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最終章 白雪姫
142話 赤髪の女性の決意
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「お、おいローズ殿、話が違うではないか……どういうことだね」
王様がうろたえる。ローズは目を細めると王様から手をほどいてマロリーの目の前に迫た。
彼女との距離がほぼないに等しいところまで足を踏み入れようとした。しかしそのギリギリで銀髪の騎士がさやから抜いた剣の切っ先をローズの顔に向けて彼を制した。
「……何のつもりですか?」
「それはこっちの台詞だ……ローズ、今お前はお嬢に何をしようとした?」
銀髪の騎士はローズをにらみながらも決して剣を下ろそうとはしなかった。それに対してローズは怯えることもなく一歩も後ろにはひかずにマロリーを見下ろしていた。
「なるほど……つまりあなたはこの世界を見捨てるのですね」
「……っ!」
ローズの言葉を聞いてマロリーは体を一瞬びくりと震わせた。
「違います、そういうわけでは……」
「この状況を打開する力を持っているというのに……あなたはその能力を使わずに世界が滅ぶのを望んでいるのだと、そういうことですね?」
「ち、ちが……」
「言い訳はいりません。あなたはあくまで傍観者を気取り、この世界の人間を見殺しにする殺人鬼だ」
「話が飛躍しすぎている、別にお嬢は誰も殺してはいない」
銀髪の騎士がマロリーをフォローするように言葉を返すがローズはすぐに口を開く。
「同じことですよ……世界を救える能力を持っているのに、人々を助ける能力があるというのに……それを使わないというのであればそれは人殺しに違いありません」
「…………」
銀髪の騎士は無言のままローズに剣を向けてにらみ続ける。言葉ではもう彼には通じないことを理解しているようだった。
「また明日、同じ質問をします。あなたの懸命なご決断を待っていますよ」
ローズはそれだけ言うと一歩引いて向きを変えて部屋を出て行った。王様は慌てて彼を追いかけていく。
部屋の中にはサンドリオンとマロリー、銀髪の騎士の3人だけが残された。
「……私は」
マロリーは下を向きながら声を震わせていた。銀髪の騎士は剣を鞘に戻す。
「……状況的にはマロリーさんの能力で私の「白紙の頁」を白雪姫の役割に書き換える……そのためにローズさんは私たちをこの世界に呼んだ……これで合っているかしら?」
「そうですね……間違いないと思います」
マロリーは気力のない声で肯定する。彼女が気を落としているのはローズに散々な言葉をぶつけられたせいもあるが、一番の要因は彼女の能力を使った際の影響によるものを考慮していることなのはすぐに理解した。
グリムから聞いた話ではマロリーは他者に役割を与える能力を持っている。
「白紙の頁」の人間のみ別の役割を与えることが出来る。これだけなら彼女がここまで能力を使用することにためらうことはなかったかもしれない。
マロリーが役割を書き換えた人間は容姿が変わり、それまでの記憶が全て失われてしまう。
いばら姫の世界ではシツジという「白紙の頁」の人間がいばら姫に呪いをかける魔法使いになった。その一部始終を目撃していたサンドリオンだったが、魔法使いになったシツジは容姿も少年の姿から老人に変わり、そして以前の記憶はなくなっていばら姫に呪いをかける魔法使いとしての役割をこなすだけの人間に変わってしまった。
彼女はその能力を使用することをあまり好んではいないことはこれまでの様子からも明らかだった。
「お嬢もあんたもこの世界に留まる理由はない」
騎士は女性二人に言葉を向けると閉じていた扉を開いて外に出ようと促した。
「銀髪の騎士さんは優しいのね」
サンドリオンはマロリーに話しかける。具体的な内容を告げているわけではないが今すぐにでもこの世界から離れた方がいいと彼が助言しているのは明白だった。
「……でも私がこの世界から離れてしまったら」
「……彼も言ってたけど、別にこの世界が滅ぶのはあなたの責任じゃないわよ」
マロリーは今日初めてこの世界に訪れた人間なのは会話の中から読み取れた。この世界を何とかすると約束したのはあくまでローズ単独の行動であり、彼女にその責任はない。
「……でもこの世界が滅んでしまうのを私は……見過ごすことはできません」
マロリーは唇をかみながらそう言った。その目には信念のようなものが見えた。
「そうね……だまって見過ごすわけにはいかないものね」
サンドリオンは彼女に同意する。サンドリオン自身もただ見過ごすことをよくホモってはいなかった。
「だってこの世界は………………なのだから」
「何か言いましたか?」
「いいえ、今日はもう遅いし、明日になったら別の方法がないか考えましょう」
サンドリオンはそれだけいうとマロリーと共に部屋を出ようとする。
二人の様子からこの世界を離れる気はないと理解した銀髪の騎士は軽く息を吐くと無言のまま二人の後に続いた。
……だってこの世界はグリムの愛した「白雪姫」の世界なのだから
グリムが生まれ育ち、そして崩壊したという世界とは異なるが、同じ白雪姫の物語であることには違いはない。
シンデレラの世界で彼から聞いた白雪姫という物語を……彼が心残りにしている白雪姫という世界を決して見捨てたくはないという気持ちがあった。
「私が白雪姫になればこの世界は救われる」
サンドリオンの心の中に燃えるような決意が宿った。
次の日の朝、お城の一室に泊まっていたサンドリオンたちは目を覚ますと状況は一変していた。空から灰色の雪が降り始めていた。
彼女たちに決断までの時間はあまり残されていなかった。
王様がうろたえる。ローズは目を細めると王様から手をほどいてマロリーの目の前に迫た。
彼女との距離がほぼないに等しいところまで足を踏み入れようとした。しかしそのギリギリで銀髪の騎士がさやから抜いた剣の切っ先をローズの顔に向けて彼を制した。
「……何のつもりですか?」
「それはこっちの台詞だ……ローズ、今お前はお嬢に何をしようとした?」
銀髪の騎士はローズをにらみながらも決して剣を下ろそうとはしなかった。それに対してローズは怯えることもなく一歩も後ろにはひかずにマロリーを見下ろしていた。
「なるほど……つまりあなたはこの世界を見捨てるのですね」
「……っ!」
ローズの言葉を聞いてマロリーは体を一瞬びくりと震わせた。
「違います、そういうわけでは……」
「この状況を打開する力を持っているというのに……あなたはその能力を使わずに世界が滅ぶのを望んでいるのだと、そういうことですね?」
「ち、ちが……」
「言い訳はいりません。あなたはあくまで傍観者を気取り、この世界の人間を見殺しにする殺人鬼だ」
「話が飛躍しすぎている、別にお嬢は誰も殺してはいない」
銀髪の騎士がマロリーをフォローするように言葉を返すがローズはすぐに口を開く。
「同じことですよ……世界を救える能力を持っているのに、人々を助ける能力があるというのに……それを使わないというのであればそれは人殺しに違いありません」
「…………」
銀髪の騎士は無言のままローズに剣を向けてにらみ続ける。言葉ではもう彼には通じないことを理解しているようだった。
「また明日、同じ質問をします。あなたの懸命なご決断を待っていますよ」
ローズはそれだけ言うと一歩引いて向きを変えて部屋を出て行った。王様は慌てて彼を追いかけていく。
部屋の中にはサンドリオンとマロリー、銀髪の騎士の3人だけが残された。
「……私は」
マロリーは下を向きながら声を震わせていた。銀髪の騎士は剣を鞘に戻す。
「……状況的にはマロリーさんの能力で私の「白紙の頁」を白雪姫の役割に書き換える……そのためにローズさんは私たちをこの世界に呼んだ……これで合っているかしら?」
「そうですね……間違いないと思います」
マロリーは気力のない声で肯定する。彼女が気を落としているのはローズに散々な言葉をぶつけられたせいもあるが、一番の要因は彼女の能力を使った際の影響によるものを考慮していることなのはすぐに理解した。
グリムから聞いた話ではマロリーは他者に役割を与える能力を持っている。
「白紙の頁」の人間のみ別の役割を与えることが出来る。これだけなら彼女がここまで能力を使用することにためらうことはなかったかもしれない。
マロリーが役割を書き換えた人間は容姿が変わり、それまでの記憶が全て失われてしまう。
いばら姫の世界ではシツジという「白紙の頁」の人間がいばら姫に呪いをかける魔法使いになった。その一部始終を目撃していたサンドリオンだったが、魔法使いになったシツジは容姿も少年の姿から老人に変わり、そして以前の記憶はなくなっていばら姫に呪いをかける魔法使いとしての役割をこなすだけの人間に変わってしまった。
彼女はその能力を使用することをあまり好んではいないことはこれまでの様子からも明らかだった。
「お嬢もあんたもこの世界に留まる理由はない」
騎士は女性二人に言葉を向けると閉じていた扉を開いて外に出ようと促した。
「銀髪の騎士さんは優しいのね」
サンドリオンはマロリーに話しかける。具体的な内容を告げているわけではないが今すぐにでもこの世界から離れた方がいいと彼が助言しているのは明白だった。
「……でも私がこの世界から離れてしまったら」
「……彼も言ってたけど、別にこの世界が滅ぶのはあなたの責任じゃないわよ」
マロリーは今日初めてこの世界に訪れた人間なのは会話の中から読み取れた。この世界を何とかすると約束したのはあくまでローズ単独の行動であり、彼女にその責任はない。
「……でもこの世界が滅んでしまうのを私は……見過ごすことはできません」
マロリーは唇をかみながらそう言った。その目には信念のようなものが見えた。
「そうね……だまって見過ごすわけにはいかないものね」
サンドリオンは彼女に同意する。サンドリオン自身もただ見過ごすことをよくホモってはいなかった。
「だってこの世界は………………なのだから」
「何か言いましたか?」
「いいえ、今日はもう遅いし、明日になったら別の方法がないか考えましょう」
サンドリオンはそれだけいうとマロリーと共に部屋を出ようとする。
二人の様子からこの世界を離れる気はないと理解した銀髪の騎士は軽く息を吐くと無言のまま二人の後に続いた。
……だってこの世界はグリムの愛した「白雪姫」の世界なのだから
グリムが生まれ育ち、そして崩壊したという世界とは異なるが、同じ白雪姫の物語であることには違いはない。
シンデレラの世界で彼から聞いた白雪姫という物語を……彼が心残りにしている白雪姫という世界を決して見捨てたくはないという気持ちがあった。
「私が白雪姫になればこの世界は救われる」
サンドリオンの心の中に燃えるような決意が宿った。
次の日の朝、お城の一室に泊まっていたサンドリオンたちは目を覚ますと状況は一変していた。空から灰色の雪が降り始めていた。
彼女たちに決断までの時間はあまり残されていなかった。
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