推しの幸せが私の願い(のはず)! ~勘違い令嬢は、伯爵様の「溺愛」に気づかない~

柴田はつみ

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第十一章:呪縛のデビュタント

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鏡の中に映っていたのは、完璧に「管理」された私の姿だった。
アルフレッド様が選んだというドレスは、深海の底を思わせるミッドナイトブルー。白い肌を際立たせるデコルテのラインは、驚くほど大胆に切り取られている。

そして首筋では、あの日に嵌められた「銀の鎖」が、月光のような冷たい光を放っていた。

「……うっとり。ご覧ください、この首輪とドレスの親和性。アルフレッド様、色彩設計の天才ですわ」

くるりと回った私の背後から、影のようにアルフレッド様が身を寄せる。肩に顎を預け、鏡越しに私の瞳を見つめた。

「気に入ってくれて何よりだ。その石には僕の魔力が満ちている。……今、君の鼓動が手のひらに伝わってくる」

彼の長い指が首輪の魔石を愛おしげになぞると、その瞬間、石から熱が広がり、肌をじりりと焼くような錯覚に襲われた。

(ああ、これ! 執着攻めがよくやる『俺の刻印だ』ってやつですね! 推しに刻印される人生、前世の徳を使い果たしていますわ……!)


夜会会場。私たちが足を踏み入れた瞬間、華やかな喧噪が潮のように引いていった。

理由は明白だった。
社交界の頂点を走るローゼンバーグ公爵令嬢が、伯爵にすぎないアルフレッド様の「所有物」であることを示す、異様な首輪をつけているのだから。

「……見ろ、あの首飾り。ベルンシュタイン伯爵の紋章が刻まれている」
「お気に入りの猟犬を連れているみたいだ……」

囁きは侮辱よりも、恐怖と好奇の色合いが強い。
だが当のアルフレッド様は、そんな視線を一蹴するように私の腰を引き寄せ、会場全体を射抜く冷ややかな笑みを浮かべた。

「エルセ、気分は悪くないか? 不快な奴がいれば言ってくれ。明日には、その口を二度と開けないようにしてやる」

「まあ、アルフレッド様ったら。冗談が過ぎますわ。皆様、少々驚いているだけですわよ」

私が微笑むと、彼の目が一瞬だけ、底知れぬ闇色に沈んだ。

耳元へと唇を寄せ、低く囁く。

「……冗談だと思っているのか? 君を見る者すべての目を潰して、僕だけが君を見られる世界にしたいと――本気で思っているのに」

(……ひっ。今の低音、完全に“闇堕ち軍神モード”ですわ! 素敵ですけど、本当にやったら打ち切りエンドになってしまいますからダメですよ!)

その時、近くを通り過ぎたメイドが、手早く私の掌に紙切れを押し込んだ。

――カトレア様からの密書。

アルフレッド様が別の貴族へ挨拶を向けた隙に、物陰で開封する。

『エルセ様、どうかお読みください。アルフレッド様は狂っています。彼があなたに着けているその鎖は、精神を徐々に壊し、彼無しでは生きられない体にするための“呪具”です。今すぐ逃げてください。国境の街で、私が準備して待っています』

紙を握りしめ、私は衝撃に震えた。

(……なんですって!? アルフレッド様、そんな強力な設定のアイテムを私に!?)

解釈は、もはや成層圏を突破する。

(「彼無しでは生きられない体にする」――つまり、そこまでして私に「カトレア様との恋の成就を見届けてほしい」と思っているのね! 自分が幸せになる瞬間、幼馴染の私が隣にいないのは耐えられないのね……! なんて、なんて重厚な友情!)

「エルセ。……何を見ているんだい?」

背後から忍び寄る声。
振り返れば、アルフレッド様がすぐそこに立っていた。
彼の視線は、私の手の紙片を鋭く捉えている。

「あ、これは……その、今日のメニューのメモでして!」

咄嗟に嘘をついた瞬間――
首筋の魔石が、ドクンと脈動し、紅の熱を帯びた。

「……嘘をついたね、エルセ」

彼の手が首筋を優しく覆い、しかし逃げ場を塞ぐように指が絡む。

「その石が熱を帯びたのは、君が僕を欺こうとした証拠だ。……さあ、その“メニュー”を、僕に見せてくれるかな?」
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