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本編

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「いらっしゃい……あらぁ、可愛いらしい子が来たわねぇ」

「ふふっ、ありがとうございます」


小店に入った私に声をかけたおばあ様は、ニコニコとしていて私なんかよりも可愛らしいと思う。

お店のガラス戸の外側にはガチャガチャが4種類ほど並んでおり、(こんなポスターあったんだ……)と思うくらい見たことのない比較的新しいアイスクリームのポスターが貼ってあった。


店の中は駄菓子がメインで、夏はきっと賑わうのだろう、かき氷のメニューが壁に貼られている。



私は小さい冷蔵ショーケースからラムネの瓶を2つ取り出し、チョコレート、煎餅、飴玉、と味のジャンルが違うお菓子をいくつか見繕ってレジに出した。



「2人で来たの?」

「ええ、つがいと来ました」

「そう、良かったわね……私にはつがいのおじいさんが居たんだけど、2年前に置いていかれたのよ」



おばあ様は、ゆっくりレジのボタンを押し、お釣りを私に手渡した。


「最初私は気が狂ってしまってね……子供達に随分迷惑をかけてしまったけど、何とかおじいさんのことを受け入れて、2人でずっとやってきたこのお店を守ってるの」


おばあ様は、どうぞ、とビニル袋を私に持たせ、そばにあったりんごを1つ袋にねじ込んだ。


「どうか、最期までお幸せにねーーーーまた来てね」


ありがとうございました、と声をかけて店を出た。





『ーー最期までお幸せにねーー』

おばあ様の寂しそうな顔を見て、胸が締め付けられた。いつか、私もーーーーーー



ブンブンと首を振って、マイナスな考えを飛ばした。

(今を、幸せに生きよう)




肩掛けバッグから(実は持ってきていた)一眼レフを取り出して、小店と、砂浜と別の方向の海を収めた。


ふとビニル袋に目をやると、真っ赤なりんごがひとつ。





ーーーアダムとイヴの、禁断の果実ーーー



(まさかね)

きっとあのおばあ様は“おまけ”でりんごをくださったのだろう。

何だか不安になった私は、先輩が下書きをしているであろう場所へ戻ったが……




先輩が男性3人に囲まれているのが見えたーーーー
















雅が小店へ行っているその頃ーーー



風に煽られて髪が乱れるのを一切気にせず、夢中で鉛筆を走らせる影が1つあった。


紙のほとんどが海と空で、砂浜にパラソルが1つ。遠くに黒い影があるのは隣国なのか雨雲なのか。







(…………よし)


簡単な下書きは終わった。今回は20分かかった。
最後にスマホで景色を何枚か撮り、小店に行ったまま未だ戻っていないアイツを迎えに行こうと荷物をバッグにしまった時


「ねぇ、そこのオニーサン!今ヒマ?」

近づいてきたのは3人組の男。

「いえ、今から連れを迎えに行こうかとしていたところです」

「えー?つれないな、ちょっとでいいから遊ぼうよ!」


めんどくさいことにならない内に立ち去ろうとすると、1人に腕を掴まれた。

「ーーー離せ」

「まあまあ、本当にちょっとだから!ね?」

もう1人は、腕を掴んでいるやつの反対側から肩を組んできた。


……まずい。心からの嫌悪感を覚える。


いつか襲われた事をふと思い出し、身震いした。


「あれ、震えてんの?かわいーね!…………てかオニーサン、Ωだよね、この甘い匂い」

肩を組んでいるやつがスンと鼻を鳴らして俺の耳元に口を近づけた。


「大丈夫ーーーいっぱい気持ち良くさせてあげるからね」


「っ!やめろ、本当に!離せ!!」



必死に暴れるが、3人掛りで押さえられ、引き摺られると全く歯が立たない。

(雅ーーーーーーっ!)




心の中で助けを叫んだ時


「皆様、ごきげんよう。わたくしの連れに何か御用でしょうか?」


優美に笑みを浮かべながらカーテシーをする彼女を見て、3人は歩みを止めた。
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