Lv.1の英雄

さささくら

文字の大きさ
3 / 8
序章〜英雄譚の始まり〜

第2話 大きな不安

しおりを挟む
村に戻ると大勢の大人達が慌てた様子でライ達を迎えた。
その中には体が弱い為に普段は家から出ない村長や、王国から派遣されている兵士が数名混ざっていた。

「お前たち、ずいぶん遅かったじゃないか」
「ごめんなさい。クミアウサギがどうしても見つけたくて」
「まあ無事に戻って来てくれたならそれはいい」

普段は少しでも帰りが遅くなると雷を落とすおじさんが安堵の表情でライ達の頭を撫でた。
少々不可解だったが、疲れていたライ達は特に気に止めなかった。

「少し大事な話をする。今日森に行ったハンターが狼型の魔物を見つけたらしいんだ。前回の見回りで見逃していたらしい。少数だが個体ランクは魔物中でも高い方だったみたいだ。無事で本当に良かった」

個体ランクは冒険者ギルドで設定された各魔物における強さを示す指標だ。SSランクを最高ランクとし、そこからS、A、B、C、⋯Fと8段階表され、今回発見された狼型の魔物はCランクに当たるらしい。

「ところでタロットはどうしたんだい?三人で森に向かうのを昼過ぎに見かけたよ」
「えっ、まだ帰って来ていないんですか」

当然帰って来ていると思っていたので、思わず声を上げてしまった。

「ライ、どういうことだい?」
「実は⋯森について別れたのはいいんですけど、暗くなって帰ろうとした時に見当たらなかったのでてっきり帰って来ていたのだと⋯」

大人達の顔が一瞬で恐怖に染まる。
タロットのお母さんに至ってはその場で気を失ってしまった。

魔物のCランクともなると、普通の大人では一匹に対し五人ほどでないと対処しきれない。
狩りの心得を持った冒険者やハンターでも三人は必要だ。
そんな魔物が出現した森にタロットは一人でいるのだ。おそらく、クミアウサギを狩りたいという欲に駆られ、森の奥へ迷い込んでしまったのだろう。
小さな森とは言え、子供一人で奥地を真夜中に歩けるほど安全なわけがない。

「ハンターさんと兵士の皆様にはタロットの捜索、及び救出のためにクミアの森へ出発してほしい」
「承った。しかしその間村を守るものがいなくなるが大丈夫か?」
「少しの間だろうし、村から森は離れている。魔物も自身のテリトリーからは出ないだろうよ」
「了解した。皆の者、夜の森はいくら我々と言えど危険だ。心してかかるように」
「「「はっっ!」」」

王都から派遣されている兵士数名と村のハンターは各々の身支度を始めるために、その場を後にした。
ただならぬ緊張感と不安が村民の心に重くのしかかり、誰もその場から動けずにいた。

「ひとまず皆自身の家に戻り、休養をとるように。ここでじっとしていても何も解決しないぞ?」
「それもそうだな⋯よし、皆各家に戻るように!!」

村長の言葉で動けずにいた人達は暗い顔のまま、各家の方向へと散った。

「君達二人のご両親も心配しているだろう。早く帰って顔を見せておやりなさい」

そう言われて、ライ達は自身の家に帰ることにした。タロットがいないという不安感はあまりにも大きく、二人の心を押しつぶした。


家に着くと母親のレイナと妹のリアナが駆け寄って来た。

「何があったんだい、こんなに遅くまで。心配でおちおち寝られなかったよ」
「そうだよお兄ちゃん、怖かったよ!」

もう夜中の0時を回る時間だ。
リアナはまだ幼いはずなのにこんな時間まで起きていてくれた。よほど心配してくれていたんだろう。
ライは優しくリアナの頭を撫でる。

「ああ、ごめんよ。でも母さん、今日は説教はよしてくれ。精神的にも身体的にも疲れていて正直やばい⋯。そう言えば父さんは何処?」
「タロット君を探しに行ったよ、あんななりでも昔は一流の冒険者だったしね⋯」

先程家に兵士が訪れ、タロットの件を説明してくれたそうだ。
ライの父親のバローダは全盛期、冒険者として名を馳せた実力者である。
ランクCの魔物でも難なく対処できるので、タロットはまず安全だろう。
父さんが付いていくと聞けば村人達も安心して眠りにつくことができるはずだ。

「じゃあ今日は寝るよ」

そう言うとライは自室へ行き、ベットに倒れこんだ。
唐突に睡魔が脳を侵略し、ライの意識は闇へと沈んだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...