偽りのの誓い

第2回

ある日の夜、パーティー会場で二人は完璧な夫婦を演じていた。翔は、カレンの腰に手を回し、カレンは翔の腕にそっと手を添えている。

「高見沢社長、奥様は本当に美しい方ですね」

ある企業の社長が翔に話しかけてきた。翔は優雅に微笑んだ。

「ええ、カレンは私の自慢ですから」

翔の言葉に、カレンは一瞬、彼を見た。少し、いつもの棒読みではない、自然な響きがあった気がした。

「まあ、翔さんったら。お世辞が上手なんですもの」

カレンもまた、完璧な妻を演じた。だが、その心の中には、妙な違和感が募っていた。パーティーも終盤に差し掛かり、二人は少し人目につかない場所で休憩していた。

「疲れたわ、もう」

カレンは小さく呟いた。翔はネクタイを少し緩めた。

「ああ、本当に。だが、今日の君は完璧だった。さすがだな」

「あなたもね。特に『自慢の妻』ってところ。あれ、本気で言ってるのかと勘違いしそうになったわ」

カレンが冗談めかして言うと、翔は少し視線を逸らした。

「‥別に、お世辞じゃない」

「え？」

カレンが聞き返すと、翔は小さくため息をついた。

「君は、昔から綺麗だったからな」

その言葉に、カレンは何も言えなくなった。彼の視線は、昔の思い出を辿るように遠くをみつめている。

「‥ねえ、翔」

「何だ？」


「私たち、あと何回、こうやって『完璧な夫婦』を演じるんだろうね」

カレンの問いに、翔は何も答えなかった。ただ、カレンの手をそっと握り締めた。その手は、契約とは裏腹に、少しだけ熱を帯びていた。