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第1章 歓迎! 戦慄の高天原

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 放課後、皆の部活巡り。
 最終日となる今日は最初にジャンヌの槍技部へ顔を出した。
 槍と言っても色々ある。
 槍技部では東洋槍と西洋槍も含め、槍全般を取り扱っているようだ。

 振り回して稽古をしている姿があちらこちらに見られる。
 けれども集団で突いたりしている姿を見るに中世の集団戦を彷彿とさせる。
 突く、斬る、叩く。ぜんぶできる槍って汎用性高いよなぁ。


「あたしはこれを使ってる」


 ジャンヌが取り出して来たのは西洋槍。
 斧槍ハルベルトと呼ばれる類のものだ。
 って、それかなり重量があるよな。
 小柄なジャンヌが2メートルを超える槍を担いでいる姿が何ともシュールに思える。


「お前、それ使えんの?」

「当たり前よ。手合わせしてみる?」

「すまん。今は遠慮しとく」

「すごいねジャンヌ! 使ってるとこ見たいな!」


 わかってるのかわかってないのか。リアム君が暗に戦ってくれと催促する。
 ジャンヌはそれを受け、先輩方が練習しているところへ行って話をしていた。
 そうして3人の先輩を引き連れて戻って来た。


「見てて。乱取り稽古よ」


 乱取り。技のかけ放題。バトルロワイヤル。
 要するに全員が敵で最後まで立っていたら勝ち。
 稽古なのに実武器でやるのか。
 このへんのさじ加減がよくわからない高天原。
 怪我しても治せるとかあるんだろうか。

 ソフィア嬢のときのように養生もしていない刃むき出しの面々。
 ジャンヌの斧槍に、先輩3人も直槍、鎌槍、薙刀とそれぞれ異なる。
 否応にも見ている俺も緊張感が高まる。


「はじめ!」


 審判役の人が合図をすると、ジャンヌが勢いよく地面を蹴った。
 彼女が向かった先にいるのは細身で直槍を持つ人だ。
 迎え撃つ細身先輩は突き刺す構えでジャンヌを牽制する。
 リーチの短い武器ならそこで足踏みするところだが槍同士。
 柄の部分に振りかぶった槍を勢い良くぶつけて弾き飛ばす。


「せい!!」


 気合いと共にジャンヌが踏み込んだ。
 弾かれた先輩側もそれを承知のうえ。
 槍ごと回転し、受けた衝撃を勢いのある打撃に変えてジャンヌへ叩きつける!


「はっ!」


 するとジャンヌは棒高跳びよろしく槍を軸にして飛び上がった。


「なに!?」


 先輩の回転大振りはその軸となる柄の部分に叩きつけられる。
 宙にいるジャンヌはその勢いを受け取った槍を先輩と同じ要領で回転させ、そのまま先輩の上に振り下ろした!
 があん! と地面を叩きつける音がした。
 先輩は尻餅をついて槍の下でへたりこんでいた。
 勝負あった。


「身軽だな」

「格好良いね!」


 俺たちが感想を漏らすと彼女はこちらをちら見してニヤリとした。
 余裕あんね。さすがだ。


「ジャンヌ、後はお前だ!」


 向こうで薙刀先輩を御した鎌槍先輩がジャンヌ目掛けて駆けてくる。
 今度は迎撃側の彼女。
 槍を短めに持ち先輩の動きに合わせる。
 鎌槍先輩はリーチの長さを生かしてジャンヌ目掛けて鋭く突き出した!
 ジャンヌは短く持った柄の部分で受け流す!
 彼女の顔の横を穂先の刃が通過した!
 怖えよ! 見てる方がヒヤヒヤする!

 先輩はジャンヌの手前で立ち止まると、ぐい、と槍に力を入れて受けたジャンヌに押し潰すように力を入れた!
 体格差を利用したものか。
 小柄なジャンヌは押されるがまま少し後退する。
 先輩はジャンヌが少しだけ姿勢を崩したところを見計らい、大きく後ろへ跳躍して引いた。
 カウンターを受けないよう、ジャンヌと柄で競り合ったまま。

 徐々に先輩の鎌槍が引っ込み・・・あ!?
 鎌の部分がジャンヌの後ろから迫ってる!?
 おいおい、あれじゃ後頭部直撃だぞ!?


「あぶな・・・!!」


 そんな発声が間に合うわけなく。
 鎌部分がまさにジャンヌの首を刈り取ろうと迫る!
 彼女の顔がするりと落ちた。
 え!?
 俺は目を疑った。

 ジャンヌは身体全体を重力に任せて沈ませていた。
 そして空を切った鎌槍を追いかけて飛び出した。
 鎌槍先輩は槍を戻している途中で対応できない。


「くっ! まいった!」


 ジャンヌの斧槍が先輩の首の横に添えられて勝負がついた。
 すげぇ!
 だけど実武器はヒヤヒヤするね。


「すごいすごい!!」

「どう? 大したものでしょ?」

「ああ、強いな。相手にしたくねぇ」


 得意顔のジャンヌ。
 褒められて素直に嬉しそうだ。
 しっかし手合わせって、あんなの相手にしたら即、首を刈られて終わりだよ。


「くくく、これは模擬戦だから。手加減しなけりゃもっと動けるわ」

「お前、これで具現化前だろ。どんだけ強くなれんだよ」

「人を誉めてるなら自分の心配をしなさいよ」


 意気揚々としているジャンヌをヨイショしたつもりが。
 急にその熱が醒め、俺に向けて例の冷たい目線を送ってくる。
 何か気に障ったか?


「あんた、そんなぼうっとしたままで舞闘会に出るの?」


 いや睨まないで!?
 そのドスが効いた脅しセリフ、斧槍持ったままだと怖すぎるから!
 こっち丸腰だよ!


「お、おう・・・出るぞ」


 じろりと舐めるような彼女の視線。
 なんで敵意丸出しなんだよ。
 おかしいな、昨日バックストーリーとか確認して何もなかったと思うんだけど。


「次は僕の番だね! 全銃部に行こう!」


 そして毎度KYのリアム君。
 こういう微妙な雰囲気をぶっ壊してくれることには感謝。
 にこにこ顔の彼に引かれ、ジャンヌと有耶無耶になりながら全銃部へと向かった。


 ◇


 全ての銃を網羅する部活。略して全銃部。
 ゲームでそう語るシーンがあったなぁ、と思い出したところで目の前にあるのは実弾を装填した銃。
 まさか異世界で現実にある銃と同じような代物を目にするとは思わなかったよ。
 狙撃銃で有名なM24 SWSの後継でM40という機種らしい。
 さすがに未来式素材とかで作られているので細かいところはよく分からない。
 M24の実射程が800メートルだったから、こいつはもっと遠くまで届くのだろう。


「このライフルは射程が2キロメートルある」

「は?」


 テロリスト先輩の解説に俺、唖然。
 何その詐欺射程。認知する前にやられるやつだよね。
 水平線までの距離よりは近いけど、人間だったら2キロ先なんて意識できない。
 よほど草原とか見晴らしの良いところじゃないと、狙われてるなんてわからんて。
 某スナイパー漫画みたいに狙われていると視線を感じる超人じゃないと躱せない。
 つか、そんな物騒なもんを部活動で使うんじゃねぇ!


「狙撃フィールドは生憎、最大で1キロメートルまでしかなくてね」


 そんなに広いのかよ!
 高天原学園も何を考えてんの!
 弓術場でも自重しろと思ったのに!

 ・・・いやもう何も突っ込むまい。
 ゲームのご都合主義は俺の常識じゃ計り知れないからな。


「ね、武くん! 僕、どんどん距離が伸びてるんだ!」


 見て! と言わんばかりにリアム君は俺を引っ張って射撃ポイントへ進む。
 彼が背に担いだM40は1メートル以上ある銃だ。
 いわゆる、皆が想像するスナイパーライフルである。
 担いでいると彼の身長とほぼ同じに見える。
 重量も弾を含めると5キログラム近いんじゃねぇのかな。
 よく普通に持てるな。


「ほら、ここだよ!」


 ちょうど地に伏せて撃てる芝生状になった地面。
 直線の先に幾つか的がある。
 正面に立つと少しずつ左右に分かれて見えるのは距離別に撃ち分けるためだろう。


「あのモニタ―で判別できるみたいね」

「なるほど」


 ジャンヌが指す先に、距離別に的が映し出されたモニターがあった。


「吾輩が手本を見せようか」


 テロリスト先輩がリアム君と同じM40を担いで隣に立っていた。


「同志リアムよ。無心に撃てば同じ姿勢で有効射程を伸ばせるのだ」

「うん!」


 そうしてテロリスト先輩はM40と共に地に伏せてライフルを撃つ。
 だぁーん!


「きゃ!」

「うるせぇ!」


 そうだよ、耳栓してねぇよ!
 鼓膜が破れるかと思うくらい爆発音が煩い。
 先輩の銃弾は500メートル地点の的を揺らしていた。


「音の外から攻撃できる距離である。実戦なら2発はいけるのである」


 もはや要人暗殺部かと思うような発言。
 ライフルから出る煙を息で流しているガンマン風の仕草もテロリスト風の格好で台無しだ。
 未来ファッションなの? これ?

 ようやく鼓膜が正常に戻ってきたところでリアム君が撃ち方を構える。


「僕、1キロ先を狙ってみるね!」

「お前この間、100メートルって言ってなかったか?」

「うん、初めてだったから近くを狙ったんだ! もうちょっと遠くでもいけそうだから!」


 もうちょっとどころじゃねえよ。10倍の距離だよ。
 先輩はうんうん頷いてるけどこの部活って指導方針とかねぇのか。


「彼の才能は目を見張るものがある」


 おい先輩。あんたの実力を軽く凌駕する発言してんだぞ。
 ・・・ともかく彼が撃った結果次第だ。


「いくよー」


 緊張感の欠片もない掛け声。
 っと危ねぇ。耳を塞いでおかねば。
 ジャンヌも同じように両手で耳を覆っていた。

 だぁーん!
 ライフルが火を吹いて弾が発射される。
 肉眼で確認できる距離じゃないのでモニターを見ていると、1キロメートルの的が大きく揺れていた。


「当たった!?」

「嘘!?」


 いくら有効射程だからってそんな気軽に当たるもんなのか?
 お前、始めて1週間の素人だろ?
 こいつの才能だということか・・・。
 主人公補正と適性の力をまざまざと目にして、俺は背筋が冷えた。
 さくらの200メートルでも十分に驚かされたというのに。


「ねぇ! 当たったよ! すごいでしょ!」

「うん、すげぇよ。 あんなんよく当てられんな」

「風向きとか落下もあるんじゃない?」

「うーん? ほら、ずれそうって思うぶんだけ動かせば当たるよ?」


 何だよその自動補正機能。
 中の人がコンピューターなんじゃねぇの?
 ジャンヌとふたり、リアム君を見る。
 まるで針穴に髪の毛を投げ入れるような芸当を見せられたのだ。
 眼前で披露される達人芸を才能で片付けるなら、努力が必要な俺はどうなるのか。
 当人は褒められて嬉しそうにはしゃいでいた。

 その後、3回ほど1キロメートル射程の的に全的中させたリアム君。
 疑いようもなくその技量があると認めることになった。
 お前もう軍人でいいよ。


 ◇


 同行者を連れての闘技部は本日最終日。
 例により凛花先輩に許可を取ってふたりをフィールドへ案内した。


「武、今日は疑似化の応用をするぞ」

「応用?」

「そうだ。これまでは筋力強化だけだったろう。本来は硬化の効果もある」

「硬化? 固くなるってことか」

「ああ。素で武器とやり合え無いだろう」


 なるほど。
 具現化で武器を生成する代わりに身体を強化するのだ。
 ならば具現化で生成された武器と同じ強度にできるという理屈か。


「そうだな、手本を見せよう。見学の君たち、あそこにある武器庫から得意な武器を持ってきてくれ」


 凛花先輩が指す先にある倉庫っぽい部屋。
 あんなとこあったっけ?
 ジャンヌもリアム君も言われるがまま、その部屋に入っていく。
 ほどなくして、斧槍とM40を装備して帰ってくるふたり。
 待て。なんで闘技部にそんなもんまで揃ってんだよ!


「じゃ、赤毛の君。アタイをそれで突いてみてくれ」

「えっ? いいの?」

「ああ、構わない。怪我などしないから平気だ」


 さすがのジャンヌでもいきなり無手の人間相手に攻撃は躊躇するようだ。
 けれども先輩が平気というので半信半疑、斧槍を先輩に突き出した。
 がきん!
 指で弾いた先輩から緑の火花が散った。


「あっ!?」

「ほら、そんな遠慮していちゃ見本にならないぞ」

「! わかったわよ!」


 余裕そうに笑う先輩に馬鹿にされたと思ったのか。
 急に真剣な顔つきになったジャンヌ。
 少し後ろに下がると腰を落として槍を構える。


「はっ!」


 1合、2合、3合。
 シュッと音がするくらい唸る鋭い突き。
 さっきの槍技部での乱取りと比べ段違いの速さだ。
 あれ、本当に手加減してたのか!?

 その突きを凛花先輩は手のひらで弾いている。
 がきん、がきん、がきん。
 受けるたび、緑の火花が視界を明るく染める。
 先輩、一歩も動いてねぇよ。
 なんだあれ!?
 疑似化ってそんなに強力なの!?


「うん、もういいだろう。ありがとう」

「はぁ、はぁ。それ、腕の具現化? 信じられない」


 軽く息が切れるほど全力で突いたのか。
 悔しそうな雰囲気のジャンヌの感想からも、実武器と疑似化の格差が如実にわかる。


「銃弾も受けるぞ。ほら、そこのスナイパー君。向こう側から撃ってみてくれ」

「僕? うん、やってみるね」


 ・・・。
 この光景だけ見ると処刑現場にしかみえねぇ。
 リアム君が100メートルくらい離れてM40を構える。
 俺とジャンヌは誤射で当たらないくらい離れて様子を見る。


「ほら、いつでもいいぞ」


 両手を上に挙げ、余裕の降参の格好をする出す先輩。


「いくよー」


 リアム君の声と同時にだぁーんと射撃音が聞こえた。
 ぎいぃぃーん!
 激しい金属音と緑の輝きが先輩から飛び散る。


「えええ!?」


 胴で受けた!?
 思わず声をあげてしまう。
 あんなん、お手本も何もねぇだろ!
 防弾チョッキも真っ青だぞ!


「そんな、銃も弾くの!? どれだけ硬化してるの?」

「ははは! 驚くよな、最初はそうだろ!」


 先輩の身体は当然に何ともない。
 リアム君も戻って来て驚いていた。


「なぁ、もしかして俺、これをやるのか?」

「もしかしなくてもそうだ。全身は難しいから腕だけだな」


 ・・・。
 いやさ、これ失敗したらどうなんのよ?
 即死とか腕が千切れるとか、ヤバい予感しかしねぇよ!


「心配すんな。アタイができてるか確認するから」


 凛花先輩はそう言うけれど。
 俺はどうにも結果に対する恐怖心が拭えないままだ。

 ジャンヌとリアム君の、俺は本当にできるの? という視線が不思議と痛い。
 俺だって不安しかねぇんだよ!
 結局は先輩の言うとおりに頑張るしか選択肢がない俺だった。


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