十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第7章 心の揺らぎ

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「王妃様…」


レオは、エラナの前に、そっと一枚の紙を差し出した。


「これは…?」


「聖女マリア様の、出生の秘密です」


エラナは、震える手で紙を受け取った。


そこに記されていたのは、マリアが、実は、アレンの亡き母、先代王妃の遠縁にあたる貴族の娘であるということ。


そして、幼い頃から病弱で、アレンが、彼女を救うために、聖女の称号を与え、特別な庇護下に置いていたという事実だった。



「どうして…どうして、陛下は、このことを、わたくしに話してくださらなかったの…」


エラナは、目頭を押さえた。


アレンは、ただ、国の、そして愛する人のために、心を痛めていただけだった。自分は、なんと愚かだったのだろう。



「王妃様…」


レオは、エラナの肩に、そっと手を置いた。


「…陛下は、王妃様を、信頼されていなかったのでしょう。いや…信頼する以前に、心を開くことを拒んでいらした。…それは、王妃様が、陛下に心を開いていなかったからではありませんか?」


レオの言葉に、エラナは、ハッとした。


確かに、自分は、この結婚を、ただの儀式としか考えていなかった。アレンの心に寄り添おうともせず、ただ、この結婚から抜け出すことばかりを考えていた。



「わたくしは…なんて、愚かだったの…」



エラナは、涙をこぼした。


その涙は、アレンへの後悔と、そして、レオへの申し訳なさからくるものだった。


「…レオ。あなたには、本当に、感謝しているわ。わたくしは、あなたの言葉で、目を覚まさせられた」


エラナは、涙を拭い、レオの目を見た。


「もう、大丈夫よ。わたくしは、もう、あなたに、何も頼まない。…これからは、わたくし自身の力で、陛下と向き合っていくわ」



レオは、エラナの決意に満ちた眼差しに、静かに頷いた。



「…かしこまりました。王妃様のご決意、承知いたしました。…ですが、もし、何かあった時には、いつでも、私を頼ってください」


レオは、そう言うと、深く頭を下げ、部屋を出ていった。



その日の夜、エラナは、アレンの部屋を訪れた。部屋の扉を叩くと、アレンの声が、冷たく響いた。


「…誰だ」



「陛下…わたくしです。エラナです」


部屋の中から、沈黙が返ってきた。


エラナは、もう一度、扉を叩こうとしたが、その手を止めた。



「…わたくしは、知りました。聖女マリア様のことを…」



エラナが、そう言うと、中から、扉が開いた。



アレンが、厳しい表情で立っていた。




「…何の用だ」



アレンの言葉に、エラナは、震える声で言った。



「…お詫びを、申し上げたくて。わたくしは、陛下を、疑っていました。聖女マリア様との関係を…」


アレンは、何も言わずに、エラナを部屋の中に招き入れた。そして、二人は、向かい合って座った。



「…なぜ、わたくしに、話してくださらなかったのですか?」



エラナは、震える声で尋ねた。



「…言う必要がないと、思ったからだ」



アレンは、静かに答えた。



「余は、お前との結婚を、ただの政略結婚としか考えていなかった。…お前も、そうだったのだろう?」



アレンの言葉に、エラナは、何も言い返せなかった。



「だが…」


アレンは、そこで言葉を止めた。


そして、エラナの目を、じっと見つめた。



「…だが、お前は、この結婚から、抜け出そうとしていた。…お前の護衛騎士と、二人で…」



アレンの言葉に、エラナの心臓が、激しく高鳴った。



「…違います! わたくしは、ただ、真実を知りたかっただけで…」



「…もう、いい」



アレンは、冷たく、エラナの言葉を遮った。



「…余は、お前を、信用できない。…お前は、余の妻ではない。…ただ、この国の王妃という、名ばかりの存在だ」



アレンは、そう言うと、立ち上がり、窓の外に目を向けた。


エラナは、その場に立ち尽くし、ただ、アレンの、遠ざかる背中を、見つめるしかなかった。



「…お前は、出て行け」


アレンの言葉が、冷たく、部屋に響いた。


エラナは、涙をこぼしながら、部屋を後にした。



もう、何かが、終わってしまった。



そう、エラナは、心の奥底で、感じていた。
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