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本編
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芸術科棟に近づくにつれ、雰囲気が変わっていく。
今日は晴天なので、棟の周りに植えられた並木の木陰が心地よい。このままお昼寝できそう。
芸術科棟は赤レンガを基調として蔦に覆われている趣のあるデザインだった。脇にゴロゴロと彫刻やら石像やら油絵(多分乾かしている)やらが転がっている。
この棟の中には吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部、美術部、写真部がある。
一定数これらの部活に入りたい人もいるのではと思うかもしれないが、所謂“本職”の人が多いのだ。つまり、芸術科の音楽コースの方々は吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部に自然と所属、絵画コース・彫刻コースは美術部に自然と所属…という感じなので、他の科から入部するのは相当自信のある人かな、と見られる。
その対策か、他の科用に器楽部、軽音部などが存在するのだ。
今吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部は学園ホールで披露演奏中なので、ここは人がまばらで静かだ。
芸術科棟に入った私は、空調が適温なのに満足してわざとゆっくり回った。
写真部には普通科で見た事のあるような人もいたが、美術部の方は芸術科の生徒のみであった。
……そして、美術部に入った瞬間の視線が痛い。しかし、数が少ないので負けない!
大きな窓の向こうは小さな噴水や四阿があり、陽だまりの中で穏やかな時間を作り出している。
その窓のすぐ横、ちょうど日の当たらない場所にある絵画に目を奪われた。
私の背丈ほど(150cmくらい)の大きなキャンバスいっぱいに向日葵畑が広がっていて、その中に1人女性がこちらをじっと見つめている。
晴れ渡った空の青さと向日葵の黄色による明るい雰囲気とは対照的に、女性は何か思い詰めたような、不安そうな、、、そんな顔をしている。
「その絵が気になりましたか?」
ビクッと肩を震わせ振り向くと、お下げで丸眼鏡の女子生徒がニコニコ(ニヤニヤ?)と私の前に立っていた。
「ええ、不思議な絵ですわね。風景はこんなにも美しいのに、この女性は何だか思い詰めているようだわ。」
感じたままを伝えると、女子生徒はニコニコ(ちゃんと)と満足気な雰囲気だ。
「申し遅れましたが、私は芸術科3年美術部部長の丸山です。あなたは絵を観る目があるようだ。」
「私は普通科1年の永冨雅です。絵を勉強した事なんて無いので、観る目があるなんてことはありませんよ」
ふむ、と部長は首を傾げ、絵画に目を向けた。私もそれに倣う。
「これはあくまで私個人の見解なのですがね。ただ絵を観るのに知識は要らないのですよ。観たときの印象、雰囲気、色合い、様々なものを感じるのです。ーーーーーさて、永冨さんはこの絵が好きですか?嫌いですか?」
「好きです」
じっと絵画の女性と目を合わせたまま、即答した。
「それは良かったです。作者は2年生ですが、1年生の頃から売れっ子でしてね。あ、ウチの部は販売もしているのですよ。よかったら、他の作品も見ていってくださいね。」
「ありがとうございます」
部長はまたニコニコ(ニヤニヤ)として傍から離れていった。
絵画の下のプレートには
『いつか』
2年 神崎悠
この日から、頭の隅に神崎悠の名前だけがずっと居座ることになる。
今日は晴天なので、棟の周りに植えられた並木の木陰が心地よい。このままお昼寝できそう。
芸術科棟は赤レンガを基調として蔦に覆われている趣のあるデザインだった。脇にゴロゴロと彫刻やら石像やら油絵(多分乾かしている)やらが転がっている。
この棟の中には吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部、美術部、写真部がある。
一定数これらの部活に入りたい人もいるのではと思うかもしれないが、所謂“本職”の人が多いのだ。つまり、芸術科の音楽コースの方々は吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部に自然と所属、絵画コース・彫刻コースは美術部に自然と所属…という感じなので、他の科から入部するのは相当自信のある人かな、と見られる。
その対策か、他の科用に器楽部、軽音部などが存在するのだ。
今吹奏楽部、オーケストラ部、合唱部は学園ホールで披露演奏中なので、ここは人がまばらで静かだ。
芸術科棟に入った私は、空調が適温なのに満足してわざとゆっくり回った。
写真部には普通科で見た事のあるような人もいたが、美術部の方は芸術科の生徒のみであった。
……そして、美術部に入った瞬間の視線が痛い。しかし、数が少ないので負けない!
大きな窓の向こうは小さな噴水や四阿があり、陽だまりの中で穏やかな時間を作り出している。
その窓のすぐ横、ちょうど日の当たらない場所にある絵画に目を奪われた。
私の背丈ほど(150cmくらい)の大きなキャンバスいっぱいに向日葵畑が広がっていて、その中に1人女性がこちらをじっと見つめている。
晴れ渡った空の青さと向日葵の黄色による明るい雰囲気とは対照的に、女性は何か思い詰めたような、不安そうな、、、そんな顔をしている。
「その絵が気になりましたか?」
ビクッと肩を震わせ振り向くと、お下げで丸眼鏡の女子生徒がニコニコ(ニヤニヤ?)と私の前に立っていた。
「ええ、不思議な絵ですわね。風景はこんなにも美しいのに、この女性は何だか思い詰めているようだわ。」
感じたままを伝えると、女子生徒はニコニコ(ちゃんと)と満足気な雰囲気だ。
「申し遅れましたが、私は芸術科3年美術部部長の丸山です。あなたは絵を観る目があるようだ。」
「私は普通科1年の永冨雅です。絵を勉強した事なんて無いので、観る目があるなんてことはありませんよ」
ふむ、と部長は首を傾げ、絵画に目を向けた。私もそれに倣う。
「これはあくまで私個人の見解なのですがね。ただ絵を観るのに知識は要らないのですよ。観たときの印象、雰囲気、色合い、様々なものを感じるのです。ーーーーーさて、永冨さんはこの絵が好きですか?嫌いですか?」
「好きです」
じっと絵画の女性と目を合わせたまま、即答した。
「それは良かったです。作者は2年生ですが、1年生の頃から売れっ子でしてね。あ、ウチの部は販売もしているのですよ。よかったら、他の作品も見ていってくださいね。」
「ありがとうございます」
部長はまたニコニコ(ニヤニヤ)として傍から離れていった。
絵画の下のプレートには
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この日から、頭の隅に神崎悠の名前だけがずっと居座ることになる。
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