転生王妃はもう二度と愛さない ―処刑の夜に誓った復讐―

柴田はつみ

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第二十一章 「沈黙の証言 ― キャロル、嘘の“重さ”を量る」

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 王宮の朝は、いつもと同じように静かに始まった。

 白い石の回廊に射し込む光、整然とした足音、囁き合う侍女たち。
 だが、その「いつも通り」は、確実に歪み始めている。

 キャロルは窓辺に立ち、庭園を見下ろしていた。
 金色の髪が朝光を受けて柔らかく揺れる。

(……噂は、もう十分)

 彼女が直接言葉を放ったわけではない。
 否定も、告発も、説明もしていない。

 ただ――
 沈黙を選び続けただけだった。

 それだけで、人は勝手に言葉を補う。

「……最近、殿下の周囲、妙に静かじゃありません?」
「リネア様の名前、あまり聞かなくなりましたわね」
「以前はあんなに寄り添っていたのに……」

 噂は噂を呼び、
 沈黙は、証言よりも雄弁になる。



 キャロルはゆっくりと手袋を整え、微笑を浮かべた。

(前世の私は、否定し続けた)

(違う、知らない、そんなつもりはない――
 そう言い続けて、誰も信じなかった)

(だから今世では、何も言わない)

 それが、彼女の選んだやり方。

 正義を語らず、
 被害者を演じず、
 ただ「そこに在る」だけ。

 ――すると、人は比べ始める。

 誰が前に出ているのか。
 誰が説明しすぎているのか。
 誰が、殿下の隣を“必要以上に”占めているのか。



 午後、控えの間。

 クリスは一人、書類に目を落としていたが、文字はほとんど頭に入っていなかった。

(……静かすぎる)

 以前は、リネアがいた。
 気遣いの言葉、差し出される茶、柔らかな声。

 それが今は――ない。

 代わりに、耳に入ってくるのは噂ばかりだ。

「殿下は、誰を選ばれるのでしょうね」
「王妃候補の中で、一番“何もしない”方が残っているのが皮肉ですわ」

 何もしない。

 その言葉が、胸に引っかかる。

(キャロルは……何もしていない)

(なのに、なぜ――)

 彼の脳裏に浮かぶのは、
 去っていく背中、距離を保つ微笑、
 そして、何も言わない青い瞳。

(疑われているのは……誰だ?)

 初めて、クリスの中で天秤が傾いた。



 一方その頃、回廊の奥。

 リネアは立ち止まり、爪先をきゅっと床に押しつけた。

(……おかしい)

 以前なら、
 彼女が殿下の傍にいれば、周囲は自然と引いた。

 今は違う。

 視線が、痛い。
 囁きが、止まらない。

「姉から妃候補を奪った女」
「殿下に頼りすぎたのでは?」
「でも、本当に姉妹なのかしら……」

 言葉は刃となり、
 彼女の足元に積もっていく。

(キャロル……何もしていない顔で)

(全部、私に押しつけている)

 気づいたときには、
 “守られる側”の位置は、もうなかった。



 夜。

 キャロルは机に向かい、羊皮紙を一枚取り出す。

 書くわけではない。
 破るわけでもない。

 ただ、そこに置くだけ。

(証拠は、集めている)

(けれど――今は、まだ)

 彼女は微笑んだ。

 可憐で、穏やかで、
 誰もが「無害」と思う微笑。

(疑いが“自分で育つ”段階まで)

(私は、何もしない)

 前世で奪われたものを思い出す。

 名誉。
 声。
 生きる権利。

(だから今回は――)

(奪うのではなく、選ばせる)

 誰が嘘をついているのか。
 誰が本当に隣に立つ資格があるのか。

 それを決めるのは、彼ら自身。

 キャロルは灯りを落とし、静かに目を閉じた。

 復讐は、もう始まっている。

 血も叫びもいらない。
 ただ――沈黙と、時間だけで。
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