ミニスカ婦警谷口有紀の熱烈事件簿

七度柚希

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秋葉原に買い物に行った有紀。メイドカフェの体験入店をして結構な金額のアルバイト代をもらう。だが二階のコンセプトカフェは違法な風俗店だった。

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第一章

 谷口有紀は警視庁交通執行課・違反処理係に所属する巡査部長。年齢は二十五歳。童顔で小柄なため、街頭で切符を切っていると「高校生のアルバイト?」と逆に聞かれることもしばしばだ。 仕事の内容は、ひたすら地味だった。
 朝から夕方まで、路地裏や住宅街の隅っこに三脚を立ててレーザー速度計を構え、制限速度を5キロオーバーしただけの軽自動車にまで「はい、停まってください」と声をかける。白バイに乗って颯爽と追いかけることもなければ、派手なカーチェイスもない。ただひたすら、違反車両を停めて、免許証を預かり、淡々と反則告知書を切るだけ。 同僚からは「切符切りマシーン」と陰で呼ばれている。
 署内の飲み会でも「今日も何枚切った?」が会話のネタになる始末。
 華やかな犯罪捜査や事件性のある仕事とは無縁で、毎日同じことの繰り返し。
 だからこそ、今日という完全非番の日は特別だった。「たまには……女として息抜きしなくちゃ」 鏡の前で呟きながら、有紀はクローゼットから取り出したのは、淡いピンクのオフショルダーミニワンピース。スカート丈は膝上15センチの超ミニ。普段の自分なら絶対に着ない大胆なデザインだ。 下着は先週届いた通販の勝負セット──黒レースの透けブラとTバック。
 鏡に映る自分の姿を見て、頬が熱くなる。「……こんなの着てたら、今日一枚も切符切れなかった私が悪いみたい」 自嘲気味に笑いながら、メイクもいつもより濃くした。
 ピンクのチーク、艶グロス、まつ毛はビューラーでしっかり上げてマスカラ二度塗り。
 最後に甘い香水を首筋にひと吹き。 これで完璧。
 今日は「交通違反を取り締まる婦警」ではなく、ただの二十五歳の女の子でいる。 秋葉原に着いたのは昼過ぎ。
 ビックカメラで目的の無線マウス(報告書の入力が少しでも楽になるように)を買い、満足して外へ出る。
 駅に戻るには表通りを回るより、裏道の方が早い。
 普段なら警戒する場所だが、今日は私服だし、合気道初段の腕もある。
 少しぐらいなら大丈夫──そう思って細い路地に入った。 すると前方から、メイド服の女の子たちがビラを配りながら歩いてきた。「お兄さん! メイドカフェいかがですか~?」 有紀が通りすがろうとすると、一人のメイドがぱっと目を輝かせて近づいてきた。「わっ、お姉さん超可愛い! ねえ、よかったらうちの店でバイトしてみませんか? 体験入店、一時間だけでもOKです! 現金日払いですよ~!」 突然のスカウトに有紀は目を丸くした。「え、私……?」「はい! 絶対人気出ますって! スタイルいいし、美人だし、絶対向いてます!」 毎日、地味に切符を切り続けている有紀にとって、
 「可愛い」「スタイルいい」「人気出る」
 なんて言葉は、ここ何年も耳にしていなかった。 心のどこかで、くすぐったいような、嬉しいような気持ちが湧いた。(……少しだけなら、いいよね) 婦警としての好奇心と、女としての欲求が、ちょうど重なった瞬間だった。「じゃあ……ちょっとだけ、体験させてもらおうかな」 こうして、毎日交通違反の切符を切り続ける地味な婦警・谷口有紀の、予想外の「非番の一日」が始まった。

第二章

 みうに手を引かれて入った店は、路地の奥にある雑居ビルの一階だった。看板にはピンクのネオンで『メイド学園・あきば分校』と書かれている。入り口を入るとすぐ、甘い香りとアニソンのBGMが有紀を包んだ。 店内は思ったより広くて清潔だった。テーブルは十二卓ほど。壁にはアニメキャラの等身大パネル、カウンターの上には大量のフィギュアが並んでいる。客は半分ほど入っていて、休日の昼下がりというのに結構盛況だ。 奥から、黒エプロンにスーツ姿の店長が小走りにやってきた。「みうちゃん、新しい子?」「はい! 体験入店の有紀ちゃんです! 超可愛いですよね!」 店長は有紀を頭のてっぺんからつま先まで、じっくりと値踏みするように眺めた。視線が胸の谷間から太ももへとゆっくり移動する。有紀は反射的に腕で隠したくなったが、ぐっと我慢した。「うん、いいね。顔もスタイルも申し分ない。すぐに使える」 店長は淡々とそう言うと、奥の更衣室を指差した。「じゃあ、早速着替えてくれる? サイズはSで大丈夫だよね」 渡されたメイド服は、予想を遥かに超える露出度だった。黒と白のクラシック調だが、スカート丈は今日のワンピースより明らかに短く、座ったら絶対に下着が見えるレベル。胸元は深いV字で、レースのチョーカーが首に巻かれる。カチューシャは巨大なリボン付き、白ニーハイには赤いリボンが三つもついている。 狭い更衣室で自分のワンピースを脱ぎ、黒レースの勝負下着のままメイド服に着替える。鏡に映った自分は、もはや完全に「売る気満々」の格好だった。(……これ、本当に普通のメイドカフェなの?) 不安が胸をよぎったが、もう引き返せない。深呼吸して、ドアを開けた。 フロアに戻ると、みうが飛びついてきた。「きゃー! 似合いすぎ! もう完全に看板娘レベルですよ!」 興奮気味に手順を説明してくれる。「お客さんが来たら『お帰りなさいませ、ご主人様っ!』って元気に言って、空いてる席にご案内。注文聞いて伝票を厨房に渡して、できたら運ぶだけ! 簡単でしょ?」 毎日、路地裏でレーザー速度計を構えて「はい、停まってください……」と繰り返す仕事に比べたら、天国のように楽だった。 ちょうどそのとき、入り口のベルがチリンと鳴った。 入ってきたのは、眼鏡をかけた三十代前半のサラリーマン風の男性。少し緊張した様子で店内を見回している。 有紀は一歩前に出て、深くお辞儀をした。「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」 声が裏返った。恥ずかしさで耳まで真っ赤になりそうだった。 客は一瞬ぽかんとし、それから頬を赤く染めて「う、うん……」とだけ答えて、案内された席に座った。 最初の注文はハートマーク付きオムライスと、チェキ一枚(ツーショット・頬寄せオプション付き)。 チェキ撮影のとき、肩に手を置かれた瞬間、有紀の体がびくりと震えた。仕事で男に触られることは何度もあるが、それは制服姿で、相手は違反者だ。今は違う。自分はただの「可愛いメイド」で、相手は「ご主人様」なのだ。 あっという間に一時間が過ぎた。 最後に店長室に呼ばれ、封筒を渡された。中には新札の万円札が三枚。体験一時間で三万円。交通違反の切符を十枚切っても稼げない金額が、笑顔を振りまくだけで手に入る。 有紀は思わず封筒を二度見した。「どう? 悪くないでしょ?」 店長がにこやかに言った。「正直……こんなに楽して、こんなに貰えるなんて……」 有紀が素直に呟くと、店長の目がぎらりと光った。「でしょ? でもさ、有紀ちゃんみたいな子には、もっと稼げる仕事があるんだよ」 そう言って店長は、店の奥にある「関係者以外立ち入り禁止」のドアを指差した。「実はこのビルの二階に、別のコンセプトカフェがあってね。興味、ある?」 有紀の心臓が、どくん、と大きく跳ねた。


第三章

 有紀は一瞬だけ迷ったが、婦警としての使命感が背中を押した。
(どんな店か、せめて確認しておかないと……これも仕事だ)「ちょっとだけ、見せてもらえますか?」 店長は満足げに頷き、会計カウンターの横にある「関係者以外立ち入り禁止」のドアを開けた。そこは店の裏口に直結していて、すぐにビルの外に出られる。「こっちだよ」 店長は先に立って歩き、路地に出ると、すぐ横にある鉄製の非常階段を指差した。錆びていて、足を乗せるたびにギシギシと音がする、外から誰でも上がれる普通の非常階段だった。 有紀はメイド服のまま、店長の後ろについて階段を上がった。
スカートが短すぎて、風が吹くたびに冷たい空気が太ももを撫でる。
二階に着くと、店長が鍵を取り出して錆びた鉄扉を開けた。 扉の向こうは、まさに「教室」だった。 正面に大きな黒板。チョークで「今日の授業は……?」と書かれている。
古びた木製の生徒机と椅子がずらりと並び、壁には「学級目標」や「掃除当番表」のポスター。
蛍光灯は暗く、黒板の上にだけピンクのLEDライトが妖しく点滅していた。「ここが『放課後?補習室』。コンセプトは、学校の補習だよ」 店長は得意げに説明しながら、有紀を教室の中央へと誘った。 奥のドアが開き、セーラー服姿の女の子が二人出てきた。
スカートは異常に短く、ブラウスのボタンは上から三つ開いている。
二人とも有紀を見て、興味深そうに微笑んだ。「店長、新しい子?」「体験の子だよ。めっちゃ可愛いだろ?」 店長は有紀の肩に手を置き、低い声で続けた。「ここでは普通の接客だけじゃなくて……特別なご奉仕もあるんだ」 有紀は静かに息を吸い込んだ。「……どんなご奉仕ですか?」 店長はにやりと笑い、耳元で囁いた。「生徒役の女の子が、先生に……口でするんだよ」 その瞬間、有紀のスイッチが入った。 売春防止法違反、店舗型、しかも現行犯で立件可能。 有紀は微笑み、店長を見上げた。「私、そういうの……すごく得意なんですよ」 店長の目がぎらりと光る。「本当? じゃあ、ちょっと味見させてもらおうかな」 店長がゆっくりとベルトに手をかけたその瞬間。「私は婦警です! 売春防止法違反の現行犯で逮捕します!」 有紀は素早く手錠を取り出し、店長の右手を掴もうとした。 だが、店長の反応は予想外に速かった。「やっぱり婦警か!」 店長は有紀の手首を逆に掴み、合気道の投げ技のような動きで床に叩きつけた。
衝撃で息が止まる。手錠は床に転がり、店長が素早く拾い上げる。 セーラー服の女の子たちが慌てて奥に引っ込み、ガチャリと鍵をかける音がした。「悪いけど、ここまで来たらもう帰さない」 店長は有紀の両腕を背中にねじり上げ、冷たく笑った。「二度とこんな真似できないように、しっかり躾けてやるよ」 有紀は必死に抵抗しようとしたが、店長の関節技は巧みで、少し動くだけで激痛が走った。 有紀は床に叩きつけられ、両腕を背中にねじり上げられたまま、息を荒げていた。
メイド服のスカートがめくれ上がり、黒レースのTバックが完全に露わになっている。 店長は有紀の上に馬乗りになり、片手で両手首を押さえつけながら、もう一方の手でゆっくりとスカートをさらに捲り上げた。「へぇ……」 黒のレースブラと、同じデザインのTバック。
通気性の悪い教室の空気に、甘い香水の匂いが混じる。 店長は鼻で笑った。「婦警のくせに、こんなエロい下着履いて……」
視線が有紀の胸元から腰のラインまで、舐めるように這う。「毎日交通違反切ってるフリして、実は男が欲しくてたまらないんだろ?」 薄汚い笑みを浮かべながら、店長は有紀の頬を人差し指で撫でた。「こんな格好でわざわざ潜入してくるなんて、俺に犯されたくて来たんだろ?」 有紀は歯を食いしばって睨み返した。「ふざけないで……!」 だが、店長はさらに体重をかけて、有紀の体を完全に押さえつけた。
手錠はもう店長の手の中。
抵抗すればするほど、レースの布地が肌に食い込み、恥ずかしさと怒りで有紀の頬が熱くなる。「大丈夫だよ、可愛い婦警さん」
店長は耳元で囁いた。「今日はたっぷり、欲求不満を解消してやるからさ」 錆びた非常階段の向こう、遠くで秋葉原の喧騒が聞こえている。
 童顔で小柄な婦警・谷口有紀は、今、完全に動きを封じられ、店長の薄笑いの下で、震えるしかなかった。
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