盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

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エピローグ

双子の姉妹と魔女さん

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「魔女さんおはよー!」

「もー、お姉ちゃん朝から声が大きいよー」

 台所で朝食の準備をしていると、頭に寝癖を作ったルルとナナが起き出して来た。

「おはよう。二人とも今日は早いのね」

 味噌汁の入った鍋をオタマでかき混ぜながら返事をすると、ルルとナナが私を挟むようにして隣に立った。
 二人の目線は、遂に私と同じ高さにまで成長してしまった。未だにルルとナナの成長期は終わっておらず、いつ身長が抜かされてしまうのかとヒヤヒヤしている。

「今日の朝ごはんは何ー?」

 そんなことを考えていると、左隣に立っているルルから声が掛かった。

「今日はお味噌汁やらお魚やらで和食にするわよ」

「お魚! 鮭? ホッケ?」

「鮭ね」

「やったー! にぶんのいちで勝利~」

 ルルはガッツポーズをしながら意味の分からない勝利宣言をすると、そのまま居間のテーブルへと歩いて行った。

「ナナはどっちでも嬉しいけどね」

 右隣に立っていたナナは、苦笑いをしながら首を傾げた。

「そうよねぇ? ホッケも美味しいわよね」

「うん、鮭もホッケも大好きだよ。あ、何か手伝うことある?」

「じゃあお皿を用意してくれるかしら。ご飯を入れる器とお味噌汁を入れる器、あとは鮭用の四角いお皿を人数分お願い」

「はーい」

 ナナはニコニコとしながら返事をすると、台所で軽く手を洗い、食器の準備を始めた。
 ルルとナナが魔法使いさんを倒してから十五年が経った。二人の歳は二十才になる手間で、私を含めた三人の身長に大きな変わりは無い。

 十五年前、ドラゴンに襲われた人たちは幸い怪我だけで済んだようで、死人はひとりも出なかった。
 それに加え、あれだけ村を荒らしたと言うのに姉妹や私を責める村人は居なく、むしろドラゴンを退治したことに対して感謝までされてしまった。
 私は村の人たちに対して、五十年前に村を襲ったドラゴンが自分だと言うことを話しても、魔法使いが悪いという結論となり全く責められることは無かった。
 以上のことを含めて私と姉妹は村への引っ越しを提案されたが、師匠である魔女さんと暮らした家を手放す決断は出来ず、未だに何十年も住み続けた家に住んでいる。しかし買い物をする時は、よく村へと足を運ぶようになった。

 そんな平和な時間はどんどんと過ぎて行き、魔法使いさんを倒してから十五年も経ってしまったのだ。
 全ての料理を居間のテーブルに運び込むと、三人は椅子に腰を掛けた。姉妹は隣同士に座り、私はルルと向かい合うようにして座っている。

「それじゃあ、食べようかしら」

「うん! お腹減った!」

「食べよー」

 三人は同時に手を合わせると「いただきます」と声を合わせた。ルルは箸を手に取るや否や魚をつつき始め、ナナはお味噌汁の器を手に取った。二人は双子だが、性格は全く違うので見ていてとても面白い。
 そんなことを考えながら、私はご飯の入った器を手に取った。

「そう言えばあなたたち、もうすぐで二十歳になるわね」

 食器の音が響く食卓に、私の声が落ちた。

「うん、来月かな?」

 ルルは鮭の皮と身を器用に箸で分けると、銀色と黒色の皮を皿の端へと追いやっている。

「来月だね、それで二十歳」

 ナナは湯気の立ち上る味噌汁に息を吹きかけながら、私の目を見て瞬きをした。

「時間が経つのは早いわねぇ。昔は二十歳になると成人式って言うのがあったのよ」

「なにそれ、なんかの式なの?」

 ルルが首を傾げていると、ナナは「あー」と声を上げた。

「本で読んだことあるよ。綺麗な着物来たり昔の友達とか会うんだよね」

「なにそれ! 楽しそう! 私たちもやろうよ! 昔の友達なんか居ないけど!」

 悲しい台詞を堂々と言ってみせるルルだが、私としてはルルとナナに友達を用意してあげられなかったことは大いに悔やまれる。それでも、今は村の子供たちと仲良くしてくれて嬉しいのだが。

「お姉ちゃんとナナの二人だけでやるの?」

「いや、魔女さんも一緒に!」

 ブンブンと首を振って答えたルルの言葉に、飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになった。

「成人式っていうのはね、二十歳の人を祝う式なのよ?」

「いいのいいの! 魔女さんも見た目だけなら私たちと変わらないじゃん! ねぇ?」

 ナナに同意を求めるルル。するとナナは、箸を唇で挟みながらコクリと頷いた。

「うん、魔女さん、全然老けないもんね。ナナは大賛成だよ」

「お! さすがナナ! 分かってる~」

 ご機嫌そうに目を細めるルルと、こちらにまん丸で大きな瞳を向けてくるナナ。

「そう、ね」

 老けない。その言葉が胸の辺りにチクリと刺さる。
 魔力を奪われたあと、私には魔女としての資格がなくなったのかと思っていた。
 だが、五年・十年・十五年と年を重ねていくに連れて、自分が全く老けていないことに気が付いた。歳にしてみれば、私は既に六十歳は越えている。なのに肌はツルツルでシワがひとつもない。他の人は羨ましいと言う人も居るだろうが、私はそれがとても恐怖だった。
 だってこのまま順調に年を重ねていくと、ルルとナナが成長していっても私は全く成長しない。それだけならまだ良かった。このまま生きて行くと、確実に訪れる物がある。

 ――それは、死。

 あと八十年もすれば、ルルとナナにも訪れるであろう『死』。それは永遠の別れ。また愛する人を見送らなくてはいけないのか。
 それだけでも心が壊れてしまいそうなのに、その先にある『死』。それは私の死。魔力を失った私だが、年の取り方は未だに人間とは違う。ということは、私は死んだらどうなるのだろう。

 ――亡霊?

 師匠である魔女さんを見送り、ルルとナナを見送り、亡霊となるのだろうか。

 そんな未来のことを考えていると、胸の辺りがギューッと痛くなり、頭がどうにかなってしまいそうになる。

 ――もう、あんな思いはしたくない。


「魔女さん?」「体調悪い?」

 ルルとナナの声で、意識が現実に引き戻される。
 荒くなりそうな呼吸を整えながら二人の表情を見ると、段々と正気に戻ってくる。
 この子たちには心配をさせたくない。その思いで、精一杯の笑顔を作る。

「えぇ、それなら私も混ぜて貰おうかしら。成人式なんてやったことがないから楽しみだわ」

 口から吐き出たドス黒い言葉に、ルルとナナは嬉々とした表情でハイタッチを交わした。


 ――完――
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