神同人作家は陸くんを溺愛する。

柏木あきら

文字の大きさ
32 / 53
神同人作家と陸くんは嫉妬する

仕事帰りに会える幸せ

しおりを挟む
僕には推しのBL作家兼恋人がいる。人気の作品を何本も発表している高西ユウ先生と恋人同士になったきっかけは同人誌即売会だ。あやうく遠距離恋愛になりそうだったけど、神様の奇跡で彼の住む街の近くに僕が引越しして、現在に至る。ちなみに、同棲はしてないよ。……今はまだね。
 
僕のアパートから電車で二駅の距離に高西先生、いや由宇さんのマンションがある。週末の休みにはマンションに行ってゆっくりしたり、たまに泊まることもあるんだ。大抵は由宇さんからおいで、と連絡がはいる。僕はそのお誘いをいつもソワソワ待っているんだ。

実は、ここ最近そのお誘いがなくて今週も行く予定がない。でもこれは仕方ないことなんだ。何故なら由宇さんは今、商業誌の締切間近で追い込み時期だから! 同人誌を含め今まで締切を破ったことはない由宇さんだけど、今回は本当にやばいらしい。
『会えなくてごめんね』なんてメッセージが来るんだけど、何をおっしゃいますやら。僕は一番の高西先生のファンなのだから邪魔なんて絶対しないよ。寂しくないのかと言われたら寂しいに決まってるけれど、自分の気持ちよりも由宇さんが作品を仕上げてくれるほうが僕にとっては幸せなんだ! と思っている。

金曜日の昼休憩。いつもなら、あと半日頑張れば由宇さんに会えるとワクワクしながらご飯を食べるんだけど、ついため息が出てしまう。大好きなオムライスを目にしても食欲が半減しているのが分かるもんなあ。
高西ユウ先生の新刊のためとはいえ、やはり少し寂しい。
「榎浪、何か心配ごとでもあるのか? さっきからため息ばかりだし食進んでない」
 以前勤めていた営業所が閉鎖することになり異動先の選択を藤田は僕と同じ関東営業所を選んだ。仲の良い同僚が一緒で心強いのだがとにかく心配性なのだ。
「うん少し。でも大丈夫だよありがとう」
「ほら、唐揚げあげるから元気だして」
 向こうにいる時からだけど、藤田はめちゃくちゃ優しい。もちろん僕にだけではなくてみんなに。なのに彼女も奥さんもいないんだから、不思議だよなあ。気遣ってくれた唐揚げを食べないわけにはいかなくて、パクリとそれを口に入れた。

 少し寂しい週末を過ごし、月末の月曜日を迎えた。月中と違い何かとバタバタと業務をこなし、夕方に一息ついたとき、スマホを見ると由宇さんからメッセージが入っていることに気づく。恋人になってもいまだにメッセージを開く時にはドキドキしちゃう。いや、恋人だからこそドキドキしてしまうのかな。
『締切、間に合ったよ!』
 そのメッセージに思わず口元が緩む。
『お疲れ様でした!』
 僕がそう返信すると間髪入れずにまたメッセージが届く。
『二週間も会えなかったから、会いたいな。夕飯食べに行かない?』
 今日は少し残業しようかなと思っていたけど、由宇さんの申し出に僕は定時退社することを決めた。壁にかけてある時計を見るとあと二時間で定時だ。黙々と業務をこなし、定時を少し過ぎた頃に帰り支度を始める。
 以前は由宇さんに会うために四時間も新幹線に乗らなくてはいけなかった。それがいまや仕事帰りにふらっと会えるなんて! それを考えると、修羅場の時に会えないくらいで寂しがるなんて贅沢だ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...