【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜

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第1章 幕開けは復讐から

43 友好関係と主の命令

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「じゃあ今度は君ね。えっと……誰だっけ? あーそうそう、カナンだ。君はどんな気分だった? それに何のためにあんなことしたのー?」
「わ、わたしは……二人に無理矢理加担させられたんです。脅されちゃって……怖いです、助けてください……」
「……黙れよ」

 怯えていたのに、急に顔つきが変わったと思えば媚びを売ってくるなんてねぇ。変わり身がすごいよ。男はみんなそれで落ちると思ってるのかな。だとしたらかわいそうな頭してるね。
 俺が落ちるわけなくない? 人に責任押し付けるとか俺が一番無理なタイプだし、そもそも今更そんな嘘通用しないでしょ。媚び売るならもっと上手くやろうよ。せめてもう少しマシな演技をしてほしい。

 ちょっと睨んだだけで泣くなら最初からやらないでよねー。それとさ、俺の口調が変わったからって一々怯えないでほしいんだよ。普段は気を付けてるけど、俺は本来口が悪い。多少怒りで口が悪くなってもそれは仕方ないと思ってよね。

「なんて言って脅されたの?」
「そ、それは……っ」
「バレバレな嘘つくのやめな。自分の首絞めるだけだからさー。それとひとつ言っておくよ。俺は君のように不都合があったらすぐ媚びを売ろうとする人とか、人に責任を押し付ける人は大嫌いなんだよね。女として落とせる落せない以前に、穢れがすごいんだよ。脅されて無理矢理加担させられてる人の穢れ方じゃないから。……分かったら失せろ」

 さっきの王弟よろしく、圧死する手前の強さで拘束して宙に浮かせる。この圧死する手前っていう力加減が大事なんだよ? 呼吸はできるから死なないけど、泣いたり声を出す余裕はない。不快な奴らを黙らせるにはちょうど良いよね。
 あ、一応言っておくけど俺はサディストとかじゃないからね。ただの報復。基本的には平和主義者だし。

「さて、この女に話を聞くのはもう無理そうだから最後は君ね。魔王の右腕の……クシャミ? なんだっけ。ク……あ、クシェイドか。結局さ、君たちの目的はなんだったの? 一番聞きたいことが聞けてないんだけどー」

 この人たち名前が分かりにくいんだよね。そもそもまともに覚える気もないけどさ? だから多少の間違いは許してほしい。

「この、世界にとって……優位に立つ精霊の……権威を落とそうと………」
「ふぅん……それで精霊狩りね。言っとくけど俺を殺さない限り精霊は滅びないよ? 俺はどの属性の精霊でも生み出せる。俺が死んでも次代の精霊王が世界によって生み出されるし」

 そう簡単なことじゃないと思う。精霊王というのは殺されたりしなければ、寿命が来た時にそのまま消滅して同時に次代の精霊王が生まれるんだよ。殺されるっていうのは前例がないからその場合はどうなるのか分からないけど……

「せ、精霊王は精霊を生めないんじゃ……」
「どこ情報? 主に精霊を生み出すのが大精霊、その大精霊を生むのが精霊王なんだけどー。精霊王が生めるのは大精霊だけじゃないし」

 精霊は精霊王の魔力の塊のようなものだから、俺が手に魔力を集めたら良いだけ。そりゃあ精霊同士で結婚とかシルフのように他の種族と結婚する場合もあるから、その場合は元の精霊が俺の魔力で出来ていても多少遺伝子とかが変わってくる。それでも俺の魔力がほとんどであることに変わりはないし結局精霊王がいる限り精霊は滅びない。大精霊であるシルフだって、子供が二人いるらしいけど自分の魔力で精霊が生めなくなったわけではないし。

 だからどうしても精霊の権威を落としたいならこの世界を何とかしなきゃだと思うよ。精霊王を生み出すのは世界だからね。でも世界を何とかする、なんて精霊にですら出来ないことだよ。結婚相手や恋人が出来たら精霊王が祝福する。そうすれば普段の姿と大人の二種類の姿になれる。魔力を消費するから常に大人の姿は無理だと思うけどね。

 シルフは元々大精霊で大人の姿だったから俺の祝福は関係ないけど、他の精霊は結婚相手や恋人がいるのに妖精みたいな姿や子供だと色々とマズい。

 まあ精霊というのは謎に包まれていて複雑な種族なわけですよ。ぜんぶ説明してるとキリがないんだよね。

「……じゃなくて、そんなこと今はどうでも良いんだよ。アルフォンスくん……王太子に呪いを掛けた理由は?」
「それは……それは本当に、私とカナンは関係ありません。アベルが、王太子の地位に……つ、つけるかもしれないから、と……ついでらしいです」

 前の二人に比べたら話しやすいね。まだまともなのかな? それとも諦めただけかな。会話が出来るのなら別にどっちでも良い。

「ついででやって良いことではないし、仮に王太子がいなくなったとしても次の王太子は上の王弟だと思うよ? 優秀だそうだしノームの祝福を受けてるからね。無自覚人たらしなのはある意味欠点って言われてるらしいけどさ」

 でも王が愛されて困ることはほとんどないよね。傾国とかそういうこともなさそうだしさ。俺だったら権力欲があるだけの下の王弟より上の王弟を推すけどねぇ。

「だってさ、国王。どうする?」
「どうする、とは」
「復讐したいかって聞いてるんだよー」
「精霊王様にお任せ致します」

 無難な回答だね。どうせ俺が何とかするのは分かってるもんね。

「そう。この三人を殺したら彼らが『呪いになるほど精霊を苦しめて殺した』、という罪がここにいない人にも知られるよね。そしたら表向きを取り繕うことも出来なくなるから精霊族と他三種族の友好関係には亀裂が入るねー。さて、お三方。そうなっても俺が困ることはないけど、どうしようか」

 俺が殺さなければ表向きは取り繕える。ひびは入っても決定的な亀裂は入らない。でもなー……ほんっと、許せないから。もう怒られても良いからこの城ごと破壊したい。今の俺は感情が乱れすぎて、一瞬でも気を抜けばすぐにでも魔力が暴走しそうな状態なんだよ。そうなったら城の破壊どころでは済まないだろうね。

「まあ俺たち精霊からしたらそんなことどうでも良いからさ、殺しちゃおっかな。簡単に死なせたりはしないけど。どうせ俺はこの手で人を殺めたことがあるから今更抵抗なんてないよ」

 不可抗力だけど、ね。俺は誰かさんと違って正当な理由もなく殺人をするほど気が狂った奴ではないから。

「せ、精霊王様! どんなお詫びでも致します! それだけは……!」
「わたくしたちエルフ族からもお願い致します。どうかご慈悲を頂けないでしょうか」
「我らからも」

 ふふ、必死だね。だけど俺がそんなことでやめるとでも思う? 床に頭を付けて懇願してくる彼らにそう言うとさらに絶望した顔になった。王としての威厳もなければプライドの欠片もないね。これを見るだけでどんなに必死かが分かるよ。王たちの責任もあるけど一番の理由は彼らじゃないのは分かってる。だけど俺は頭を下げられたからと言って願いを聞き入れるほど優しくはないんだよ。

『ナギサ、今回は手を引け』
「はあ? なぜ私があんたに命令されなければならないのです?」
『言わずとも分かるだろう。理由はちゃんとある』
「……はいはい、ご随意に。本当なら私が命令を聞く筋合いはないのですから感謝してくださいね」

 ……世界がやめろだってさ。神はいないと言ったけど世界が神みたいな感じだろうね。たまーに干渉してくる。俺の親みたいなものだね。普段は干渉して来ないけどここで友好関係に亀裂を入れると大変なことになるみたい。よほどのことじゃないと俺の行動を禁じたりしないからよっぽどのことなんだねぇ。めんどくさ。ほんと、なんで今回に限って……勘弁してほしいよ。笑えないって。

「世界がこの人たちを殺すなだって。良かったね、友好関係は破綻しないよ。でも殺さないのなら何でもして良いってさ」
「ありがとうございます……!」

 あ、そこはありがとうなんだね。三人とも口を揃えて礼を言ってきたけど、友好関係さえ保たれるならこの人たちはもうどうでも良いのかな? まあそうだよね。これだけのことをしておいて許せないのは俺だけじゃないよねぇ。
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