似紫の境界線

柏木あきら

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独白

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柳の言葉に、真一はまるで雷に打たれたような衝撃を受けた。そして背後にいる彼の顔を肩越しに見る。
いつもより青白く見えるその表情は、今にも泣き出しそうだ。
(何を、言い出したんだ?)
俄かに信じられない。高熱から目覚めた時、柳は真一を『泉』と呼んでいた。今までだって……と真一はふと、最近呼ばれていなかった気がした。
(いやでも、俺に対する態度は違ってた)
泉だと思っていたから、あんなに優しく微笑んでいたはずだ。
体を柳の方に向け、正面から見つめる。少しだけ掠れた声で真一は問う。
「でも泉って……呼びましたよね?」
「……」
真一の鼓動が高くなる。柳は真一と分かっていながら、あんなゆったりとした日常を一緒に過ごしていたと言うのか。添い寝をしたり、ましてや昨日の出来事も。
全て、泉ではないと分かってて?
「いつから分かってたんですか」
「あの、霧雨の日。お前がキスしてきた時に。それまでずっと頭に霧がかかってたような記憶しかないんだけど……、キスしたときに霧が晴れて……」
それはまさに真一が泉になると決意した日。その日に、柳は真一と気がついた。二人はボタンの掛け違いのようにすれ違ってしまった。
「俺と泉は確かに友人以上だった。だけど、キスはしなかった。……そうなる前にいなくなったから」
そして柳は先ほど真一に見せた二つの作品をゆっくりと撫でる。
「顔がこんなに違うのに、なんであのとき、泉が帰ってきたと思ったんだろうな」
その慈しむ視線を見て、真一はあることに気がついた。
(まさか……)
色のついた方の人物は、淡墨色の人物とは違っている。背が低くて、少し茶色の髪。特徴的な耳の形……
「これ、俺……?」
柳は無言で頷いた。
窓の外で、鳥が鳴く声が室内に響く。どれくらい、無言でいただろう。
柔らかな色彩に描かれた作品は、優しい雰囲気で見るものを癒す。人物の表情までは描かれていないが、丁寧に描かれたこの作品は温かみを感じられた。
しかし、高熱を出す前の柳と真一はそれほど親密な間柄ではなかった。たしかに一緒に過ごす時間はあったもののよく喧嘩もしていた。それなのに、キスをしたあとあんなに穏やかに共に生活して体を重ねることまでできるのか。
「この屋敷の中が僕の世界だから、外から来たお前が煩わしかったはずなんだけど……いつのまにかお前が来る日が待ち遠しくなってた。喧嘩するのも楽しくて」
「えっ?」
「泉の幻覚を見ていて、それはお前だと気がついてもすぐ言えなかったのは、あのまま、泉のふりをしてくれたらそばに居てくれるんだと思って。俺もこのままでいいと思ってしまったんだ。だけど……、そのままじゃお前が壊れてしまうって、だんだん悩んできて。そしたら昨日、お前が泣いてたからもう、このままじゃダメだと思った。それで、決心したんだ。これを見せて、全てを謝ろうと。きっとお前はこれを知ったら、怒るだろうし、呆れて出ていくだろうなって」
「じゃあ、昨日のあれも、全部俺ってわかってて……?」
「俺があの時欲しいって言ったのは、泉じゃない。真一だ。……もう何も信じてもらえないとは思うけど」
ついに柳の目から涙が流れた。そして真一から離れ、その場で土下座をする。
「騙して、ごめん。俺のエゴで君を深く傷つけてしまった」
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