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第29話 想定外のお披露目
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その日の夜、マリアンヌは王族たちの夕食に招待された。
運動祭の様子を知れるし、彼らとの食事はとても楽しいので喜んで参加させてもらう。
だが、うきうきと身支度をするマリアンヌの部屋の扉をバァン!開けてシェリルが乗り込んできてから雲行きが変わった。
「マリンちゃん!さっきのドレスを着ていきましょう!」
「ええっ!?ま、まさか…あのシルバーのドレスを?」
「ええ!お父様とお兄様にも見ていただかないと!うふふ」
シェリルは何やら含みのある笑みを浮かべている。
(ちょ、ちょっと待って…ラルフ様の前であのドレスを着るの…?絶対に嫌な顔されるわ!!)
自分を想起させるドレスに、ラルフが呆れた顔をするのが目に浮かぶようだ。似合わないなんて言われた日には流石のマリアンヌも傷ついてしまう。
「えーっと…買ったばかりだし…そう!私に合うように調整も必要だと思うのよ」
「そんなものいらないでしょう?ピッタリだったじゃない」
「ううっ」
「さ、テディも手伝って!とびきり可愛くしちゃいましょう!」
「任せてください!」
「あああああ~」
そしてあれよあれよとテディの手でドレスを着せられ、髪も緩やかに巻かれて一つに結い上げられてしまった。軽くお粉をはたき、真珠を砕いて作ったキラキラとしたパウダーもまぶされる。え?夕食を食べるだけよね?パーティに行くわけじゃないわよね?と戸惑うマリアンヌを置いて、シェリルの指示によりどんどんと着飾られていく。
「いいわ…いいわテディ!上出来よ!」
「ふふふ…頑張りました!マリアンヌ様は素材がいいのでやりがいがあります!」
「ど、どうなったの…?」
化粧とヘアセットが終わったようで、シェリルとテディは数歩引いてマリアンヌを上から下までじっくり眺め、満足げな笑みを浮かべた。二人ともブンブン尻尾を振っていてとっても可愛らしい。触りたい…のだが今の二人は圧が凄くてちょっぴり近づくのが怖い。
「ふふふっ、お兄様の反応が楽しみね」
「きっと見惚れてしまいますよ!」
「えぇぇ…?馬鹿にされてしまわないかしら」
嬉々とするシェリルとテディには申し訳ないが、マリアンヌはやっぱりラルフにこのドレス姿を見せるのに抵抗がある。
「何を言っているのですか!ほら、見てください!渾身の出来です!美しいです!」
自信なさげな態度を取ってしまったマリアンヌに憤慨したテディは、マリアンヌの手を引いて姿見の前に立たせた。
「わ……テディ、あなた魔法使いだったの?」
姿見に映るマリアンヌは、これまで見たことがないほどに美しかった。ドレスは相変わらず綺麗だが、それに負けないほどマリアンヌもキラキラと輝いて見える。緩く巻いた髪はくるくると巻き上げるように一つにまとまっていて、化粧も濃すぎず上品に仕上げられている。動くたびに真珠のパウダーが淡い光を反射してまるで宝石のようだ。
つい先日、成人の日に魚人のドレスを身に纏ったが、それとはまた違った魅力が滲み出ており、我ながら綺麗だわと感心してしまう。
魔法使いと称されたテディは嬉しそうに胸をえっへんと逸らしている。
「ささっ、もう皆様お集まりになる頃合いです。参りましょう」
「よーし!行きましょう、マリンちゃんっ!」
マリアンヌは、シェリルとテディに手を引かれ、よろめきながら食堂へと向かった。
(ら、ラルフ様はどんな反応をされるのかしら…ちょっと緊張するわね)
普段緊張知らずなマリアンヌであるが、これほどまでに着飾ったのは初めてで、その評価がどうしても気になってしまう。ましてやこのドレスだ。ラルフは何と言うのだろう?鼻で笑われておしまいかもしれないし、案外褒めてくれるかもしれない。
期待と不安を胸に、マリアンヌは食堂へと足を踏み入れた。
「シェリルにマリアンヌ、遅かったな。何をしていた……は?」
「ほう」
食堂には既にラルフとレナード王が到着しており、自席についていた。ラルフは扉が開いたと同時にこちらに視線を投げたのだが、ポカンと口を開けて固まってしまった。
「お待たせいたしました!マリンちゃんにドレスを着てもらっていたの!どうどう?素敵でしょう?」
「ああ、とても美しいな。よく似合っているではないか」
シェリルの言葉に、レナード王は深く頷き、賛辞の言葉を送ってくれる。
「大変光栄でございます。ありがとうございます」
マリアンヌは慌てて淑女の礼をして感謝の言葉を口にする。そしてシェリルと共に席に着くと、対面で依然として呆けているラルフに恐る恐る話しかけた。
「あ、あの…言葉を失うほどひどいでしょうか?」
「………ああ、えっ!?あ、違う!」
肯定の言葉にガーンと項垂れるマリアンヌであるが、ラルフはハッと我に返ると慌てて否定した。ちょろりと一粒の涙を浮かべつつ、マリアンヌは首を傾げる。
なぜかシェリルとレナード王はニマニマと楽しそうに笑みを浮かべてラルフとマリアンヌを交互に見つめている。
「あーーーー…その、なんだ…馬子にも衣装だな」
「お兄様!!!!!」
少し目元を赤らめて視線を逸らすラルフに、シェリルがテーブルをバン!と叩いて抗議する。ラルフはビクッと肩を震わせた後、視線をあちらこちらに彷徨わせ、観念したように呟いた。
「……………似合ってるよ」
「!!」
ラルフの言葉に、シェリルは満足げに笑みを深め、レナード王は依然としてニマニマと笑っている。マリアンヌはというと、じわぁと頬に熱が集まるのを感じていた。
(お、怒られなかったし呆れられもしなかったわ…!ラルフ様はこのドレスがご自身を想起させるとは感じていらっしゃらないのかしら…?ほっ)
嬉しい気持ちが半分、安心した気持ちが半分のマリアンヌは胸を撫で下ろしていた。
一方のラルフは頭の中で悶々と考えを巡らせていた。
(な、なんなんだ…こいつも王族の端くれだし、元々器量はいい方だ。そりゃ着飾れば美しくもなるだろう。なんでこんなに動揺しているんだ俺は…それより、このドレスは…いや、きっとそこまで深くは考えていないな。マリアンヌのことだしな。銀糸は俺の髪、金糸は俺の瞳に見えんこともないが…いやいやいや、気にしすぎだな)
ラルフは一人結論を出すと、運ばれてきた食事に手をつけた。時より視界の端に映るマリアンヌにどきりとたじろぎつつも、和やかな夕食会だった。
───この時までは。
運動祭の様子を知れるし、彼らとの食事はとても楽しいので喜んで参加させてもらう。
だが、うきうきと身支度をするマリアンヌの部屋の扉をバァン!開けてシェリルが乗り込んできてから雲行きが変わった。
「マリンちゃん!さっきのドレスを着ていきましょう!」
「ええっ!?ま、まさか…あのシルバーのドレスを?」
「ええ!お父様とお兄様にも見ていただかないと!うふふ」
シェリルは何やら含みのある笑みを浮かべている。
(ちょ、ちょっと待って…ラルフ様の前であのドレスを着るの…?絶対に嫌な顔されるわ!!)
自分を想起させるドレスに、ラルフが呆れた顔をするのが目に浮かぶようだ。似合わないなんて言われた日には流石のマリアンヌも傷ついてしまう。
「えーっと…買ったばかりだし…そう!私に合うように調整も必要だと思うのよ」
「そんなものいらないでしょう?ピッタリだったじゃない」
「ううっ」
「さ、テディも手伝って!とびきり可愛くしちゃいましょう!」
「任せてください!」
「あああああ~」
そしてあれよあれよとテディの手でドレスを着せられ、髪も緩やかに巻かれて一つに結い上げられてしまった。軽くお粉をはたき、真珠を砕いて作ったキラキラとしたパウダーもまぶされる。え?夕食を食べるだけよね?パーティに行くわけじゃないわよね?と戸惑うマリアンヌを置いて、シェリルの指示によりどんどんと着飾られていく。
「いいわ…いいわテディ!上出来よ!」
「ふふふ…頑張りました!マリアンヌ様は素材がいいのでやりがいがあります!」
「ど、どうなったの…?」
化粧とヘアセットが終わったようで、シェリルとテディは数歩引いてマリアンヌを上から下までじっくり眺め、満足げな笑みを浮かべた。二人ともブンブン尻尾を振っていてとっても可愛らしい。触りたい…のだが今の二人は圧が凄くてちょっぴり近づくのが怖い。
「ふふふっ、お兄様の反応が楽しみね」
「きっと見惚れてしまいますよ!」
「えぇぇ…?馬鹿にされてしまわないかしら」
嬉々とするシェリルとテディには申し訳ないが、マリアンヌはやっぱりラルフにこのドレス姿を見せるのに抵抗がある。
「何を言っているのですか!ほら、見てください!渾身の出来です!美しいです!」
自信なさげな態度を取ってしまったマリアンヌに憤慨したテディは、マリアンヌの手を引いて姿見の前に立たせた。
「わ……テディ、あなた魔法使いだったの?」
姿見に映るマリアンヌは、これまで見たことがないほどに美しかった。ドレスは相変わらず綺麗だが、それに負けないほどマリアンヌもキラキラと輝いて見える。緩く巻いた髪はくるくると巻き上げるように一つにまとまっていて、化粧も濃すぎず上品に仕上げられている。動くたびに真珠のパウダーが淡い光を反射してまるで宝石のようだ。
つい先日、成人の日に魚人のドレスを身に纏ったが、それとはまた違った魅力が滲み出ており、我ながら綺麗だわと感心してしまう。
魔法使いと称されたテディは嬉しそうに胸をえっへんと逸らしている。
「ささっ、もう皆様お集まりになる頃合いです。参りましょう」
「よーし!行きましょう、マリンちゃんっ!」
マリアンヌは、シェリルとテディに手を引かれ、よろめきながら食堂へと向かった。
(ら、ラルフ様はどんな反応をされるのかしら…ちょっと緊張するわね)
普段緊張知らずなマリアンヌであるが、これほどまでに着飾ったのは初めてで、その評価がどうしても気になってしまう。ましてやこのドレスだ。ラルフは何と言うのだろう?鼻で笑われておしまいかもしれないし、案外褒めてくれるかもしれない。
期待と不安を胸に、マリアンヌは食堂へと足を踏み入れた。
「シェリルにマリアンヌ、遅かったな。何をしていた……は?」
「ほう」
食堂には既にラルフとレナード王が到着しており、自席についていた。ラルフは扉が開いたと同時にこちらに視線を投げたのだが、ポカンと口を開けて固まってしまった。
「お待たせいたしました!マリンちゃんにドレスを着てもらっていたの!どうどう?素敵でしょう?」
「ああ、とても美しいな。よく似合っているではないか」
シェリルの言葉に、レナード王は深く頷き、賛辞の言葉を送ってくれる。
「大変光栄でございます。ありがとうございます」
マリアンヌは慌てて淑女の礼をして感謝の言葉を口にする。そしてシェリルと共に席に着くと、対面で依然として呆けているラルフに恐る恐る話しかけた。
「あ、あの…言葉を失うほどひどいでしょうか?」
「………ああ、えっ!?あ、違う!」
肯定の言葉にガーンと項垂れるマリアンヌであるが、ラルフはハッと我に返ると慌てて否定した。ちょろりと一粒の涙を浮かべつつ、マリアンヌは首を傾げる。
なぜかシェリルとレナード王はニマニマと楽しそうに笑みを浮かべてラルフとマリアンヌを交互に見つめている。
「あーーーー…その、なんだ…馬子にも衣装だな」
「お兄様!!!!!」
少し目元を赤らめて視線を逸らすラルフに、シェリルがテーブルをバン!と叩いて抗議する。ラルフはビクッと肩を震わせた後、視線をあちらこちらに彷徨わせ、観念したように呟いた。
「……………似合ってるよ」
「!!」
ラルフの言葉に、シェリルは満足げに笑みを深め、レナード王は依然としてニマニマと笑っている。マリアンヌはというと、じわぁと頬に熱が集まるのを感じていた。
(お、怒られなかったし呆れられもしなかったわ…!ラルフ様はこのドレスがご自身を想起させるとは感じていらっしゃらないのかしら…?ほっ)
嬉しい気持ちが半分、安心した気持ちが半分のマリアンヌは胸を撫で下ろしていた。
一方のラルフは頭の中で悶々と考えを巡らせていた。
(な、なんなんだ…こいつも王族の端くれだし、元々器量はいい方だ。そりゃ着飾れば美しくもなるだろう。なんでこんなに動揺しているんだ俺は…それより、このドレスは…いや、きっとそこまで深くは考えていないな。マリアンヌのことだしな。銀糸は俺の髪、金糸は俺の瞳に見えんこともないが…いやいやいや、気にしすぎだな)
ラルフは一人結論を出すと、運ばれてきた食事に手をつけた。時より視界の端に映るマリアンヌにどきりとたじろぎつつも、和やかな夕食会だった。
───この時までは。
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