孤独の水底にて心を知る

あおかりむん

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これまでのこと

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 いつになく重たい空気が漂うなか、ミオたちは収穫祭の晩餐会の会場である大食堂へと到着した。壁を背にして紫寮のテーブルの後方の席へミオが腰かけると隣にはヨハネスが座った。

 随分と低くなった気温に合わせて厚みを増したローブが床につかないように裾を手繰っているヨハネスを見るともなしに見ていると、不意に顔を覗き込まれた。

 ぼうっとしていたせいで過剰に身体が震えてしまった。そんなミオの様子を見て謝罪の言葉を口にしたヨハネスに首を横に振るだけで答えた。

 なんとなく気まずくなってしまって逸らした視線の先で、白寮の座席が目に入った。今回は随分と後ろの席に座ってしまったから、ただでさえ遠い距離がさらに開いている。無意識に目を凝らそうとしている自分に気が付いて、結局手元のテーブルの縁に視線を落ち着けた。

 そうこうしているうちに校長の挨拶が終わり乾杯の声が会場に響き渡った。テーブルに所狭しときらきらとしたご馳走が並ぶ。どれも出来立てでほかほかとした湯気とともに良い匂いを漂わせている。

 しかし、どうしたわけかきらびやかなご馳走を前にしても全く食欲がわいてこなかった。心配そうなヨハネスの視線に慌てて適当に目の前にあった料理を皿に取ったが、握ったフォークをなかなか動かすことが出来ない。しかたなく誤魔化すようにグラスに入った飲み物をちびちびと飲んだ。

 大食堂の高い天井に軽やかな少年たちの話し声がいくつもいくつも反響している。何故かそれに居心地の悪さを感じて、向かいの席に座るサミュエルをちらと盗み見た。彼は隣に座っている寮生とひどく楽しそうに笑い合っていた。時折、肘で小突き合いながら話すその姿を見てミオはパッと視線を自分の膝に落とした。

 サミュエルにはきっと嫌われてしまった。自分勝手なことばかりしたから。頑是ない子どものように癇癪を起して、謝りもしていない。いくらサミュエルが優しくても、嫌われて当然のひどい態度だ。でも嫌われるのも仕方がないと思う。どうせいつかはミオに愛想を尽かすのだ。その「いつか」がたまたま今だったというだけの話なのだから。

 この会場でたった1人うつむいているミオに無数の明るく朗らかなざわめきが降りかかる。それらにまるで陰気な自分を責め立てられているようにさえ感じて、胸が詰まってしまうようだった。

 なんだか耐えきれなくなってミオはほとんど手をつけていない皿をそのままに席を立った。そんなミオにヨハネスが声を掛けてきたが、何を言っているのかわからなくておざなりに返事をしたあと、すぐそこにある扉をくぐって大食堂を後にした。


「ミオ!」


 エントランスを抜けて外に出る直前で後ろから名前を呼ばれた。足を止めのろのろと振り返ったミオの元へサミュエルが駆け寄ってきた。


「どうしたんだよ? 具合悪いのか? 飯もほとんど食べてねェし」


 律義にミオの心配をするサミュエルの顔が見られなくて、彼のネクタイの結び目のあたりに視線を向けたまま首を横に振った。


「このあと、予定あるから、早めにもどる……」


 ミオの返答に、なおも何か聞きたげにするサミュエルに予定の内容を申告する。


「先輩と会うだけ……」


 そう言って踵を返したミオの背後でサミュエルが何度も大きく息を吸う音が聞こえていたけれど、結局再び彼がミオの名前を呼ぶことはなかった。


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