舞踏会は裏切りの夜

柴田はつみ

文字の大きさ
10 / 12

10 惹かれ合う心 図書館の静かな午後

しおりを挟む
エドワード王太子との出会いから、リリアナは彼と何度か言葉を交わす機会を得た。


初めは緊張していたが、彼の知的な会話と、人を見下すことのない誠実な眼差しに、リリアナは次第に心を開いていった。


ある日の午後、王城の図書館で、リリアナは壁一面に並んだ本の中から、外交史の書物を探していた。すると、背後から静かな声が聞こえた。


「その書物なら、もう少し上の棚ですよ」


振り返ると、エドワードが立っていた。彼はいつものように、穏やかな微笑みを浮かべている。


「殿下…なぜ、ここに?」


「君がこの書庫に来るだろうと思ってね。少し、君と話がしたくて」


そう言って、エドワードは彼女の隣に並び、背伸びをして本を取ってくれた。


「ありがとうございます」


リリアナは、彼の優しさに心から感謝した。


「リリアナ嬢。王妃様が君を侍女に選んだ理由が、少しわかった気がする。君は、自分の興味に素直で、とても勤勉だ」


「とんでもございません。私はただ、無知な自分を変えたいと、そう思っているだけです」


「それこそが、美徳だ。多くの人間は、知ったかぶりをして、自身の無知から目を背ける。だが君は違う。その誠実さが、君を輝かせている」


彼の言葉に、リリアナは頬を赤らめた。


「恐れ入ります…」


エドワードは、そんなリリアナを優しく見つめ、ゆっくりと語り始めた。


「私は、いずれこの国の王となる。だが、真に国を導くには、国民の心を知らなければならない。だが、王族という立場上、それが難しい。だから、君のような…自分の力で人生を切り開いてきた者の言葉に、耳を傾けたいのだ」


彼の言葉に、リリアナは驚きを隠せない。


アルフレッドが「都合の良い女」として彼女を見ていたのに対し、エドワードは、彼女の内なる強さ、その経験そのものを尊重してくれている。



「リリアナ嬢。君の過去に何があったのかは知らない。だが、もし君が望むなら、いつでも私に話してほしい。君の心の声を聞かせてほしい」


彼のまっすぐな眼差しに、リリアナの心は、凍っていた部分が溶かされていくような感覚を覚えた。


アルフレッドとの関係で深く傷ついた心に、エドワードの言葉は、まるで温かい光のように染み渡っていく。


「殿下…」


「君と話していると、この静かな図書館で、まるで新しい物語が始まっているようだ」


エドワードは、そう言って微笑んだ。


リリアナは、彼の言葉を胸に、自分の手で新しい物語を紡いでいく決意を新たにした。


もはや、彼女の人生は、過去の影に怯えることはない。


彼の隣で、彼女の新しい人生の章が、今、静かに幕を開けようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...