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第3話

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前回までのあらすじ

私の名前は田中花子!どこにでもいる平凡な女子高生♡

「いっけなーい☆遅刻遅刻☆」

ある朝、いつも通り食パンを加えて家を出たら大変!曲がり角で怖そうなお兄さんとぶつかっちゃった!

「ふぇぇえ~!ごっ、ごめんなさぁい!!」

なんとかその場は切り抜けられたものの、学校に着くや否や、謎のムキムキ外国人が担任の先生を恫喝!

「うえ~ん!優子ちゃん!花子、怖くて泣いちゃいそうだよぉ~!」

「大丈夫よ、花子ちゃん!私が守ってあげるわ」

大親友の優子ちゃんはとっても頼りになるね☆

でも教室は大混乱!

担任は泡を吹いて気絶するわ、何故か見知らぬ黒人がHRをジャックするわのエレクトリカルパレード状態☆

その上、転校生は今朝ぶつかった怖そうなお兄さん?!

はわわ~!チャカ持ち反社とは仲良くできないよぉ~!

しかし!私ったらなぜかそんなお兄さんにうっかりプロポーズしちゃって、結婚を前提に付き合うことに…

「私の高校生活、一体どうなっちゃうの~☆☆」

声高らかにそう叫んだ私に、げんなりした様子で優子が尋ねる。

「…終わった?」

「あーうん、おけおけ。前回までのあらすじ終わったわ」

優子の隣に座り直し、昼食を再開する。

今日のお昼は優子と屋上で購買のパンを頬張る。
いつもは母の手作り弁当だが、たまには購買もいいものだ。

「はぁっ、マジでキツかったわ、あんたの回想」

例のごとくいちごミルクを飲み干し優子が言った。

「はぁ?どこが?少女漫画らしいキラ☆キラ☆した回想だったでしょうが」

つかさず優子の言葉に反論する。

「それ。その☆つけるやつマジでやめろ。気色悪いから」

「えー☆そんな…」

「黙れ花クソ。次つけたら殺す」

優子がバキッ!っと片手でいちごミルクのペットボトルの「蓋」を潰す。

「…ッス、サーセンした」

さすがアームレスリング部部長。一瞬でプラスチックが粉々だ。

「てかあんた、あの百目鬼のアピールからよく逃げられたよね」

リップを塗り直しながらゴリラがそう言った。

「あー…それね?本当に頑張ったよ、私。」

それは思い返すこと30分前「おい花クソ、次またぶりぶりした回想したら」

しない!もうしないって!人の回想を排泄音みたいな言い方しないでよ?!あとしれっと私の精神世界に干渉してくんな!!

まぁ気を取り直して、あれは30分前のこと…


「花子♡一緒にお昼食べよう?」

(げっ!百目鬼・ウィリアム・万里!!)

昼休みが始まって直ぐにアイツは私の元へとやってきた。

「あははは…これはこれは百目鬼さんじゃないッスか~…」

恐怖による発作が幾分か落ち着き、朝に比べれば私は彼と少しは普通に喋れるようになった。

がしかし、どうやら彼は百目鬼さんという呼び方が気に入らなかったらしく、顔をしかめて言った。

「万里君」

「え?」

「さっき俺にプロポーズしてくれた時は万里君って呼んでくれたじゃん」

「あー…」

(あのパニック時の謎テンションのヤツか~。そりゃ心の中だったら『万里君』だろうが『瞳孔バキバキ万里様』だろうがなんとでも呼べるけど…)

あの時は恐怖のあまり、つい脳みそがイカレポンチになってしまっていたが、今の私は至って冷静沈着、クールな女なのである。

なのですっかり落ち着きを取り戻した私に、再度あのヤク中テンションで接しろといわれてもそれは土台無理な話だ。

(そもそもヤク中ぐらいアタマラリってなきゃ反社にダル絡みとかできないし)

そういうことでこの私、クールビューティー花子は目の前の男にキッパリと言ってやりましたよ。

「じゃっ、じゃあ万里さん!…でいいスっか?さっきはなんか調子乗っちゃったんスけど、自分みたいな一般市民が万里さんの事軽々しく呼ぶとかマジでありえないっスよ~!!!」

…まぁちょっとだけ?まだほんのちょ~~ッッッとだけ恐怖心が残っていたので、私の喋り方はなんか中途半端な下っ端ヤンキーみたいになってしまっていた。

(と、とにかく!こいつとこれ以上関わったりする訳にはいかないな…なんたって私は少女漫画の平凡ヒロインになるべき女であり、普通な事こそがステータス。マフィアを君付けで馴れ馴れしく呼ぶなんてどう考えても普通じゃない!)

とりあえず、もう彼には関わらないでおこうとゆっくり席を立つ。

「いやホント!マジで今朝からサーセンっした!えー、では田中花子、これにて失礼致しまー…」

さりげなくフェードアウトしようと試みるものの。

「は?まだ話終わってないんだけど」

「?!」

席を離れようとした瞬間に万里さんに腕を掴まれてしまった。

(あ~!ちくしょう!!!)

今すぐこの手を振り払ってやりたい。が、そうすると私の命が危ういでしかたなくその場に留まる。

「ねぇ花子、なんで俺は花子に百目鬼さんとか万里さんとか他人行儀な呼び方されなきゃけないの?」

「え?いや、だって今日会ったばかり…」

「おかしいでしょ、俺たち付き合っているのに」

「あ、えーっと、その事なんスけど」

「しかも結婚前提にしての交際なんだから、万里さんはまだしも百目鬼さんはないでしょ。花子もいつかは百目鬼になるんだから」

「いや、ちょま」

「てか花子からタメ口にしようって言ったクセにさっきから何?その喋り方。なんか壁作られているみたいでスゲェ嫌なんだけど」

「あの」

「大体さぁ、最初俺がお昼食べようって誘ったのになんで俺の事置いてどっか行こうとするの?あ、もしかして俺以外のヤツと一緒に食べるつもりだった?だったらそれこそマジでありえないから」

「あ」

「授業中だってせっかく隣の席なのに、俺が見つめても花子全然こっち見てくれないし。休み時間に話しかけようとしたらすぐ女子トイレ行くし。先にプロポーズしてきたのはそっちなんだから釣った魚に餌あげないみたいな事ホントやめてくんない?」

(コイツ止まんねぇなーーー??!!!)

百目鬼・ウィリアム・万里はめちゃめちゃ喋るタイプだった。しかも全然話聞かねぇ。

(マジでスゲェ喋るなコイツ…この私がキムタクを挟む隙すらなかったわ。あとクソ重い)

「ーーでさ、…ねぇ花子、ちゃんと聞いてる?」

その声にハッと我に返る。今は激重マシンガントークにドン引きしている場合ではないのだ。

「さっ…サーセンした!じゃなくて…」

(あー…マジでどうっすかなぁ、コレ。)

正直もう金輪際コイツと関わりたくはない。

だが、今こうしている間にも昼休みはすぎて行くし、そろそろ空腹にも絶えられなくなってきた。

(くそ~!こうなりゃお望みどおりやってやらァ!)

「花子?」

サングラスの奥から訝しげにこちらを覗く目をしっかりと見つめ返す。

(よし、今だァァァ!!!)

「ごっ、ごめんね万里!」

「?!」

私は心底申し訳なさそうな困り顔&タメ口&まさかの君付けどころか呼び捨てのトリプルコンボをキメてやった。

(っしゃ、これでどうじゃいッッ!!)

ちらりとヤツの反応を伺う。

「えっ…あっ、そんな、いっ、いきなり呼び捨てとか…!」

(もしかして怒った?!やっぱり呼び捨てはマズかったかぁ~~!?)

「…本当、花子ってズルいよ…」

そう言って目を逸らす万里の顔は、こちらが恥ずかしくなる程真っ赤になっていた。

(ええぇぇ!?今どきたかが呼び捨てにしただけでそんな照れる?チョロすぎだろ!)

散々女を泣かせてきたような見た目(偏見)からは想像もつかないそのピュアな反応に、私はかなり驚いてしまった。

(なんという意外性…でもよし!これなら扱いやすいぞ!このまま適当に言いくるめてすぐさま優子の元へGOよ!)

「ねぇ万里」

「あっ、な、何…?!」

「実は私ね、好きな人にご飯食べてるとこ見られるのが恥ずかしくて…だからしばらくお昼は別々に食べてもいい?」

(なーんて、もちろん嘘に決まってるがな!)

私は歴代彼氏の前で牛丼をドカ食いしつつ、お茶をラッパ飲みしてきたような女だ。その食べっぷりから元カレにブラックホールと呼ばれたのは伊達じゃない。

「あーー…そうなんだ。じゃあ花子の気持ちが落ち着くまで待ってるよ。」

ニコリと笑って万里はそう言った。

(おお、割とあっさり引き下がったな。なんか逆に怖…まぁいっか、早く購買行かなきゃパン売り切れちゃうし)

「じゃあ私友達とご飯行くから!ほんとごめんね?」

「うん、じゃあね花子。」

こうして私は数量限定ホイップクリーム焼サバパンを求め、その場を後にしたのだった……。



「はい回想終了ォ!いやーホントよく切り抜けたな~私」

そう自分の努力を称えながら、勢いよくパンに齧りつく。

「いやそんな事より、え、何?アンタ今そんなこの世の終わりみたいなパン食ってんの?」

苦虫を噛み潰したような顔で優子はそう言った。

「え?ホイップクリーム焼サバパンのこと?」

「焼きそばパンみたいなテンションで言わないでくれる?てか臭っ!ホント何なのコレ…うちの学校にそんなゲテモノメニューがあんの普通にショックなんだけど」

「まぁまぁ、一口食べてみなって~」

「やめろやめろ馬鹿舌女、そんな食べるタイプの地獄をこれ以上私に近づけんな」

(やれやれ、万年いちごミルクばかり飲んでいるヤツに、食の好みに対してとやかく言われたくないものだ)

この良さが分からない優子に呆れつつ、私はまたパンを一口頬張った。



 

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