初恋 1985/2022

2022

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プロローグ

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 約1週間ずつの入院を繰り返し、この病室での生活は間もなく20日目を迎えるようとしていた。大部屋を仕切るカーテンの上から僅かに見える窓の外は、深い闇から白々と朝を迎えようとしていた。
 管で繋がれた不自由な身体を回転させ頭上の時計に目をやると、午前5時半になろうとしている。

(また眠れなかったな)

心の中でそう呟き、再び仰向けになり、枕元のスマートフォンを手にしてゆっくり目を閉じた。

「会いたいな」

今度は声に出してそう呟き、スマートフォンの画面を開ける。そのSNSにはアルファベットで表記された一人の女性の姿が表示された。

Miyoshi Machiko(三好真智子)

この名前に辿り着いたのは前回入院した2日目の早朝だった。凡そ一月半前、主治医から高度活性化NK細胞療法なる治療の説明を受け入院したが、僕は癌が治るなどとは思わなかったし、むしろこのまま命の終わりを迎えても良いと本気で考えていた。実際、1クール目はさほど大きな変化は見られず、医師は通常治療との並行も視野に入れていたと後に聞いた。そして前回の2クール目。どうせ死ぬならそれまでにと、やり残したこと、食べたかったもの。行きたかった場所、そして叶うならもう一度会いたい人……

その時に真っ先に浮かんだひとりの女性。

その彼女をこのSNSで見つけて以来、僕はかれこれ35年程前になるあの頃を懐古して病室での日々を過ごしていた。そしていつしか、まだ生きていたい。せめて最後にもう一度、彼女に会いたいーー


強くそう思うようになっていた。
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