だ」
「カサンドラ様…確か、ヨーコレンボ男爵家のご令嬢ですね」

 なんとなんと、グラマラスで妖艶で、社交界で浮名を流しまくっているあのカサンドラ様ですか。

「彼女が多くの男性と関係を持っていたことは知っている。だが、俺のことを運命の相手だと言って微笑んでくれた。彼女も俺と同じ気持ちでいてくれる」

 いつもクールぶっているレイナード様が鼻の下を伸ばしている。あぁ、そうですか。もうそういうご関係なのですね。私という婚約者がいながら不貞を働かれたと。
 私はすうっと気持ちが冷めていくのを感じた。

 さっきまで春の暖かな陽気で平和な空気が流れていたのに、ザワザワと木々が怪しく騒ぎ始めていた。ヒュゥっと冷たい風が私たちの足元を吹き抜けていく。
 雲ひとつなかった青空には、みるみるうちに黒い雲が広がり、暖かい日差しを提供していた太陽を覆い隠してしまった。日の光が遮断された地表は、急に数度気温が下がったように感じる。私はブルリと身を震わせた。

 レイナード様と婚約を解消するなんて、お父様とお母様の耳に入ったら悲しませてしまう事になる。同じ侯爵家として繋がりを深めるための婚約関係である。家のことを思うとそう簡単に婚約を破棄するだなんて口が裂けても言えない。
 だが、今目の前でデヘデヘと情けない顔をして他の女性を想う殿方と一生を添い遂げることができるだろうか。
 ーーー答えは否である。

「分かりました…そういうことでしたらーーー」

 私はもうどうでも良くなって頷きかけたが、ふとレイナード様の背後に視線を移して、目を見開いた。サッと身体から血の気が引いていく。

「だっ、だめ!ダメダメ!駄目です!不可です!婚約解消なんて認められません…!」

 一転してブンブン首を振り断固拒否の姿勢を示すと、レイナード様は驚いたように目を丸くした。

「なっ…申し訳ないが、俺の気持ちは変わらない。真実の愛に目覚めたんだ、身を引いてくれ」
「そっ、そんなことおっしゃらずに。ね?一時の気の迷いですよね!?」
「いや、俺の意志は固い。なんと言われようとも婚約は解消だ。俺にはその

 私の必死の嘆願も虚しく、レイナード様は席を立つとスタスタと正門の方へと向かっていく。私は慌ててあとを追うべく立ち上がるが、椅子の足に絡まって躓きかけてしまう。その間にもレイナード様はズンズンと歩みを進めてしまいーーー

「ちょ、駄目だってば…!行かないで!行っちゃ駄目!あぁっ、待ってぇぇぇ!!!」

 私はその場にがくりと膝をついて項垂れた。

 こうして呆気なく、私とレイナード様の婚約は解消されてしまったのだった。
 案の定両親には泣かれてしまったのだが、私は他のことが気になって気になって気になりすぎて仕方がなかった。
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