十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第四章 聖女の影

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その日の午後、エラナは庭園を散策していた。色とりどりの花々が咲き誇り、甘い香りが風に乗って運ばれてくる。


しかし、エラナの心は、花々の美しさを感じ取るにはあまりにも閉ざされていた。


「王妃様、どうぞこちらへ」


背後から聞こえた声に振り返ると、護衛騎士のレオが立っていた。



レオは、エラナの父が、彼女を案じてつけた忠実な騎士だった。


「レオ…あなたまで、わたくしのことを見張っているの?」


エラナの言葉に、レオは困ったように微笑んだ。


「滅相もございません。ただ、王妃様がお一人でいらっしゃるのは危険かと…」


「危険? ここは王宮の中よ」


「いえ、何が起こるか分かりません。この王宮は、見た目ほど清らかな場所ではありませんので」



レオの言葉に、エラナはハッとした。

確かに、この王宮には、まだ知らぬ闇が潜んでいるような気がする。



「ところで、王妃様。陛下は、聖女マリア様とよくご一緒されるのをご存知ですか?」


「聖女マリア…?」


聞き慣れない名前に、エラナは首を傾げた。


「はい。陛下は、マリア様を大変信頼しておられ、頻繁に謁見をなさっています。時には、二人きりで、長時間…」


レオの言葉に、エラナの胸に冷たいものが広がった。


アレンが自分に冷たいのは、もしかして、この聖女マリアのせいなのだろうか。


「まさか…そんなはずは…」


「ですが、王妃様。陛下とマリア様の仲は、この王宮では有名な話です」


レオは、エラナの顔色を窺いながら、続けた。



「もちろん、陛下がマリア様と親しくなさるのは、国のため。そう信じております。しかし、もし、そうではないとしたら…」



「…レオ、あなたは何を言いたいの?」


「王妃様…もしかして、陛下は、マリア様と…」



「それ以上は、やめて」




エラナは、レオの言葉を遮った。



心の奥底で、知りたくない真実が、頭をもたげているような気がした。



「王妃様。私は、王妃様のお味方です。もし、陛下が、王妃様を裏切るようなことをなさっているのであれば、私は…」



レオの真剣な眼差しに、エラナは動揺を隠せない。



「…ありがとう、レオ」



エラナは、それだけを言うと、再び庭園の奥へと歩き出した。レオは、そんなエラナの後ろ姿を、じっと見つめていた。



その日の夜、エラナは寝台の上で一人、レオの言葉を反芻していた。アレンと聖女マリア。二人の関係に、エラナの心はざわめき始める。



「いいえ…信じられないわ」


エラナは、頭を振った。


だが、一度芽生えた疑惑は、なかなか消えてはくれない。



「一体、どうすれば…」



エラナは、眠れぬ夜を過ごしながら、アレンとマリアの関係の真相を、自分の目で確かめる決意を固めるのだった。
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