十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第五章 忍びよる影

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その日の夜、エラナは護衛騎士のレオを自室に呼び出した。静まり返った部屋に、二人の息遣いだけが微かに響く。



「レオ…あなたに、お願いがあるの」


エラナは、ろうそくの炎に揺れるレオの顔を、じっと見つめた。


「何なりと、お申し付けください」


レオは、膝をつき、恭しく頭を垂れた。


「…陛下と聖女マリアの関係を、調べてほしいの」



エラナの言葉に、レオは顔を上げた。

その眼差しには、驚きと、そして微かな戸惑いが混じっていた。


「それは…王妃様が、直接なさるべきことでは…」



「いいえ。わたくしには、できない。わたくしが動けば、必ず陛下の耳に入るでしょう。そして、また、冷たい言葉で突き放されるだけ」


エラナは、自嘲気味に微笑んだ。


「レオ、あなたしかいないの。わたくしは、このまま、真実を知らぬままではいられない。この胸のざわめきを、この手で終わらせたいのよ」



レオは、エラナの真剣な瞳に、やがて静かに頷いた。



「かしこまりました。王妃様のご意向、承知いたしました。命に変えても、真相を突き止めてみせます」



「ありがとう、レオ」


エラナは、安堵の息を漏らした。

レオは、そっと立ち上がると、再び深く頭を下げ、部屋を出ていった。



翌日、エラナは、レオからの報告を待つ間、庭園を散策していた。すると、不意に、背後から声をかけられた。


「…妻よ。なぜ、そのような顔をしている?」



振り返ると、アレンが立っていた。


エラナは、咄嗟に表情を取り繕う。


「陛下…」


「このところ、お前の顔から笑顔が消えた。何か、気に病むことでもあるのか?」



アレンの言葉に、エラナの心は揺れた。もしかして、アレンは、自分のことを気にかけてくれているのだろうか。



「いえ…陛下に、ご心配をおかけするようなことは…」



エラナは、そう言いかけたが、ふと、レオの言葉が脳裏をよぎった。


「陛下は、マリア様を大変信頼しておられ、頻繁に謁見をなさっています。時には、二人きりで、長時間…」



エラナは、胸の奥から湧き上がる疑惑を、抑えることができなかった。


「陛下は…最近、聖女マリア様と、よくお会いになられていると、伺いましたが…」



エラナの言葉に、アレンの表情が一瞬にして凍りついた。



「…誰から、そんなことを聞いた」



アレンの、氷のように冷たい声に、エラナは言葉を失った。



「…レオか」


アレンの瞳には、怒りが宿っていた。


「レオは、お前の護衛騎士だ。余の妻の護衛をするのが、その役目。だが、余と、余が信頼する聖女との仲を詮索するような、下賤な真似を許すわけにはいかぬ」




エラナは、震える声で言った。




「陛下…わたくしは、ただ…」



「黙れ。…余は、お前を信頼していた。いや、信頼しようとしていた。だが、お前は、余を裏切った」



アレンは、それだけを言うと、エラナに背を向け、庭園の奥へと去っていった。エラナは、その場に立ち尽くし、ただ、アレンの遠ざかっていく背中を、呆然と見つめることしかできなかった。



その夜、エラナは、レオに会うことはできなかった。そして、アレンもまた、エラナの部屋を訪れることはなかった。冷たい寝台の上で、エラナは、一人、孤独に震えていた。




「違う…わたくしは、ただ、あなたのことを知りたかっただけなのに…」


エラナは、声にならない声で呟いた。



だが、もう、アレンには、その声は届かない。



アレンとエラナの間には、深い溝が、深く、深く、刻まれてしまったのだった。
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