十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第六章 忍びよる影2

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エラナは、それから数日間、アレンの姿を見ることはなかった。王宮の廊下で、庭園で、偶然すれ違うこともない。


まるで、最初から存在しなかったかのように、アレンはエラナの日常から姿を消した。


エラナは、自室に引きこもりがちになった。窓から見える空はどこまでも青く澄んでいるのに、エラナの心には、重く淀んだ雲が垂れ込めていた。



そんなある日、レオがこっそりとエラナの部屋を訪れた。



「王妃様…」


レオの顔には、疲労の色が濃く浮かんでいた。



「レオ…」


エラナは、レオを部屋の中に招き入れた。


「何か、分かったの?」


エラナは、期待と不安の入り混じった目で、レオを見た。



「はい…」


レオは、一度、深く息を吸い込んだ。


「陛下は、毎夜、聖女マリア様の部屋に通っておられます」


その言葉に、エラナの心臓が、まるで氷で突き刺されたかのように、冷たくなった。


「嘘…」


「ですが、本当なのです。この目で確かめました。…王妃様、私は、陛下が…」


「それ以上は、言わないで」


エラナは、震える声で、レオの言葉を遮った。知ってしまった。知りたくなかった真実を、とうとう知ってしまった。


「…王妃様」


レオは、エラナの手を、そっと握った。


「…お辛いでしょう。ですが、私には、王妃様をお守りする義務があります。…もし、陛下が、王妃様を顧みないのであれば、私には、別の考えが…」



レオの、真剣な眼差しに、エラナは戸惑った。


「別の考え…?」


「はい。…この結婚を、解消する手立てを、私が…」



「待って。レオ…あなた、何を言っているの?」



エラナは、レオから手を引いた。


「この結婚は、わたくしの父の命令よ。それに、陛下は、国の国王。そんな簡単に…」


「いいえ。王妃様。陛下が、婚姻の義務を果たしていないのであれば、それは…」



レオは、そこまで言いかけて、口を閉ざした。そして、エラナを、まるで幼い子供を慈しむかのような、優しい目で見た。



「王妃様…どうか、ご安心ください。私は、王妃様のお味方です。…必ず、王妃様を、この苦しみから、救い出してみせます」



レオの、あまりにも真摯な言葉に、エラナは、ただ、言葉を失った。アレンからの冷たい仕打ちと、レオからの、あまりにも熱い言葉。



その二つの間で、エラナの心は、激しく揺れ動いていた。


その夜、エラナは、もう一度、レオからの言葉を反芻した。アレンは、聖女マリアの元へ通っている。レオは、その結婚を解消する手立てを探している。


「…どうすればいいの」


エラナは、冷たい寝台の上で、一人、呟いた。このまま、アレンの裏切りを、ただ、耐え忍んでいくのか。


それとも、レオの助けを借りて、この結婚から抜け出すのか。


どちらを選んでも、茨の道だ。


エラナは、ただ、ただ、孤独に、夜の闇に身を委ねるしかなかった。
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