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アウローラ・ロレーヌの華麗なる復讐計画 ~皆様、仲良く地獄へ落ちましょう!~
7 偽物の親子
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◇
「……お父様」
「遅かったな、アウローラ。こんな時間にどこに行っていたんだ? 私は何も聞いていないが」
「…………」
最悪だ。フェリクスとの密会を終え、自分の部屋に戻ると待ち構えていたのは父であるロレーヌ伯爵。サイドテーブルにある小さな照明では何を考えているか表情が読み取れない。アウローラの父は気分で態度を変えるが、それでもいつもどこか冷静な部分がある。表情が冷たいからそう見えるのだろうか。いずれにしても、アウローラには父の思考が読めない。何を考えているか分からない相手というのは、たとえ自分の戦闘能力の方が上回ると理解していたとしても、時には恐怖の対象となる。
「無視するならもう一度言うぞ。アウローラ、お前は今までどこに行っていた?」
「少し、散歩へ」
「こんな時間にか? ……そういえば、お前はかなり活発な性格だったな。最近は大人しくしていたから忘れていたが、相変わらず貴族令嬢らしくない女だ。いっそ平民にでもなってみるか? そうすれば好きなだけ暴れることができる」
アウローラの父がこんなことを言っているのは間違いなく自分達のためだ。アウローラを心配しての言葉なんかじゃない。貴族令嬢がこんな時間に護衛の一人も連れず、一人で夜道を歩いていたという目撃情報でも上がれば尾ひれが付いて悪い噂が広まるに決まっている。そうなればロレーヌ伯爵家の評判が落ちるから、困るのは彼らの方だ。
ネチネチと嫌味を言う父にうんざりするが、手を出されていないだけまだマシだろう。それにしても今日は何か良いことでもあったのだろうか。夕食の件もそうだが、いつもに比べれば優しい方だと思う。
そんなことを考えていると、ふと父の機嫌が良い理由に心当たりがあったのを思い出した。十中八九、アウローラとフランツの婚姻の儀に国王が参列することを聞いたのだろう。それを父は『自分が認められているから』だと勘違いしたのだ。それならば、僅かにでもアウローラへの当たりが軟化している理由にも頷ける。
「まさかとは思うがアウローラ。お前、毎日こんな時間に外出しているのではあるまいな?」
「そのようなことは、決して……」
今日は何だか眠れなかったので、とまるで反省しているかのような顔を作って言う。だが反省しているのは事実だ。次からは見つからないようにもっと注意しなければならない。明日はどうやって抜け出そうかと考えていると、上の空であることがバレたらしい。舌打ちをしながら胸ぐらを掴まれた。またか……と思う気持ちはあるが、やはり単純な力では敵わない相手からの暴行はかなり恐怖とストレスを感じる。もう大人しいふりをするのはやめたいが、せっかくこれまで耐えてきたのだ。復讐を目の前にして今までの努力が無駄になるようなことをしたくはない。
「申し訳、ありませ……っ」
両手を拘束したまま首を絞められている。息ができない。真正面から突き刺さる尖った氷のように鋭い視線が、さらにアウローラの心を冷やした。
「っ、は……あ!」
限界を悟り、フェリクスとの計画が頓挫するのを承知で蹴りを入れようと足を上げた時、ようやくアウローラは父の手から解放された。思わずその場に崩れ落ち、激しく咳き込んでしまう。苦しさと同時にどう言い表せば良いのか分からないほどの怒りが込み上げてくる。
誰もが寝静まっているような時間に無断で外出したのは悪かったと認める。だが、実の娘にここまでの殺意を向ける理由は何だと言うのか。貴族にとって家の評判は今後の人生を大きく左右するものだ。それでも、だとしても……これほどの殺意を向けられる理由が、アウローラには分からない。
「惨めだな。婚姻の儀まで部屋で謹慎していろ。監視を付ける。これは当主命令だ」
「……承知致しました」
◇
「……お父様」
「遅かったな、アウローラ。こんな時間にどこに行っていたんだ? 私は何も聞いていないが」
「…………」
最悪だ。フェリクスとの密会を終え、自分の部屋に戻ると待ち構えていたのは父であるロレーヌ伯爵。サイドテーブルにある小さな照明では何を考えているか表情が読み取れない。アウローラの父は気分で態度を変えるが、それでもいつもどこか冷静な部分がある。表情が冷たいからそう見えるのだろうか。いずれにしても、アウローラには父の思考が読めない。何を考えているか分からない相手というのは、たとえ自分の戦闘能力の方が上回ると理解していたとしても、時には恐怖の対象となる。
「無視するならもう一度言うぞ。アウローラ、お前は今までどこに行っていた?」
「少し、散歩へ」
「こんな時間にか? ……そういえば、お前はかなり活発な性格だったな。最近は大人しくしていたから忘れていたが、相変わらず貴族令嬢らしくない女だ。いっそ平民にでもなってみるか? そうすれば好きなだけ暴れることができる」
アウローラの父がこんなことを言っているのは間違いなく自分達のためだ。アウローラを心配しての言葉なんかじゃない。貴族令嬢がこんな時間に護衛の一人も連れず、一人で夜道を歩いていたという目撃情報でも上がれば尾ひれが付いて悪い噂が広まるに決まっている。そうなればロレーヌ伯爵家の評判が落ちるから、困るのは彼らの方だ。
ネチネチと嫌味を言う父にうんざりするが、手を出されていないだけまだマシだろう。それにしても今日は何か良いことでもあったのだろうか。夕食の件もそうだが、いつもに比べれば優しい方だと思う。
そんなことを考えていると、ふと父の機嫌が良い理由に心当たりがあったのを思い出した。十中八九、アウローラとフランツの婚姻の儀に国王が参列することを聞いたのだろう。それを父は『自分が認められているから』だと勘違いしたのだ。それならば、僅かにでもアウローラへの当たりが軟化している理由にも頷ける。
「まさかとは思うがアウローラ。お前、毎日こんな時間に外出しているのではあるまいな?」
「そのようなことは、決して……」
今日は何だか眠れなかったので、とまるで反省しているかのような顔を作って言う。だが反省しているのは事実だ。次からは見つからないようにもっと注意しなければならない。明日はどうやって抜け出そうかと考えていると、上の空であることがバレたらしい。舌打ちをしながら胸ぐらを掴まれた。またか……と思う気持ちはあるが、やはり単純な力では敵わない相手からの暴行はかなり恐怖とストレスを感じる。もう大人しいふりをするのはやめたいが、せっかくこれまで耐えてきたのだ。復讐を目の前にして今までの努力が無駄になるようなことをしたくはない。
「申し訳、ありませ……っ」
両手を拘束したまま首を絞められている。息ができない。真正面から突き刺さる尖った氷のように鋭い視線が、さらにアウローラの心を冷やした。
「っ、は……あ!」
限界を悟り、フェリクスとの計画が頓挫するのを承知で蹴りを入れようと足を上げた時、ようやくアウローラは父の手から解放された。思わずその場に崩れ落ち、激しく咳き込んでしまう。苦しさと同時にどう言い表せば良いのか分からないほどの怒りが込み上げてくる。
誰もが寝静まっているような時間に無断で外出したのは悪かったと認める。だが、実の娘にここまでの殺意を向ける理由は何だと言うのか。貴族にとって家の評判は今後の人生を大きく左右するものだ。それでも、だとしても……これほどの殺意を向けられる理由が、アウローラには分からない。
「惨めだな。婚姻の儀まで部屋で謹慎していろ。監視を付ける。これは当主命令だ」
「……承知致しました」
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