盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

文字の大きさ
22 / 45
第三章 いざ!冒険へ!

あの日の回想 Ⅱ

しおりを挟む
◇◇◇

 ここに来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
 床に広がるのは、固く冷たいコンクリート。私の周りには鉄の格子が掛かっていて、中からは出られないようになっている。
 両手を背中の後ろで縛られ、両足首までも縛られているので自由に動くことは出来ない。コンクリートの上で横向きになっているので、体を動かすと硬い床に柔らかい皮膚が引っかかれて痛い。

 何でこうなったのだろう。

 そうだ、男の人に手伝いを頼まれて家まで着いて行ったのだ。そして扉をくぐって玄関で靴を履き替えると、目の前が一瞬にして真っ暗になった。
 頭が少しだけクラクラする気がする。何か変な薬でも飲まされたのだろうか。いくら両手と両足に力を入れてもビクともしない。

 このまま私は死ぬのだろうか。

 あぁ、勝手に孤児院を抜け出すからこういうことになるんだ。こんなことなら外の世界を知らずに、ずっと孤児院で育った方が良かった。

 あの檻の中は平和だ。

 外に興味なんか持たずにいれば良かった。今は自分の行動力を恨むばかりだ。
 すると、人が歩いてくる音が聞こえてきた。

「おー、やっと起きたか」

 檻の外に立っている男は、私をこの家まで案内した男だ。だが、その表情からは生気が抜け落ちていて、まるで死人のような顔だった。

「アンタッ……! こんなことしてなんのつもりだよ!」

 精一杯の威嚇をするように、歯をみせながら大声を出す。しかしそんなことなどお構い無しに、男は檻の中へと入ってきた。
 そのまま私に近づくと、顔の前でしゃがみ込んだ。

「殺されたくなかったら言う事を聞け」

 男はそう言うと同時に、ポケットからナイフを取り出して私の首元に突きつけてきた。

 首にピタッと冷たいナイフが当てられ、完全に抵抗する気が無くなる。

「何だよ……」

 しかし睨みは利かし続ける。精一杯の反抗心だ。

「なーに簡単なことだ。ドラゴンの姿になってこの村を襲って欲しい」

「は? ドラゴン? なれる訳ねぇだろそんなもん」

「残念ながらなれるんだよ」

 そう言うとその男は、人差し指を私の目の前に出した。するとその指からは、小さな火が出現した。

「どうなってんだよ……マジックか?」

 驚き声を上げながら尋ねると、男は声を上げて笑いだした。小さな檻の中に男の声が反響してとてもうるさい。

「お前は魔法も知らないんだな」

「魔法……?」

「そうだ、こういうおとぎ話のようなことを出来る人がこの世には居るんだぞ」

「じゃあお前は魔法使いだとでも言うのか?」

「はっはっは、その通り、私は魔法を勉強して魔法使いになったんだよ」

 男は指の先にあった火を消すと、悲しげな表情で私の顔を見た。

「でもなあ、この村で僕は嫌われてるんだ。胡散臭い魔法使いが居るって」

「はぁ……それが私が手伝うことと何か関係あるのかよ」

「ああ、大ありだ。お前にはこれからドラゴンの姿になって村で暴れてもらう」

「何のためにそんなことすんだよ、復讐か?」

 それを聞いた男は、またも声を上げて笑いだした。

「はっはっは、そんな訳が無いだろう。僕がお前を倒して、村の皆に魔法の腕を認めて貰うだけだ。なに、痛いことはしないから安心しろ」

 男はそう言うと、首に当てるナイフの力を強くした。

「さあどうする? このまま殺されるか村を襲うか」

「その他の選択肢は……?」

「無いに決まってるだろう。さあ、早く決めろ」

 そんな選択肢など無いにも等しい。少女は黙って頷くしかなかった。

「分かったよ。終わったら人間の姿に戻してくれるんだろ?」

 それを聞いた男の顔はパッと明るくなり、狂気染みた笑みを浮かべた。

「ああ! もちろんだ! 君は物分りが良くて助かる!」

 男はそう言うと、拘束されている私を無理矢理に立たせて口にテープを貼ると、大きなバッグに詰め込んだ。

 ======

 バッグの中から出されると、そこは村の外だった。
 男は「五分程村で暴れろ」とだけ言うと、少女に魔法を掛けた。全身が赤色の光に包まれたかと思うと、体はみるみるうちに大きくなり、上から村を眺めていた。

 頭の中に声が聞こえる。

『もし逃げようとしたり変なことをすればお前を殺す。だから不審な行動をするな。さあ行け!』

 男の声が頭の中に響くと、ドラゴンは街を襲い始めた。火を吹いたりは出来ないが、家くらいの大きさがある足を歩かせるだけで、村の人々は大騒ぎだ。

 胸が痛む。

 さっきまで楽しい思い出をくれた村を壊している。逃げ惑う人々の中には、赤ん坊や妊婦なども居た。
 もう、心が声を上げて泣いている。早く、アイツに倒されたい。そうすれば私は自由の身だ。そんなことを考えていると、目の前にアイツが現れた。何か大声を上げながら、村の人々へと指示を出している。それを受けた村の人々は家の中に逃げていき、アイツだけは私の目の前に居る。その目は誇らしげで、まるでこの村のヒーローであるかのようだ。

 早く魔法を掛けてくれ。もう、この姿で居るのは嫌だ。

 そう思ったと同時に、アイツが魔法をこちらへ向かって唱えた。指の先から眩い光が溢れ出した。その光が私を包み込む。眩しくて目をつぶると、光が全く見えなくなった。
 ゆっくりと目を開く。しかし、目を開けても真っ暗だ。

 何をしたの!?

 心の中でそう叫ぶと、男の笑い声が頭の中に響き出した。

『これはな、お前さんに呪いを掛けたんだよ。目の見えなくなる呪いだ。後で解いてやるから今は大人しく倒れる演技をしろ』

 目を見えなくした? 呪い?

 言ってることが全く理解出来ないが、今は男に従うしかない。

「グオオオオ」と鳴き声を上げながら倒れる演技をすると、足や体にロープのような物が巻かれる感覚がした。
 顔を床へと付けると、村の人達の声が聞こえてくる。

「魔法使いさん! このドラゴンは死んだんですか!」

 若い男の人の声だ。

「いや、死んでは居ない。視力を奪っただけだ。すぐに起きてしまうだろう」

 憎いアイツの声。お前が全て仕組んだことだろうと言ってやりたい。

「じゃあどうすれば!」

「このまま縛って山の奥にある洞窟に閉じ込めよう。確か動物用の檻があったはずだ」

「わ、分かりました! 村の男を呼んできて運ばせます!」

 今から檻に閉じ込められる? 嫌だ嫌だ。人間に戻してくれるって言ったじゃないか。思わず手に力が入る。
 すると、ズキリと心臓が傷んだと同時に、頭の中に声が聞こえてくる。

『不審な行動はするなと言ったはずだ。一日も経てば魔法と呪いを解いてやるから安心しろ』

 その声を最後に頭の中に声が響くことは無くなった。私は視力を失ったまま洞窟の奥にある檻へと閉じ込められたのだった。

◇◇◇
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

精霊の国に嫁いだら夫は泥でできた人形でした。

ひぽたま
児童書・童話
琥珀は虹の国の王女。 魔法使いの国の王太子、ディランに嫁ぐ船上、おいしそうな苺を一粒食べたとたんに両手をクマに変えられてしまった! 魔法使いの国の掟では、呪われた姫は王太子の妃になれないという。 呪いを解くために、十年間の牛の世話を命じられて――……! (「苺を食べただけなのに」改題しました)

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

アホの子と変な召使いと、その怖い親父たち

板倉恭司
児童書・童話
 森の中で両親と暮らす天然少女ロミナと、極悪な魔術師に仕える召使いの少年ジュリアン。城塞都市バーレンで、ふたりは偶然に出会い惹かれ合う。しかし、ふたりには重大な秘密があった──

処理中です...