十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第八章 崩壊の序曲

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エラナは、自室に戻ると、ただ一人、冷たい床に座り込んだ。アレンの部屋で告げられた言葉が、何度も、何度も、頭の中で反響する。


「余は、お前を、信用できない」


その言葉が、エラナの心に、深い傷を刻んだ。



愛のない結婚だと分かっていた。それでも、いつか、ほんの少しでも、心を通わせられる日が来るのではないかと、心のどこかで期待していた。


だが、その淡い希望は、アレンの冷たい言葉によって、跡形もなく消え去った。




「王妃様…」



扉の外から、レオの声が聞こえた。



エラナは、立ち上がり、扉を開けた。レオは、心配そうな表情で立っていた。



「レオ…」



エラナは、レオの顔を見ると、思わず涙をこぼした。



「王妃様…一体、何が…」



レオは、エラナの様子に、何かを察したようだった。



「陛下に…拒絶されました。わたくしは、もう…」




エラナは、それ以上、言葉を続けることができなかった。



レオは、何も言わずに、ただ、エラナを、そっと抱きしめた。



「…大丈夫です。王妃様。私が、ついております」




レオの腕の中で、エラナは、まるで凍てついた心が、少しずつ溶けていくような感覚を覚えた。


アレンの冷たさとは違う、温かく、力強い腕だった。




「レオ…」



エラナは、レオの胸に顔を埋め、泣き続けた。


その涙は、アレンへの悲しみなのか、それとも、レオへの安堵なのか、自分でも分からなかった。



その夜、レオは、エラナの部屋で、一晩中、彼女に寄り添っていた。



エラナは、レオの温もりに、いつしか眠りに落ちた。



翌朝、エラナが目を覚ますと、レオは、まだ、そばにいた。



「レオ…」



「おはようございます、王妃様」


レオは、優しい声で言った。


「…ありがとう。あなたのおかげで、少し、心が安らぎました」



「当然のことでございます。…王妃様」



レオは、そこで言葉を区切った。



そして、真剣な眼差しで、エラナを見つめた。



「…もう、陛下に、心を砕くのは、おやめください。陛下は、王妃様を、愛してはおられません。…ですが、私は、違います」



レオの言葉に、エラナは、ハッとした。



「…レオ?」



「私は、初めて王妃様にお会いした時から…いえ、もっと前から、王妃様を、お慕いしておりました」



レオは、そう言って、エラナの手を、そっと握った。



「…ですから、どうか、私を、頼ってください。私と共に、この王宮を出て、新しい人生を…」



レオの言葉に、エラナは、何も言えなかった。



アレンへの失望と、レオからの告白。二つの感情が、エラナの心の中で、激しく渦巻いた。




「…レオ。わたくしは…」



エラナは、言葉を失った。


このまま、レオの言葉に甘えてしまっていいのだろうか。だが、アレンからの愛を得られない今、レオの温かさが、エラナの心を、強く引きつけていた。




王宮の朝日は、いつもと変わらず、輝いていた。



だが、エラナの心は、もはや、元には戻れないところまで来ていた。



崩壊の序曲が、静かに、だが確実に、鳴り響き始めたのだった。
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