飛竜誤誕顛末記

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第四章 将軍様一局願います!

第12話 お願いエリー

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叫びながら這いつくばっていた地面から跳ね上がるように飛び起きて、急いでエリーから印を離そうと、必死でチェーンを引っ張った。
肌から印が離れた事で与えられ続けていた灼熱の痛みは止まったけど、そんな事どうでも良いくらいの恐怖だった。
今にもエリーの体から煙が上がるのではという恐怖で頭の中は一杯だ。
『エリーっ、離して!離せっ!』
この小さな体の何処にそんな力があるのかと不思議なほどに、印を抱き込むエリーの腕は緩まない。
『エリーっ!エリーっ!エリーっ!』
とにかく印を離さなければと言うことに思考が支配されて、思わず乱暴にエリーを振ってしまう。
【ケイタっ、落ち着け!】
錯乱しエリーをシェイクする俺を止めたのはアントだった。
【やめるんだっ】
掛けられた言葉を理解することもできずエリーを振り続けていたら、その腕にアントが飛び付いてきて、そのままガブリと噛みつかれた。
『あだぁっ!』
腕に走った痛みに、エリーを振り回す手が止まる。
それで、漸く少しだけ冷静になれた。

手元を見れば、俺が振り回したせいかエリーの頭がクラクラと揺れていた。
だけど、不思議な事に印を抱いたところは表面上では特に変化が見られなくて、焼け焦げる訳でもなく、煙が出る訳でも無く、特に苦しんでいる様子も無い。
【落ち着いたか?】
エリーの様子に首を傾げていたら、アントが噛んだ場所をペロリと舐めてくれた。
『う、うん。止めてくれてありがとう』
噛まれたところは軽く赤くなっているだけで特に血は出ていないから、かなり加減して噛んでくれたみたいだ。
改めてエリーに視線をやれば、振り回されたダメージからは復活したみたいで何とも無いように印を抱いたまま足をパタパタと揺らしている。
『エリー、大丈夫なのか?』
恐る恐るチェーンを手放せばエリーはコクリと頷いてくれて、やっと俺は安心できた。
『はぁぁ~~・・・・・・怖かった・・・』
【どうやら、これはケイタにだけ反応する呪いみたいだな】
アントがエリーを覗き込み、自分でもエリーの抱いている印をチョンチョンと突いて様子を伺う。
『俺にだけ・・・』
エリーが無事だと安心して落ち着いて、そんでボンヤリと思い出した。
そう言えば、これを付けられた時にバルギーが言っていた気がする。
許可なく屋敷を出たら罰として焼かれるって。
確かに壁を抜けて屋敷の敷地を出た瞬間に肌を焼かれたな。
バルギーの言葉と状況が一致する。
そして、そんな怖いものを付けられていたと言う事にショックを受けた。
こんなもんをつけるなんて、バルギーは本気で2度と俺を外に出さないつもりだったんだ。
【エリー、大丈夫?】
【アント、ケイタ、エリーは?エリーは?】
【生きてる?】
心の痛みに一瞬呆けてたら、足元からダイル達の不安そうな声が聞こえた。
『あ、ごめんごめん。ダイル達には見えてなかったな』
はっとして、3匹を安心させるように屈んでエリーを見せる。
【よかったぁ~】
【エリー、驚いたぞ】
【焼き茸になっちゃうかと思った】
だからカイマン、言い方・・・。
【とりあえずケイタ以外には反応しないみたいだから、ソレはそのままエリーが持っていた方が良いな】
『うん・・』
抱いたエリーをそっと撫でる。
『エリー、ありがとうな。助かった』
礼を言えば、エリーが嬉しそうに揺れる。
でも。
『だけど、もう2度とこんな事するなよ。絶対だっ』
少し声を荒げた俺に、エリーが驚いたようにビクリとした。
『エリー、助けてくれたのは凄く嬉しいけど、もう絶対にこんな事しないでくれ』
あんな恐怖、2度と味わいたくない。
『俺を助ける事でエリーが傷ついたりなんかしたら、俺は一生自分を許せなくなる』
優しくて勇敢で、そして無謀な茸にこの気持ちを伝えたくて、小さな体をギュッと抱きしめる。
『お願いエリー。俺の事を思うなら自分を大切にして。エリーの為にも、俺の為にも。な?』
俺に怒られたのがショックだったのかエリーが少し拗ねる様に項垂れたけど、俺だってコレばっかりは譲れない。
エリーを傷つけてまで助かりたい気持ちなんか無いからな。
だけど、エリーは印を強く抱きしめたまま頷いてはくれなかった。
【ケイタ、とりあえず今は急ぐぞ。エリーには後でゆっくりと話してやれ】
返事をしてくれないエリーに不安は残ったけど、アントに急かされて状況を思い出す。
『うん』
そう、ゆっくりしている暇は無いんだった。
ここで捕まったら、皆の努力が、エリーの勇気が無駄になってしまう。
【よしケイタ、乗れ。行くぞ】
俺はエリーを胸に、再びダイルの背に乗った。

地竜達は道を分かっているらしくて、迷うことも無く慣れたように人気の無い茂みを突き進み、あっという間にデュマン達のいる軍の建物近くまで到着した。
茂みの隙間から、見慣れた建物が見える。
多分もう軍の敷地内には入っている。
整備された道端の茂みに潜み外の様子を伺えば、兵士達の行き来も多い。
【よし、ケイタはここで隠れて待っていろ。俺達がデュマン達を呼んでくる】
アントに言われて、茂みの奥で体を丸める。
【カイマン、お前はここでケイタを守るんだ。ダイルとアリは俺と一緒に行くぞ。馬竜達にも事情を説明して助けて貰おう。俺は飛竜達のとこに行くから、お前達は馬竜達のとこに行け】
【【【分かったっ!】】】
アントがテキパキと地竜達に指示を飛ばす。
【ケイタ、すぐに戻ってくるからな。少しだけ我慢だぞ】
『うん』
茂みの向こう、一瞬人の往来が無くなったタイミングを見計らってアントとダイル達が飛び出して行った。
残るはカイマンと俺とエリー。
人数が減ると少し心細くなるけど、それでもカイマンとエリーが居てくれるから安心できた。
そのままアントに言われた通り息を潜めてじっとしていれば、体が緊張で忘れていた寒さを思い出し始めた。
なにしろ俺は薄い部屋着一枚に裸足の無防備な姿だ。
しかも穴を潜った時に土の湿気を纏ったせいで、余計に寒気が体を包む。
【ケイタ寒いのか?】
ブルリと体を震わせたら、カイマンがピトリと体をくっつけてきてくれた。
竜の体は見た目に反して、意外と暖かい。
『ありがとうカイマン』
カイマンの温もりを分けてもらって、ちょっとだけだけど楽になった気がした。
あと寒さも辛いけど、印に焼かれた部分がドクドクと脈打つように熱を持って痛みを訴えているのも辛かった。
針の束で刺されているような激痛に胸を見下ろせば、印の形そのままに肌が焼き爛れていて本当に焼き印を押されたみたいな状態になっていた。
それを見て、直接的では無いにしてもバルギーに傷付けられたという事実を嫌でも実感した。
ちくしょう、俺は家畜じゃねぇんだぞ・・・・。
悲しくなって、思わずスンと鼻を鳴らしてしまった。

そうやって茂みに潜んでしばらくした頃、突然大勢の気配が道を通った。
蹲った俺の横、枝葉の隙間から沢山の兵士たちの足が見える。
緊張に強張れば、カイマンも警戒したように頭を低くした。
【ケイタ、ジッとしてるんだぞ】
訓練終わりの帰りなのか、兵達は皆談笑しながら建物へと向かっているみたいだ。
俺はカイマンと一緒に息を殺し、集団が通り過ぎるのをジッと待った。
茂みの中に隠れているとは言え、歩く兵士達との距離は1メートル程度しかないからな。
いつ気付かれるんじゃないか、いつ目の前を通り過ぎる大きな足が止まるんじゃないかと生きた心地がしなかった。
そんな冷や汗な状況が数分続いたけど、兵達は特に俺に気付く事もなく通り過ぎていって、しばらくすれば漸く人の気配が途絶えた。
「はぁ・・・」
騒がしい集団が遠く離れたのを確認して、思わず安堵の溜息を吐いてしまう。
もう誰も居ないと油断して。
だけど、ため息をついた瞬間。
「誰だ」
目の前に2人分の大きな足が立ち止まった。
驚いて、息が止まる。
集団から離れて歩いていた兵がまだいたらしい。
「・・・誰かそこに隠れているのだろう。出てこい」
威嚇するような低い声で警告されて、心臓がバクバクと激しく鳴る。
「・・・・切り捨てられたいのか」
答えず隠れ続ける俺に警戒したのか、兵士が剣を抜く音が聞こえた。
それを聞いて、ヒュっと喉の奥が鳴る。
怖い。
【ケイタ、動いちゃダメだぞ】
隠れている事がバレたと気づいたみたいで、カイマンが俺と兵の間に盾のように入り込んできた。
大きな足がゆっくりと此方に近づいてくる。
それから、抜かれた剣でもって茂みを開かれた。
俺と兵達の間を遮っていた枝木がかき分けられ、視界が開ける。
「っ!!」
「っ!?」
兵と俺との間を遮る物がなくなって視線が合い、そして、双方驚きに目を剥いた。
「ケイタっ!?」
「ナルガス・・・」
立っていたのは、飛将軍ナルガスとその副官ハリドだった。
お互い驚きの声をあげてしまったけど、その瞬間カイマンが茂みを開いていたハリドに向かって飛び上がった。
【離れろっ!】
「うっ」
ハリドが咄嗟に防御するように剣を構えてカイマンの噛みつきを防いだけど、体勢を整える前にカイマンが力一杯尻尾を振り上げてハリドを薙ぎ払う。
普段のおっとりしたカイマンからは考えられないような攻撃的な姿だった。
地竜の身体能力は高いってラビクが言っていたけど、本当だったんだな。
ハリドは何とかカイマンの攻撃を防ぎながら、徐々に後退している。
カイマンの動きは俊敏で力強い。
鞭のように太い尻尾をしならせながら休みなくハリドを攻撃している。
そんなカイマンに押されて、ハリドは防御に徹しながらもどんどんと後ろに下がっていく。
「ケイタっ、地竜を止めてくれ」
ナルガスに困ったように言われたけど、俺はカイマンを止めることが出来なかった。
だってナルガス達に奴隷印の存在を気付かれたら、きっと俺はバルギーに引き渡されてしまう。
だから彼らに近づくのは危ないと思った。
どんなに信用していた人達でも、ちょっとした事で状況は簡単に変わってしまうと言う事はバルギーで勉強済みだ。
彼らには良くしてもらったけど、それはあくまでもバルギーが俺を特別扱いしていたからだと言う事はちゃんと理解している。
だから、そのバルギーが俺を奴隷として扱ったとなれば、きっと彼らもそれに準ずる対応になるはずだ。
そう思うと怖くて、俺を守ってくれているカイマンを止められなかった。
カイマンを止めようとしない俺に、ナルガスが戸惑ったような空気を出してくる。
「ケイタ?どうしたのだ?何故そんなに怯えているんだ」
「・・・・・」
「・・・誰かに悪さをされたのか?」
警戒して距離を取っていたら、ナルガスが俺を安心させるように声を穏やかにして聞いてきた。
多分、俺の格好を見て何かしら察したんだと思う。
だけど、それが誰のせいなのかは分かっていないみたいで、ナルガスが恐ろしい事を言った。
「大丈夫だ、怖がらなくて良い。すぐにヴァルグィを呼んできてやる」
「だ、駄目だっ!」
思わず強く拒絶の言葉を吐いたら、ナルガスが驚いたような表情をした。
「どうした?・・・あぁ、ヴァルグィに怒られると思ったのか?大丈夫だ、あいつはお前を傷付けたりしない」
嘘だ。
バルギーは俺を傷付ける。
傷付けられた。
「ほら、こっちにおいで。あまり叱らないように私からもお願いしてやるから」
何も分かっていないナルガスが、叱られるのを怖がる子供を見るような目で苦笑気味に手を差し出してくる。
「違う・・・そうじゃない・・・」
差し出された手が怖くて茂みの奥で固まり続けていたら、ふとナルガスの表情が笑みの形のまま強張った。
「・・・・・まさか、ヴァルグィではあるまいな?」
確認のような言葉にビクリとすれば、ナルガスの顔が凍りつく。
「あ・・・」
奴隷印の事がバレそうで咄嗟に返事が出来なかったけど、ナルガスにはそれで充分だったらしい。
「あのバカめ・・・」
みるみるうちに険しい表情へと変わっていって、俺には聞こえない声でボソリと何か呟いた。
それから、ナルガスの視線がチラリとカイマンとハリドの方へと向かう。
それにつられて俺も同じ方へと視線を向けて、そして気がついた。
あ、あれ?やばい・・・。
いつの間にかカイマンと俺との間に距離が出来ている。
カイマンの攻撃にハリドは押されているだけだと思っていたけど、実際には少しずつ俺からカイマンを離していたんだ。
それに気付いて慌ててカイマンの元へ行こうとしたけど、それはいつの間にか距離をつめたナルガスに阻止された。
駆け出す直前で捕まって、太い腕に抱き上げられる。
『っカイマン!』
【あっ!ケイタ!】
俺の声でカイマンも状況に気づいたみたいで、慌てたように此方に走り戻ってくる。
だけどカイマンが飛びつく直前、ナルガスが宙に片手をかざした。
その瞬間、ナルガスの指にはまっていたごつい指輪の石が強く光って、ナルガスの体を覆うように薄らと光る壁が現れた。
カイマンの体が壁に跳ね返されて、地面に落ちる。
『あっ!』
ビタンと地面に叩きつけられた地竜の体に怪我を心配したけど、ダメージはあまり無かったみたいで直ぐに起き上がってきた。
【ケイタを返せ!!返せってば!】
カイマンが一生懸命ナルガスに向かって攻撃するけど、壁に阻まれて攻撃は届かない。
見ていたら、カイマンの後ろにいたハリドも同じように光る壁を作って体を覆っている。
【か~え~し~て~!!】
届かない攻撃に焦ったのか、カイマンが半泣きになっている。
俺もカイマンのところへ戻りたくてナルガスの腕の中でもがくけど、太い腕にガッチリと抱き固められてろくに動けなかった。

「何と言う事を・・・」
ふと頭上から苦しげな声が降ってきて見上げたら、ナルガスの視線が俺の胸の上に落ちていた。
そこにあるのはバルギーの印がくっきりと浮かび上がる焼き爛れた肌と、奴隷印を抱き込むエリー。
あー・・・・・バレた。
ナルガスは信じがたいものを見る眼差しで少し呆然として、それから悲しみと憐れみの篭った目で俺を見た。
「ケイタ、一体何があったのだ。何故、何故こんな事に・・・」
そんな事。
そんな事・・・・・俺が知りてぇよ。
「分かんない・・・何でだろう」
何でなんだろうな。
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