塩彼転じて甘彼となる。

柏木あきら

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3.最近の僕ら

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だけど酔いが覚めると、元に戻ってしまう。この時だって、じゃあいつ不動産屋に行く? って僕が言ったらハァ? って学は首を傾げた。挙句の果てに『一緒に住みたいんなら、素直にそう言えばいい』と向こうから言ってくる始末。あのときは、二週間くらい口を聞かなかったな。
喧嘩期間を経て、ようやく部屋を決め、住んでみたら意外と快適だった。僕は料理を作るのが好きで、学は掃除好き。週末には晩酌を楽しんで、セックスも楽しんだ。喧嘩はたまにしたけれど許容範囲だった。

なのに。最近、学の塩対応っぷりがひどい。話しかけても生返事、聞いているのかと問い詰めれば『疲れてるから黙っててくれないか』だなんて。

「はあ? 今日から出張?」
朝食を食べ終わった後、身支度をする学の荷物がやけに多い気がして、僕が聞くとしれっと出張で二日間帰ってこないから、と答えた。いやいや、何で当日の朝? てか僕が何も言わなかったらメールだけで済ませる気だったのか?
以前「今日から出張。週末まで戻らない」の一本のメールを日中に送ってきた。
晩ごはんの買い出しをしている最中だった僕がキレまくって大喧嘩したというのに、学はもう忘れてるのか、気にしていないのか。
はあ、とため息をついて気持ちを落ち着かせる。仕事前に喧嘩はよくないよな。
「分かった」

最近、毎日もやもやする。なんで僕はこいつと一緒に住んでるんだっけ。
一人で夜ご飯を食べながら、ふいに寂しくなって友人の田村に連絡する。学生からの友人で僕の歴代の彼氏を知っている田村。何かと心配してくれる。田村の彼女もまた僕の友人で、いつも二人で色々愚痴を聞いてくれるんだ。いや、いつまでも甘えてはいけないんだけど。
「だから別れろって言ってんだろ、そんな奴」
田村は容赦ない言葉を投げつける。彼にとって学は友人に寂しい思いばかりをさせるとんでもない彼氏らしい。愚痴を聞いてほしいなんて、連絡しながらも、いざ学を貶されると庇ってしまう。田村はため息をつきながら仕方ねぇなあ、と言った。
「次回なんかあったらあいつ許さねぇからな」
柔道部だった田村に学が締められないことを祈らなければ。

そんなある日。僕の気持ちがとうとう爆発してしまうことが起きた。
「あのさあ、高橋覚えてる?」
夕飯後、学がスマホでゲームをしながら聞いてきた。高橋……誰だっけ、と頭を傾けると達郎はさらに呟く。
「うちの会社の先輩だよ。前、沖縄料理屋で飲みに行ったろ」
「ああ、映画好きの高橋さん」
先週、学の会社メンバーとの飲み会で何故か僕も誘われて、参加することになった。そのメンバーの中に高橋さんもその中にいた。少しガタイが良くてたしか柔道やってたとか。ちょうど隣で気がついたら映画の話で盛り上がったっけ。彼も僕もマニアックな映画が好きだった。そう言えば久々にあんなに大笑いしたなあ。
そしてふと思い出した。たしか高橋さん話の流れで自分はゲイなんだって言ってた。僕はこんなにキッパリ言える人に初めて出会ったから、驚いて思わずこっそり僕もなんです、なんて言ったっけ。
「うん。その高橋がまたお前と会いたいって。二人で飲みたいらしいぜ」
「へぇ? そうなんだ」
「だからさ、お前の電話番号教えてといた」

え?

「そうなの? 高橋さんって、確か……」
僕がその先を言えずにいると学はピンときたらしい。
「あいつもゲイだな」

ええと。整理したい。ゲイだと分かってるのに、恋人の電話番号教えたってこと? で、二人で飲みに行くのを、止めないってこと?

僕はワナワナと手が震えてきたのが分かった。
そして、持っていた雑誌を床に投げつけ、学に怒鳴りつけた。
「勝手に番号を教えるなんて……馬鹿なの? 学はもうどうでもいいんだろ、僕のことなんて!」
たぶん学に対して怒鳴りつけたのは初めてだと思う。そしてそのあと、家を飛び出したのも初めて。
「お、おい!」
学の声が聞こえたけど僕は振り向かず走った。

「あらあら、それはまた…」
ママの目の前のカウンター席にブスっとしたままの顔で座る。
「浮気しろって恋人に言われました!」
「飛躍しすぎでしょ…」
ものすごい剣幕で店に入ってきた僕を見て、開店準備中だったママと拓也さんは、はじめ強盗かと思ったらしい。
「学さん、ちょっとあんまりじゃないですかね」
グラスを拭きながら拓也さんが呟くと、ママも確かにねぇ、と頷く。
「あの子昔から少し言葉足らずというか…人を怒らすのよね」
「基本塩対応だからね! 恋人に対してもっ! ママ、おかわりちょうだいっ」
僕はやけになってジントニックを早いペースで飲んだ。実はまだ開店前なのだが、ことの次第を聞いてママが特別に飲ませてくれている。
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