十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第十二章 追跡と告白

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夜の闇の中、レオとエラナは、王都から遠く離れた森の道を進んでいた。月明かりが木々の隙間から漏れ、二人の足元をぼんやりと照らしている。



「レオ…」


エラナは、不安げにレオの服の裾を掴んだ。


「大丈夫です、エラナ様。もうすぐ、この森を抜けられます」



レオは、エラナの手を握り直し、力強く言った。その温かさが、エラナの心に安らぎを与えた。だが、その安らぎも、長くは続かなかった。




馬の蹄の音が、背後から聞こえてきた。複数の馬の、激しい足音だ。



「まずい…」



レオは、顔を青くした。



「エラナ様、隠れてください!」



レオは、エラナを、近くの茂みに押し込んだ。そして、自らは剣を抜き、音のする方を睨みつけた。



やがて、松明の光と共に、複数の馬に乗った兵士たちが現れた。その先頭に立っていたのは、アレンだった。



「…レオ!」



アレンは、馬から飛び降り、レオに剣を向けた。



「陛下…」



レオは、アレンの剣を、自分の剣で受け止めた。二人の剣がぶつかり合い、甲高い音が、夜の森に響き渡った。



「貴様…! よくも、余の妻を…!」



アレンは、怒りに満ちた声で叫んだ。


「違います、陛下! 私は、ただ…」



レオは、反論しようとしたが、アレンの剣の勢いに、言葉を詰まらせた。



「王妃はどこだ!」



アレンは、レオの剣を弾き飛ばし、レオの首に剣を突きつけた。



その時、エラナが、茂みから飛び出してきた。



「やめてください、陛下!」



エラナは、アレンとレオの間に、身を投げ出した。



「エラナ…」



アレンは、驚きに、剣を引いた。



「…あなたは、なぜ、ここに」




アレンは、エラナの顔を見て、震える声で言った。




「…わたくしは、もう、あなたの妻ではありません。…そして、レオは、何も悪くない。すべて、わたくしが決めたことなのです」



エラナの言葉に、アレンは、信じられない、といった表情でエラナを見た。



「…何を言っているのだ。お前は、余に…愛想を尽かしたのか」



「…はい」



エラナは、涙をこぼしながら、アレンの目を、真っ直ぐに見つめた。



「…あなたは、わたくしを愛していない。…だから、わたくしは、愛してくれる人の元へ、行こうと決めたのです」



エラナの言葉に、アレンは、絶句した。



「…違う…」



アレンは、震える声で言った。



「…違うのだ、エラナ。余は…余は、お前を…」



アレンは、そこで言葉を詰まらせた。そして、エラナの顔を、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと両手で包み込んだ。



「…余は、お前を、愛している。…信じてくれ」



アレンの言葉に、エラナは、驚きに目を見開いた。



「…嘘を、言わないで…」


「嘘ではない! …余は、お前が、幼い頃から、ずっと…」


アレンの言葉に、エラナは、胸が締め付けられるような痛みを感じた。


「…そんなはずは…」



その時、レオが、アレンに言った。


「陛下。…もう、おやめください。王妃様は、あなたを愛していません。…そして、王妃様を愛しているのは、私です」



レオの言葉に、アレンは、ゆっくりと振り返った。二人の視線がぶつかり合い、火花が散った。


「貴様…! 余の目の前で…!」



アレンは、再びレオに剣を向けようとした。だが、エラナが、その腕を掴んだ。



「陛下…もう、やめてください。…これ以上、争うのは、もう、嫌です」


エラナの言葉に、アレンは、剣を収めた。


そして、レオを、睨みつけるように見た。


「…余は、お前を、許さぬ。…だが、エラナの意思を、尊重しよう」



アレンは、そう言うと、エラナに背を向け、馬に乗り込んだ。


「…だが、覚えておけ、レオ。エラナは、必ず、余の元へ、戻ってくる」



アレンは、そう言い残すと、馬を走らせ、夜の闇の中へ、消えていった。



エラナは、その場に立ち尽くし、ただ、アレンの遠ざかる後ろ姿を、見つめていた。


その胸には、アレンの最後の言葉と、レオの愛の言葉が、激しくぶつかり合っていた。




エラナの心は、今、どちらへ向かおうとしているのだろうか。

その答えは、まだ、夜の闇の中に、隠されたままだった。
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