舞踏会は裏切りの夜

柴田はつみ

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4 氷解と再生の始まり

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リリアナの生活は一変した。朝は早起きし、エミリーが用意した朝食をしっかりと摂る。

日中は、これまで手を付けてこなかった書物に向き合う。歴史書、経済学、そして他国の文化について記された旅行記まで、彼女の知的好奇心は満たされることを知らなかった。



ある日、イザベルが書斎を訪れた。


「リリアナ、ずいぶんと難しい本を読んでいるのね。最近のあなたは、まるで別人だわ」


そう言って微笑む母の顔には、安堵の色が浮かんでいる。


「お母様…私、これまでどれほど無知だったか思い知りました。社交界の噂話ばかり気にして、自分の足元すら見ていなかった」


リリアナは、そう正直に打ち明けた。


「それも、あなたの優しさだった。でも、これからはあなたの好きなように生きなさい。あなたを縛るものは、何もなくなったのだから」


母の言葉は、リリアナの心に深く響いた。


数週間後、リリアナはロバートと再会した。彼は、馬術の練習場から帰るリリアナの姿を見て、目を丸くした。


「リリアナ、君…本当に別人だ。あの舞踏会の後から、どうしてしまったんだ?」


「どうして、と聞かれても…」


リリアナは、笑ってごまかした。



しかし、ロバートは彼女の顔をまっすぐに見つめたまま、真剣な表情で言った。


「何かあったんだろう? アルフレッド…彼が何か?」


リリアナは、一瞬言葉に詰まった。ロバートは、彼女の心の奥底を見透かすように鋭い。


「…ロバート様。私はもう、あの頃の私ではありません。ただ、それだけです」


「そうか…」


ロバートはそれ以上深くは聞かず、ただ静かに頷いた。


だが、彼の眼差しには、彼女を心配する優しさがにじみ出ていた。


「もし、何か困ったことがあれば、いつでも私を頼ってくれ。君は、一人じゃないんだ」



その言葉は、リリアナの心を温めた。


ある午後、リリアナは街の小さな画廊を訪れた。そこで、一人の青年と出会う。


「これは、あなたのような令嬢には似つかわしくない絵画かもしれませんな」


ルシアンと名乗るその青年は、挑戦的な笑みを浮かべた。


彼の作品は、社交界で流行している甘い風景画とはかけ離れた、力強く、激しい色彩でいっぱいだった。



「いいえ。私は、この絵から生命の力を感じます。まるで、心の内側から湧き上がる叫びのようです」



リリアナの言葉に、ルシアンは驚いたように目を見開いた。


「…面白い。あなたのような女性は初めてだ。よければ、もっと私の作品を見ていってくれませんか?」



リリアナは、ルシアンとの会話に夢中になった。彼は、リリアナの知的好奇心を刺激し、これまでの世界観を広げてくれる存在だった。



彼女は、もはやアルフレッドとの婚約という呪縛から完全に解き放たれていた。


新しい自分を見つけ、新しい世界へと足を踏み出していく。


彼女の未来は、希望の光に溢れていた。
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