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第4章 花蕾の聖女
24・私、ダークベルに行きたい
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「……ぃ……ルシェ……おいっ!」
がくんっと激しく揺さぶられ、ルシェラの意識が強引に引き戻された。
「……私……生きてる?」
光の矢に胸を貫かれたはずだと記憶を辿り、そっと胸に手を当ててみる。傷もなければ痛みもない。息苦しさから解放され、深く吸い込んだ空気が体の隅々にまで行き渡る感覚に生きていると実感した。
「大丈夫かよ?」
頭上に聞こえた声に目を向けると、どこか見覚えのある赤毛の男がこちらを覗き込んでいた。
――見たことがある。けれど、誰だっただろう。混濁する意識の向こうに、赤毛の男が見え隠れしている。確かに知っている顔なのに、名前がすぐに出てこない。
返答しないことに痺れを切らしたのか、男が不機嫌に眉を顰めて琥珀色の瞳を胡乱げに細めた。
「おい、ルシェラ。聞こえてんのか!?」
「……ルシェラ……?」
「はぁっ? お前まさか頭でも打ったんじゃねぇだろうな? 派手に倒れやがって、ぼんやりしてんじゃねぇぞ」
男に背を支えられたまま周囲を見回してみると、割れたティーカップが床の上に散乱していた。こぼれた液体にそっと触れると、まだ熱い。どうやら淹れたてだったようだ。
見覚えのある部屋。見覚えのある赤毛の男。淹れたばかりのお茶と、割れたティーカップ。それを知っていると確信していながら、過去と現在に入り乱れる記憶がルシェラの意識をかき乱した。
脳裏に鮮烈に残る泉の青。その冷たい腕に引き摺られないようにと無意識に男のシャツを握りしめると、頭上ではっと息を呑む音がした。
「……私、倒れてたの?」
「あ? あぁ、そうだ。言っとくがお前に触れたのは仕方なくだからな! 呼んでも返事しねぇお前が悪い」
その悪態をほんの少し懐かしいと感じた瞬間、ルシェラの記憶が一気に現在へと引き戻された。意志の戻った薄桃色の瞳が、強い光を宿して男を見上げる。
忘れていたとは思えないほど自然に、ルシェラの口から男の名前がこぼれ落ちた。
「ケイヴィス……私、どれくらい意識を失ってた?」
「そんなに長くはねぇ。数分だろ」
確かに五分で戻ると言っていたネフィの姿も部屋にはない。割れたカップがまだ温かい事からも、ケイヴィスの言葉通り時間はそんなに経っていないのだろう。
けれどそのたった数分に見た過去は濃密で、目を閉じるだけでもまだ濃い血臭が、あの森の冷たい空気がルシェラの嗅覚を刺激する。よみがえる光景を頭から追い払おうと首を横に振れば、視界の隅――割れたカップの側にルダの揺り籠が転がり落ちているのが見えた。
「……ルダの、揺り籠」
夢に見た過去が本当なら、ルダの揺り籠に封じられていたのはフォルセリアの記憶と言う事になる。
先程目にした光はもう放っていなかったが、透き通るアイスブルーの箱はいつもよりその色を濃くしているようにも見えた。
そっと手に取った瞬間、箱がぱしゃん――と音を立てて水に変わる。驚くほどに冷たい水が、ルシェラの腕を濡らしながら垂れていく。
後に残ったのは、一枚の白い羽根だった。
「これは、フォルセリアの……」
震える指先で摘まみ上げると、羽根は風化するように解けていく。ふわりと舞うわずかな粒子が光ったのは一瞬で、それはルシェラの肌に滲むようにして溶け込んでいった。
指先から、柔らかな熱と共に流れ込んでくるフォルセリアの記憶。レヴィリウスを愛し、愛された優しい記憶だ。その熱が指先から全身に伝わり、最後に胸を温かく包む頃、ルシェラはフォルセリアの記憶を自分の過去としてしっかりと認識した。
「レヴィン……」
名を呼ぶと、自然と涙が一粒こぼれ落ちた。
「おい、ルシェラ。一体何が起こってやがる?」
さすがに困惑顔のケイヴィスが、眉を顰めたまま不審げな様子でルシェラを見下ろしている。それでもいつもの傲慢な態度はなりを潜めていて、様子のおかしいルシェラを気遣っていることが見て取れた。
「……ううん、何でもないの」
「何でもないって顔かよ。お前に何かあったら、俺がアイツに殺られるんだぞ」
「大丈夫。私は平気。記憶が……フォルセリアの記憶が戻ったみたい」
「あぁ? 封印されてたのは、力じゃなくて記憶だったってわけか? 意味分かんねぇコトしてんのな。どうせならもっと役に立つモン入れときゃ良かったのによ」
「ううん、これでいい」
濡れた手を握りしめて、ルシェラが深く息を吸った。
いにしえの時代。フォルセリアがいた聖域の森と砦は、長い年月を経て今のリトベルへと変わっていったのだろう。リナス広場の噴水の水源は、おそらくルダの泉と同じものだ。
罪を犯した聖女のことなど、後世に伝えられるはずもない。残された文献には、真実が歪められて記されていたのだ。
そしてダークベルと呼ばれるあの場所は、いにしえの時代にレヴィリウスが入り口を開き、フォルセリアが封印した深淵そのものだ。
悪魔をも捕らえる虚無の牢獄。その魔手に呑まれることなく、逆に強い精神を貫き続けたレヴィリウスが深淵を掌握したのだろう。
悪魔を喰らい尽くすとされた深淵の闇はレヴィリウスの支配下に落ち、わずかに残った引力でシャドウが引き寄せられていた。シャドウの力を細々と喰らいながら、きっとレヴィリウスは内側から扉を開こうと試みたはずだ。けれど聖女の力で封じられた扉をくぐるには、聖女であるルシェラとの契約なしには無理だったのだ。
一緒に封じられた悪魔のすべてを狩り、その力を自分のものとして、深淵の虚無に打ち勝ったレヴィリウス。けれどそこから逃れる術はなく、必ず見つけると交わした約束を胸に、たったひとりで長い時間を生きてきた。
それが今のルシェラには分かる。
フォルセリアの記憶を取り戻したからこそ、レヴィリウスの真の思いが痛いくらいに伝わってくる。
『必ずあなたに会いに行くわ。だからそれまで私を待っていて』
我ながらひどい約束を交わしたものだと、自責の念に駆られてしまう。
約束を提示したのは自分の方なのに、ルシェラ自身が記憶を封じることで約束自体を忘れてしまっていた。
それでも健気に深淵のダークベルで再会の時を待ってくれていたレヴィリウスに、今こそ会いに行かなければならないと強く思う。
約束を果たすべきは、今なのだ。
「ケイヴィス。私、ダークベルに行きたい」
「行きたきゃ行けばいいだろ」
素っ気なく応えたケイヴィスが、ドレッサーの鏡を顎で指す。二人の姿を映す鏡面は揺れておらず、ネフィが戻る気配はまだない。
「ダークベルから戻る時は一瞬なんだけど、一人で向こうへ行ったことがなくて……一緒に……その、行ってくれると嬉しいんだけど」
「……ホント、役に立たねぇ記憶。ご大層に封印するんなら力にしてろよ」
そう悪態をつきつつも、ケイヴィスはルシェラの腕を取って体を引き起こしてやる。
勢いが付きすぎたのか、ケイヴィスの胸にルシェラの頭がコツンとぶつかった。その拍子にふわりと舞った濃密な甘い香りが、ほんの一瞬だけケイヴィスから理性を奪う。
記憶を取り戻し、レヴィリウスへの思いを完全に認めたルシェラから放たれる、濃い聖女の匂い。悪魔を引き寄せる甘美な罠に堕ちそうになったケイヴィスが、抜け出した理性の尻尾をギリギリの所で引き戻した。
「ケイヴィス?」
「……っ、何でもねぇっ。オラ、さっさと行くぞ!」
「う、うん」
気を紛らわせようと乱暴に頭を掻いて、ケイヴィスが渋々とルシェラに手を差し出した。はぐれないようにと強く握れば、ケイヴィスの体がおかしいくらいに跳ね上がる。
「大丈……」
「何でもねぇっつってんだろ!」
そう叫んだのを合図に、ケイヴィスはルシェラを引き摺るようにして鏡の中へと飛び込んでいった。
誰もいなくなった部屋。揺れる鏡面に黒髪の男が歪んで映った瞬間、鈍い音を立ててドレッサーの鏡が粉々に砕け散った。
***
時刻はまだ昼を過ぎて間もないはずだった。なのに、見上げた空は黄昏時かと思うほどに暗い。それに加えて、空の高いところにある太陽を直視できている現実にルシェラは困惑して周囲を見回した。
ダークベルへ繋がっているはずの鏡を通って出た場所は、フォルセリア神殿の裏庭だった。小さな庭園として作られている裏庭には色とりどりの花が咲き乱れている。けれど、そのどれもがすべてモノクロに変化していた。
周りの風景も、空も、灰色のガラスを通して見ているかのようにすっぽりと色が抜け落ちている。眩しい太陽ですら直視できるほどだ。
まるで時を止めてしまったかのような風景。けれど風が吹けばモノクロの花が揺れ、かすかな香りが鼻腔に届く。
「ここは……」
「……ヤベぇぞ、ルシェラ」
「え?」
「引き寄せられた」
裏庭の奥を凝視したまま、ケイヴィスが握っていたルシェラの手を強引に自身の後ろへと引き寄せた。汗ばんだ手が、かすかに震えている。
「もう回りくどいことはやめだ」
声と共に、裏庭の一角に黒い影が集結する。それは棚引くように長い黒髪へと変化し、鮮血に染まった狂気の瞳でルシェラを見つめていた。
「お前を殺す。聖女……ルシェラ=メイヴェン」
がくんっと激しく揺さぶられ、ルシェラの意識が強引に引き戻された。
「……私……生きてる?」
光の矢に胸を貫かれたはずだと記憶を辿り、そっと胸に手を当ててみる。傷もなければ痛みもない。息苦しさから解放され、深く吸い込んだ空気が体の隅々にまで行き渡る感覚に生きていると実感した。
「大丈夫かよ?」
頭上に聞こえた声に目を向けると、どこか見覚えのある赤毛の男がこちらを覗き込んでいた。
――見たことがある。けれど、誰だっただろう。混濁する意識の向こうに、赤毛の男が見え隠れしている。確かに知っている顔なのに、名前がすぐに出てこない。
返答しないことに痺れを切らしたのか、男が不機嫌に眉を顰めて琥珀色の瞳を胡乱げに細めた。
「おい、ルシェラ。聞こえてんのか!?」
「……ルシェラ……?」
「はぁっ? お前まさか頭でも打ったんじゃねぇだろうな? 派手に倒れやがって、ぼんやりしてんじゃねぇぞ」
男に背を支えられたまま周囲を見回してみると、割れたティーカップが床の上に散乱していた。こぼれた液体にそっと触れると、まだ熱い。どうやら淹れたてだったようだ。
見覚えのある部屋。見覚えのある赤毛の男。淹れたばかりのお茶と、割れたティーカップ。それを知っていると確信していながら、過去と現在に入り乱れる記憶がルシェラの意識をかき乱した。
脳裏に鮮烈に残る泉の青。その冷たい腕に引き摺られないようにと無意識に男のシャツを握りしめると、頭上ではっと息を呑む音がした。
「……私、倒れてたの?」
「あ? あぁ、そうだ。言っとくがお前に触れたのは仕方なくだからな! 呼んでも返事しねぇお前が悪い」
その悪態をほんの少し懐かしいと感じた瞬間、ルシェラの記憶が一気に現在へと引き戻された。意志の戻った薄桃色の瞳が、強い光を宿して男を見上げる。
忘れていたとは思えないほど自然に、ルシェラの口から男の名前がこぼれ落ちた。
「ケイヴィス……私、どれくらい意識を失ってた?」
「そんなに長くはねぇ。数分だろ」
確かに五分で戻ると言っていたネフィの姿も部屋にはない。割れたカップがまだ温かい事からも、ケイヴィスの言葉通り時間はそんなに経っていないのだろう。
けれどそのたった数分に見た過去は濃密で、目を閉じるだけでもまだ濃い血臭が、あの森の冷たい空気がルシェラの嗅覚を刺激する。よみがえる光景を頭から追い払おうと首を横に振れば、視界の隅――割れたカップの側にルダの揺り籠が転がり落ちているのが見えた。
「……ルダの、揺り籠」
夢に見た過去が本当なら、ルダの揺り籠に封じられていたのはフォルセリアの記憶と言う事になる。
先程目にした光はもう放っていなかったが、透き通るアイスブルーの箱はいつもよりその色を濃くしているようにも見えた。
そっと手に取った瞬間、箱がぱしゃん――と音を立てて水に変わる。驚くほどに冷たい水が、ルシェラの腕を濡らしながら垂れていく。
後に残ったのは、一枚の白い羽根だった。
「これは、フォルセリアの……」
震える指先で摘まみ上げると、羽根は風化するように解けていく。ふわりと舞うわずかな粒子が光ったのは一瞬で、それはルシェラの肌に滲むようにして溶け込んでいった。
指先から、柔らかな熱と共に流れ込んでくるフォルセリアの記憶。レヴィリウスを愛し、愛された優しい記憶だ。その熱が指先から全身に伝わり、最後に胸を温かく包む頃、ルシェラはフォルセリアの記憶を自分の過去としてしっかりと認識した。
「レヴィン……」
名を呼ぶと、自然と涙が一粒こぼれ落ちた。
「おい、ルシェラ。一体何が起こってやがる?」
さすがに困惑顔のケイヴィスが、眉を顰めたまま不審げな様子でルシェラを見下ろしている。それでもいつもの傲慢な態度はなりを潜めていて、様子のおかしいルシェラを気遣っていることが見て取れた。
「……ううん、何でもないの」
「何でもないって顔かよ。お前に何かあったら、俺がアイツに殺られるんだぞ」
「大丈夫。私は平気。記憶が……フォルセリアの記憶が戻ったみたい」
「あぁ? 封印されてたのは、力じゃなくて記憶だったってわけか? 意味分かんねぇコトしてんのな。どうせならもっと役に立つモン入れときゃ良かったのによ」
「ううん、これでいい」
濡れた手を握りしめて、ルシェラが深く息を吸った。
いにしえの時代。フォルセリアがいた聖域の森と砦は、長い年月を経て今のリトベルへと変わっていったのだろう。リナス広場の噴水の水源は、おそらくルダの泉と同じものだ。
罪を犯した聖女のことなど、後世に伝えられるはずもない。残された文献には、真実が歪められて記されていたのだ。
そしてダークベルと呼ばれるあの場所は、いにしえの時代にレヴィリウスが入り口を開き、フォルセリアが封印した深淵そのものだ。
悪魔をも捕らえる虚無の牢獄。その魔手に呑まれることなく、逆に強い精神を貫き続けたレヴィリウスが深淵を掌握したのだろう。
悪魔を喰らい尽くすとされた深淵の闇はレヴィリウスの支配下に落ち、わずかに残った引力でシャドウが引き寄せられていた。シャドウの力を細々と喰らいながら、きっとレヴィリウスは内側から扉を開こうと試みたはずだ。けれど聖女の力で封じられた扉をくぐるには、聖女であるルシェラとの契約なしには無理だったのだ。
一緒に封じられた悪魔のすべてを狩り、その力を自分のものとして、深淵の虚無に打ち勝ったレヴィリウス。けれどそこから逃れる術はなく、必ず見つけると交わした約束を胸に、たったひとりで長い時間を生きてきた。
それが今のルシェラには分かる。
フォルセリアの記憶を取り戻したからこそ、レヴィリウスの真の思いが痛いくらいに伝わってくる。
『必ずあなたに会いに行くわ。だからそれまで私を待っていて』
我ながらひどい約束を交わしたものだと、自責の念に駆られてしまう。
約束を提示したのは自分の方なのに、ルシェラ自身が記憶を封じることで約束自体を忘れてしまっていた。
それでも健気に深淵のダークベルで再会の時を待ってくれていたレヴィリウスに、今こそ会いに行かなければならないと強く思う。
約束を果たすべきは、今なのだ。
「ケイヴィス。私、ダークベルに行きたい」
「行きたきゃ行けばいいだろ」
素っ気なく応えたケイヴィスが、ドレッサーの鏡を顎で指す。二人の姿を映す鏡面は揺れておらず、ネフィが戻る気配はまだない。
「ダークベルから戻る時は一瞬なんだけど、一人で向こうへ行ったことがなくて……一緒に……その、行ってくれると嬉しいんだけど」
「……ホント、役に立たねぇ記憶。ご大層に封印するんなら力にしてろよ」
そう悪態をつきつつも、ケイヴィスはルシェラの腕を取って体を引き起こしてやる。
勢いが付きすぎたのか、ケイヴィスの胸にルシェラの頭がコツンとぶつかった。その拍子にふわりと舞った濃密な甘い香りが、ほんの一瞬だけケイヴィスから理性を奪う。
記憶を取り戻し、レヴィリウスへの思いを完全に認めたルシェラから放たれる、濃い聖女の匂い。悪魔を引き寄せる甘美な罠に堕ちそうになったケイヴィスが、抜け出した理性の尻尾をギリギリの所で引き戻した。
「ケイヴィス?」
「……っ、何でもねぇっ。オラ、さっさと行くぞ!」
「う、うん」
気を紛らわせようと乱暴に頭を掻いて、ケイヴィスが渋々とルシェラに手を差し出した。はぐれないようにと強く握れば、ケイヴィスの体がおかしいくらいに跳ね上がる。
「大丈……」
「何でもねぇっつってんだろ!」
そう叫んだのを合図に、ケイヴィスはルシェラを引き摺るようにして鏡の中へと飛び込んでいった。
誰もいなくなった部屋。揺れる鏡面に黒髪の男が歪んで映った瞬間、鈍い音を立ててドレッサーの鏡が粉々に砕け散った。
***
時刻はまだ昼を過ぎて間もないはずだった。なのに、見上げた空は黄昏時かと思うほどに暗い。それに加えて、空の高いところにある太陽を直視できている現実にルシェラは困惑して周囲を見回した。
ダークベルへ繋がっているはずの鏡を通って出た場所は、フォルセリア神殿の裏庭だった。小さな庭園として作られている裏庭には色とりどりの花が咲き乱れている。けれど、そのどれもがすべてモノクロに変化していた。
周りの風景も、空も、灰色のガラスを通して見ているかのようにすっぽりと色が抜け落ちている。眩しい太陽ですら直視できるほどだ。
まるで時を止めてしまったかのような風景。けれど風が吹けばモノクロの花が揺れ、かすかな香りが鼻腔に届く。
「ここは……」
「……ヤベぇぞ、ルシェラ」
「え?」
「引き寄せられた」
裏庭の奥を凝視したまま、ケイヴィスが握っていたルシェラの手を強引に自身の後ろへと引き寄せた。汗ばんだ手が、かすかに震えている。
「もう回りくどいことはやめだ」
声と共に、裏庭の一角に黒い影が集結する。それは棚引くように長い黒髪へと変化し、鮮血に染まった狂気の瞳でルシェラを見つめていた。
「お前を殺す。聖女……ルシェラ=メイヴェン」
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