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第1章 歓迎! 戦慄の高天原
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闘技部にて俺は疑似化による防御の練習を始める。
どうせ拒否権なんてない。
今日まで凛花先輩の課題は無茶振りだったんだから今更だ。
死にかけてもきっと何とかなる(他力本願)。
凛花先輩は全身に疑似化をかけてくれたが、まずは腕からと指示を出す。
いつも通りなんだけどこの後のことを考えると怖さしかねぇ!
「武、よく聞け。擬似化は装置だ。そこに魔力を流してはじめて作動する。脚を動かすときは無意識に力を入れるように魔力を流し動作させている。これは身体の気脈がそうなっているからだ」
「はぁ」
「けれども顔や胴といった能動的に動かせない部分は意識をして魔力を流さないと効果が出ない。受ける場所を強く意識して魔力を流すんだ」
いつになく丁寧に指導してくれる凛花先輩。
え? 気安い感じじゃないとかえって怖ぇんだけど。
どうしていきなりそんな真面目モードなの?
「意識って、力を入れりゃ良いわけじゃねぇよな」
「部分的に魔力を流すことになる。特にさっきみたいに武器を防ぐならそれなりに流さないと駄目だ」
そもそも部分的に流すなんてどうやんのよ。
お腹に集めて上にぐいってやつしか出来ねぇのに。
「それ、全身に流しちゃ駄目なのか?」
「効果が薄くなるし魔力消費も多くなる。が、君ならそれでも何とかなるかな」
「全身になら流せると思うから」
「なるほど。ではやってみてくれ」
凛花先輩が様子を見ている。
さてこの状態で集魔法だ。
すう、くら、とん。
力を入れて・・・。
ぐっ・・・目眩が。ん、何とか耐えた。
慣れてきたな、これも。
全身に熱が回ったことを確認して身体を見る。
うん、ぼうっと身体が光ってるな。大丈夫そう。
「これでどうだ?」
「試してみよう。そこに立ってみろ」
「ここ?」
俺が棒立ちすると凛花先輩が俺の前までやってきた。
腰を落として・・・構えてますね。
嫌な予感しかしねぇよ。
「大丈夫だ、アタイの具現化は落としてある」
そう言うや否や、先輩はハイキックを俺の顔めがけて繰り出した!
「おわっ!?」
ばしん。
反応が間に合わずモロに側頭部にそれを喰らう。
・・・あれ? 痛くねぇ?
「はっ! やっ! たっ! とっ!」
ばしっ。だん。ばし。ずどん。
目にも止まらぬ四連撃。
側頭部への裏拳、首への地獄突き、脚へのローキックに腹へのソバット!
何が起こっているのか認識する間もなくすべてモロに喰らう俺。
「はっ!? えっ!?」
「武くん!?」
この身体強化が有効なのか、まったく痛みを感じないし押される感じもしない。
リアム君の悲鳴のおかげで平気なのに不安になってしまったくらいだ。
「お~! できてるね。素晴らしい!」
「タケシ、あんた平気なの!?」
凛花先輩が素直に褒めてくれた。
ジャンヌも打撃をモロに喰らった俺を心配してくれている。
傍目にも痛そうな攻撃だったのか。
それなのに平気すぎてかえってこそばゆい。
「あ、ああ。平気だな。これで出来てんのか・・・実感がねぇ」
初手で実現できたのって初めてじゃね?
素直に嬉しい。
「これで良いんだな」
「ああ。ただし、弱点がみっつある」
「弱点?」
「ひとつは常に魔力を流していないといけない。そうだな、ほら、走ってみろ」
「はい」
先輩に言われて俺はフィールドをいつも通り走り始める。
時速60kmくらいに達したときに先輩が並走してきた。
「今、魔力は脚に偏っている。この状態で打撃を喰らうとこうだ」
「え!?」
凛花先輩がさっきよりもゆっくりと突きを放ってきた。
それでも速いので俺は受けきれない。
ばしりと俺の胸部にクリーンヒットした。
「がっ!?」
突然の痛みに思考を奪われ脚がもつれる。
その速度のまま、俺はバランスを崩して宙に浮いた。
「おおっと!」
例により凛花先輩がお姫様抱っこで救出してくれた。
・・・有り難いんだけど恥ずかしいんだよ。
先輩はぱっと飛び上がってジャンヌとリアム君のところへ飛び降りる。
そこですとんと地面に降ろされた。
「すごーい! サーカスみたい!」
「あんた、いつもこんなことしてるの?」
「・・・いつもの練習風景だよ」
褒めてるのか貶されてるのかよくわからんのでそのまま答える俺。
こういうところを見せるためにやってるわけじゃねぇんだけどな。
「痛みは平気か?」
「ああ、手加減してくれたろ。ちょっと痛いくらいだ」
凛花先輩の気遣いに平気とアピールする。
この人、具現化しなくても格闘技の達人なんじゃね?
さっきの四連撃で恐ろしさを実感したよ。
「さっきのように脚を使ったりすると魔力の流れが偏る。すると他の部分が弱くなる」
「わかった。身体を動かすときは気をつける」
「次だ。これも似たような話だが、常に流し続けるのも限界がある。全身ならせいぜい3分だろう」
「そんなに魔力を消費するのか?」
「さっきだけで、先日の丹撃10発ぶんくらいになる」
「え!?」
丹撃は相当に魔力を消費する。
初練習のとき30回くらいやったけれど、あれで魔力切れで翌日が大変だった。
今の防御時間ってせいぜい1分だ。
「つまり、全力で防御するなら3分くらいってことか」
「そうだな。集魔法で誤魔化すか、硬くする部分を絞るかしかない」
「都合よくいくわけじゃねぇんだな」
うん、うまい話なんてないよな。
でも1分間でも無敵ってすげえよ。準備できるなら刃物も怖くない。
「みっつ目。これが最大の弱点だ。魔力を含む攻撃の場合、魔力が相殺される」
「は?」
「残った魔力勝負になる。だから具現化とぶつかると純粋な出力の差で決まる」
「ええ!? 具現化対策にはできねぇってこと!?」
歓迎会では先輩方の具現化を相手に闘うのだ。
出力勝負なんて言われると負ける気しかしねぇ。
「純粋に打ち合う部分の魔力が強ければ打ち勝てる。相手の魔力も削れるしな」
「えっと。防御して相手の魔力が尽きれば俺の勝ちと?」
「そうだ。けれど属性の相性や鋭さで一方的に押し負ける可能性もある」
「ええ」
結局、防御したほうがいいの? 避けたほうがいいの?
よくわからん。
「武。君の魔力量を生かすには、魔力を集中させたほうが有利なんだ」
「全身防御って、火に焼かれるみたいに全身に対する攻撃以外は使わねぇほうが良いってことか」
「そうそう。というわけで本題。今日はその集中させる練習だ」
「え?」
凛花先輩の説明が終わる。
なんか雰囲気がいつもの気安い感じになったからそうだとわかった。
だけどジャンヌとリアム君を手招きしてる時点で嫌な予感しかしねぇ。
昨日みたいに何かすんのか?
「見学のおふたりさん、待たせたね。これから武には腕を硬くしてもらう。そこを狙って攻撃してくれ」
「え!? いきなり武器で!?」
「緊張感のない練習なんて意味は無いぞ」
なにそのスパルタ方式!?
だって失敗したら俺の腕、吹き飛ぶんだぞ!?
「正面から突けば良いわけ?」
「ああ、先ずは見える攻撃からだ」
「ちょっと待って。槍はともかく銃弾なんて見えねぇぞ」
「狙いを宣言して貰えば良いだろう」
「・・・」
「武くん! 大丈夫だよ、僕、ちゃんと当てるからね!」
そこじゃねぇ!!
俺はまだ一般人なんだよ!
銃で撃たれるなんて死ぬイメージしかねぇんだよ!!
「まずはあたしからね。大丈夫よ、緩くやるから」
「ちょっと待って! まだ心構えが!」
「ほら準備しろ武。そのままだと腕が落ちるぞ」
相変わらず事態が勝手に進む。
やるしかねぇんだろ! やるよ!
・・・いったん、気を落ち着けて。
すう、くら、とん。集魔法を・・・って、いきなり空腹感が!?
うえ、さっきのでこんなに使ったのかよ。
3分の1だもんな、そりゃ足りねえよ。
「おい、誰が集魔法しろと言った。魔力を流すんだ」
「あ、ああ、ごめん。ええと・・・」
うーん、腕にだけ巡らせる?
どうやんだよ。丹撃だと腕から出ていくし、力が弱いと全身に巡るし。
「ねぇ、まだ? いくよ?」
「ちょっ、待・・・!?」
そんな俺を待ちきれないのかジャンヌが大振りで槍を振りかぶった。
やばい!! とにかく巡らせるんだ!
ぐっとお腹に力を入れて魔力を動かす!
がきぃぃん!
大上段から振り下ろされた斧槍が俺の腕に受け止められていた。
「できてんじゃん!」
「いや、これは・・・」
「武、それは全身だ。そのままだと魔力切れになるぞ」
「ほら、頑張りなさいよ!」
「ちょ、待てって!!」
俺の制止も虚しくジャンヌは槍を繰り出す。
その刃先を目で追うのが精一杯で受け止める手が追いつかない。
凛花先輩みたいに華麗に弾くこともできず、腕で何とか受け止めるだけ。
がきぃぃん! がきぃぃん!
金属音が鳴り響くたび、火花らしきものが俺の腕から飛び散る。
ああああ!!
こ、このままじゃ魔力が切れちまう!!
「僕もいくよー」
「だから待てって!!」
「おヘソのあたり狙うからね!」
リアム君の宣言に合わせジャンヌが飛び退く。
あれを喰らったら本気でやばい!!
宣言されたヘソのあたりを両腕で必死に庇う。
だぁーん! ぎいいぃぃぃん!
距離近ぇよ!
撃つ音と防ぐ音がほぼ同時に耳に入った。
何とか弾いたけど、銃なんて見て防げるわけねぇだろ!!
「ほら、もう後が無さそうだぞ?」
「え?」
「余所見は駄目ね!」
凛花先輩の忠告に意識を奪われたところにジャンヌの突きが迫る。
「おわっ!?」
がきぃぃん!
何とか腕で受ける。
と、今まで平気だった腕に刃物を突き刺したような刺激が走る。
「痛ってええぇ!!」
「え?」
激しい痛みに俺は驚く。
え!? どうして痛いの!?
腕が切れた!!?
ジャンヌも驚いて手を止める。
俺も驚いて痛む腕を見る。
良かった、切断されたり血が出たりしてるわけじゃない。
どうして痛いの!?
「魔力切れだな。おい武、できるなら集魔法しろ」
「はっ・・・え・・・?」
「武くん!?」
予想外の腕の痛みに気を取られていて。
俺は自身が目眩を起こしていることに気付かなかった。
周囲の景色が流れて横になる頃に俺は意識を手放していた。
◇
目を覚ますとそこは見知った保健室の天井だった。
夜なので窓は暗く室内灯の明かりが煌々としていた。
「う・・・」
「起きた? まったく、だらしがないわね!」
その声はジャンヌか。
寝起きに罵倒されるなんて初めての経験だぜ。
ぼうっとした頭が急速に状況を把握していく。
そうか、魔力切れで失神したのか。
初めての経験だ。
「すまん。迷惑をかけた」
「身体は平気? 腕に違和感はない?」
「ん、大丈夫そうだ」
矢継ぎ心配そうな表情で早にあれこれ聞いてくる。
言われて腕の痛みを思い出す。
そっか、そこで魔力切れになったんだもんな。
念のため腕に触れてみるが痛みはない。
「そう、良かった」
「ずっと診ててくれたのか? ありがとな」
「あ、あたしが付き添いの日だから仕方なくよ!」
礼を言うとちょっとツンデレ風味になった。
なんだ、ちゃんと原作っぽい雰囲気の仕草するじゃないか。
その可愛さにある意味、安心しちまったよ。
「はは、そうだな。頼りにしてるよ」
「次から心配しないわよ!?」
「ああ、気をつける」
ん。ジャンヌらしさだ。
ほんと、どうして俺との手合わせの話の時だけおかしな雰囲気になるんだろう。
何か俺の知らない話があるとしか思えん。そっちを気をつけよう。
少しくらくらするのでベッドでそのまま待機していた俺。
すると保健室のドアががちゃりと開いてリアム君が現れた。
「あ、武くん! 気が付いたんだ、良かった!」
「ああ、すまねぇな」
素直に謝っておく。
彼の手には食堂のトレーがあった。
「それは?」
「武くんのごはんだよ。もうすぐオーダーストップだから」
「え!?」
時間を見ると20時前だ。
うへ、魔力切れってけっこうヤバいんだな。
3時間近く気を失ってたのか。
「そこまで気を遣ってくれてありがとう。助かるよ」
「うん、食べて食べて。早く元気になろう!」
俺は有り難くトレーを受け取る。
メニューは豚骨ラーメン。何故?
寝起きで食べるもんじゃなくね? こってり系だよ?
もしかしてリアム君の好みで持ってきた?
「あ、ああ。ありがとう」
「い、いいニオイね・・・」
「うん! 美味しそうだよね!」
ジャンヌがジト目でラーメンを見ている。
珍しく同意見だな、俺もそう思うよ!
保健室にラーメン臭が充満していく。
くそ、早く食べるしかねぇだろ。
箸を持っていただきます、と俺はラーメンを啜った。
うん・・・豚骨だよ。こってり。
美味いんだけどさ、ちょっと重い感じ。
寝起きに何とも言えない気分になる。
「ふたりはもう食べたのか?」
「ええ、心配ないわ。リアムと交代で食べたから」
「僕は黑米粥を食べたよ!」
リアム君、それ中華粥。
そっちが良かったな。
食べ終わる頃には立てるくらいに回復した俺。
平気だというのに、ふたりにはいたく心配されてしまった。
こんな時間まで付き合ってくれたことに改めて礼を言って解散した。
はぁ。今日明日でどうにかなるの? この訓練。
寝る前に集気法をしっかりやっておかねぇと。
俺はできる予感がしないことに不安を抱えたまま夜を過ごすことになった。
どうせ拒否権なんてない。
今日まで凛花先輩の課題は無茶振りだったんだから今更だ。
死にかけてもきっと何とかなる(他力本願)。
凛花先輩は全身に疑似化をかけてくれたが、まずは腕からと指示を出す。
いつも通りなんだけどこの後のことを考えると怖さしかねぇ!
「武、よく聞け。擬似化は装置だ。そこに魔力を流してはじめて作動する。脚を動かすときは無意識に力を入れるように魔力を流し動作させている。これは身体の気脈がそうなっているからだ」
「はぁ」
「けれども顔や胴といった能動的に動かせない部分は意識をして魔力を流さないと効果が出ない。受ける場所を強く意識して魔力を流すんだ」
いつになく丁寧に指導してくれる凛花先輩。
え? 気安い感じじゃないとかえって怖ぇんだけど。
どうしていきなりそんな真面目モードなの?
「意識って、力を入れりゃ良いわけじゃねぇよな」
「部分的に魔力を流すことになる。特にさっきみたいに武器を防ぐならそれなりに流さないと駄目だ」
そもそも部分的に流すなんてどうやんのよ。
お腹に集めて上にぐいってやつしか出来ねぇのに。
「それ、全身に流しちゃ駄目なのか?」
「効果が薄くなるし魔力消費も多くなる。が、君ならそれでも何とかなるかな」
「全身になら流せると思うから」
「なるほど。ではやってみてくれ」
凛花先輩が様子を見ている。
さてこの状態で集魔法だ。
すう、くら、とん。
力を入れて・・・。
ぐっ・・・目眩が。ん、何とか耐えた。
慣れてきたな、これも。
全身に熱が回ったことを確認して身体を見る。
うん、ぼうっと身体が光ってるな。大丈夫そう。
「これでどうだ?」
「試してみよう。そこに立ってみろ」
「ここ?」
俺が棒立ちすると凛花先輩が俺の前までやってきた。
腰を落として・・・構えてますね。
嫌な予感しかしねぇよ。
「大丈夫だ、アタイの具現化は落としてある」
そう言うや否や、先輩はハイキックを俺の顔めがけて繰り出した!
「おわっ!?」
ばしん。
反応が間に合わずモロに側頭部にそれを喰らう。
・・・あれ? 痛くねぇ?
「はっ! やっ! たっ! とっ!」
ばしっ。だん。ばし。ずどん。
目にも止まらぬ四連撃。
側頭部への裏拳、首への地獄突き、脚へのローキックに腹へのソバット!
何が起こっているのか認識する間もなくすべてモロに喰らう俺。
「はっ!? えっ!?」
「武くん!?」
この身体強化が有効なのか、まったく痛みを感じないし押される感じもしない。
リアム君の悲鳴のおかげで平気なのに不安になってしまったくらいだ。
「お~! できてるね。素晴らしい!」
「タケシ、あんた平気なの!?」
凛花先輩が素直に褒めてくれた。
ジャンヌも打撃をモロに喰らった俺を心配してくれている。
傍目にも痛そうな攻撃だったのか。
それなのに平気すぎてかえってこそばゆい。
「あ、ああ。平気だな。これで出来てんのか・・・実感がねぇ」
初手で実現できたのって初めてじゃね?
素直に嬉しい。
「これで良いんだな」
「ああ。ただし、弱点がみっつある」
「弱点?」
「ひとつは常に魔力を流していないといけない。そうだな、ほら、走ってみろ」
「はい」
先輩に言われて俺はフィールドをいつも通り走り始める。
時速60kmくらいに達したときに先輩が並走してきた。
「今、魔力は脚に偏っている。この状態で打撃を喰らうとこうだ」
「え!?」
凛花先輩がさっきよりもゆっくりと突きを放ってきた。
それでも速いので俺は受けきれない。
ばしりと俺の胸部にクリーンヒットした。
「がっ!?」
突然の痛みに思考を奪われ脚がもつれる。
その速度のまま、俺はバランスを崩して宙に浮いた。
「おおっと!」
例により凛花先輩がお姫様抱っこで救出してくれた。
・・・有り難いんだけど恥ずかしいんだよ。
先輩はぱっと飛び上がってジャンヌとリアム君のところへ飛び降りる。
そこですとんと地面に降ろされた。
「すごーい! サーカスみたい!」
「あんた、いつもこんなことしてるの?」
「・・・いつもの練習風景だよ」
褒めてるのか貶されてるのかよくわからんのでそのまま答える俺。
こういうところを見せるためにやってるわけじゃねぇんだけどな。
「痛みは平気か?」
「ああ、手加減してくれたろ。ちょっと痛いくらいだ」
凛花先輩の気遣いに平気とアピールする。
この人、具現化しなくても格闘技の達人なんじゃね?
さっきの四連撃で恐ろしさを実感したよ。
「さっきのように脚を使ったりすると魔力の流れが偏る。すると他の部分が弱くなる」
「わかった。身体を動かすときは気をつける」
「次だ。これも似たような話だが、常に流し続けるのも限界がある。全身ならせいぜい3分だろう」
「そんなに魔力を消費するのか?」
「さっきだけで、先日の丹撃10発ぶんくらいになる」
「え!?」
丹撃は相当に魔力を消費する。
初練習のとき30回くらいやったけれど、あれで魔力切れで翌日が大変だった。
今の防御時間ってせいぜい1分だ。
「つまり、全力で防御するなら3分くらいってことか」
「そうだな。集魔法で誤魔化すか、硬くする部分を絞るかしかない」
「都合よくいくわけじゃねぇんだな」
うん、うまい話なんてないよな。
でも1分間でも無敵ってすげえよ。準備できるなら刃物も怖くない。
「みっつ目。これが最大の弱点だ。魔力を含む攻撃の場合、魔力が相殺される」
「は?」
「残った魔力勝負になる。だから具現化とぶつかると純粋な出力の差で決まる」
「ええ!? 具現化対策にはできねぇってこと!?」
歓迎会では先輩方の具現化を相手に闘うのだ。
出力勝負なんて言われると負ける気しかしねぇ。
「純粋に打ち合う部分の魔力が強ければ打ち勝てる。相手の魔力も削れるしな」
「えっと。防御して相手の魔力が尽きれば俺の勝ちと?」
「そうだ。けれど属性の相性や鋭さで一方的に押し負ける可能性もある」
「ええ」
結局、防御したほうがいいの? 避けたほうがいいの?
よくわからん。
「武。君の魔力量を生かすには、魔力を集中させたほうが有利なんだ」
「全身防御って、火に焼かれるみたいに全身に対する攻撃以外は使わねぇほうが良いってことか」
「そうそう。というわけで本題。今日はその集中させる練習だ」
「え?」
凛花先輩の説明が終わる。
なんか雰囲気がいつもの気安い感じになったからそうだとわかった。
だけどジャンヌとリアム君を手招きしてる時点で嫌な予感しかしねぇ。
昨日みたいに何かすんのか?
「見学のおふたりさん、待たせたね。これから武には腕を硬くしてもらう。そこを狙って攻撃してくれ」
「え!? いきなり武器で!?」
「緊張感のない練習なんて意味は無いぞ」
なにそのスパルタ方式!?
だって失敗したら俺の腕、吹き飛ぶんだぞ!?
「正面から突けば良いわけ?」
「ああ、先ずは見える攻撃からだ」
「ちょっと待って。槍はともかく銃弾なんて見えねぇぞ」
「狙いを宣言して貰えば良いだろう」
「・・・」
「武くん! 大丈夫だよ、僕、ちゃんと当てるからね!」
そこじゃねぇ!!
俺はまだ一般人なんだよ!
銃で撃たれるなんて死ぬイメージしかねぇんだよ!!
「まずはあたしからね。大丈夫よ、緩くやるから」
「ちょっと待って! まだ心構えが!」
「ほら準備しろ武。そのままだと腕が落ちるぞ」
相変わらず事態が勝手に進む。
やるしかねぇんだろ! やるよ!
・・・いったん、気を落ち着けて。
すう、くら、とん。集魔法を・・・って、いきなり空腹感が!?
うえ、さっきのでこんなに使ったのかよ。
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「おい、誰が集魔法しろと言った。魔力を流すんだ」
「あ、ああ、ごめん。ええと・・・」
うーん、腕にだけ巡らせる?
どうやんだよ。丹撃だと腕から出ていくし、力が弱いと全身に巡るし。
「ねぇ、まだ? いくよ?」
「ちょっ、待・・・!?」
そんな俺を待ちきれないのかジャンヌが大振りで槍を振りかぶった。
やばい!! とにかく巡らせるんだ!
ぐっとお腹に力を入れて魔力を動かす!
がきぃぃん!
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「できてんじゃん!」
「いや、これは・・・」
「武、それは全身だ。そのままだと魔力切れになるぞ」
「ほら、頑張りなさいよ!」
「ちょ、待てって!!」
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がきぃぃん! がきぃぃん!
金属音が鳴り響くたび、火花らしきものが俺の腕から飛び散る。
ああああ!!
こ、このままじゃ魔力が切れちまう!!
「僕もいくよー」
「だから待てって!!」
「おヘソのあたり狙うからね!」
リアム君の宣言に合わせジャンヌが飛び退く。
あれを喰らったら本気でやばい!!
宣言されたヘソのあたりを両腕で必死に庇う。
だぁーん! ぎいいぃぃぃん!
距離近ぇよ!
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「え?」
「余所見は駄目ね!」
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「おわっ!?」
がきぃぃん!
何とか腕で受ける。
と、今まで平気だった腕に刃物を突き刺したような刺激が走る。
「痛ってええぇ!!」
「え?」
激しい痛みに俺は驚く。
え!? どうして痛いの!?
腕が切れた!!?
ジャンヌも驚いて手を止める。
俺も驚いて痛む腕を見る。
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どうして痛いの!?
「魔力切れだな。おい武、できるなら集魔法しろ」
「はっ・・・え・・・?」
「武くん!?」
予想外の腕の痛みに気を取られていて。
俺は自身が目眩を起こしていることに気付かなかった。
周囲の景色が流れて横になる頃に俺は意識を手放していた。
◇
目を覚ますとそこは見知った保健室の天井だった。
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「う・・・」
「起きた? まったく、だらしがないわね!」
その声はジャンヌか。
寝起きに罵倒されるなんて初めての経験だぜ。
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そうか、魔力切れで失神したのか。
初めての経験だ。
「すまん。迷惑をかけた」
「身体は平気? 腕に違和感はない?」
「ん、大丈夫そうだ」
矢継ぎ心配そうな表情で早にあれこれ聞いてくる。
言われて腕の痛みを思い出す。
そっか、そこで魔力切れになったんだもんな。
念のため腕に触れてみるが痛みはない。
「そう、良かった」
「ずっと診ててくれたのか? ありがとな」
「あ、あたしが付き添いの日だから仕方なくよ!」
礼を言うとちょっとツンデレ風味になった。
なんだ、ちゃんと原作っぽい雰囲気の仕草するじゃないか。
その可愛さにある意味、安心しちまったよ。
「はは、そうだな。頼りにしてるよ」
「次から心配しないわよ!?」
「ああ、気をつける」
ん。ジャンヌらしさだ。
ほんと、どうして俺との手合わせの話の時だけおかしな雰囲気になるんだろう。
何か俺の知らない話があるとしか思えん。そっちを気をつけよう。
少しくらくらするのでベッドでそのまま待機していた俺。
すると保健室のドアががちゃりと開いてリアム君が現れた。
「あ、武くん! 気が付いたんだ、良かった!」
「ああ、すまねぇな」
素直に謝っておく。
彼の手には食堂のトレーがあった。
「それは?」
「武くんのごはんだよ。もうすぐオーダーストップだから」
「え!?」
時間を見ると20時前だ。
うへ、魔力切れってけっこうヤバいんだな。
3時間近く気を失ってたのか。
「そこまで気を遣ってくれてありがとう。助かるよ」
「うん、食べて食べて。早く元気になろう!」
俺は有り難くトレーを受け取る。
メニューは豚骨ラーメン。何故?
寝起きで食べるもんじゃなくね? こってり系だよ?
もしかしてリアム君の好みで持ってきた?
「あ、ああ。ありがとう」
「い、いいニオイね・・・」
「うん! 美味しそうだよね!」
ジャンヌがジト目でラーメンを見ている。
珍しく同意見だな、俺もそう思うよ!
保健室にラーメン臭が充満していく。
くそ、早く食べるしかねぇだろ。
箸を持っていただきます、と俺はラーメンを啜った。
うん・・・豚骨だよ。こってり。
美味いんだけどさ、ちょっと重い感じ。
寝起きに何とも言えない気分になる。
「ふたりはもう食べたのか?」
「ええ、心配ないわ。リアムと交代で食べたから」
「僕は黑米粥を食べたよ!」
リアム君、それ中華粥。
そっちが良かったな。
食べ終わる頃には立てるくらいに回復した俺。
平気だというのに、ふたりにはいたく心配されてしまった。
こんな時間まで付き合ってくれたことに改めて礼を言って解散した。
はぁ。今日明日でどうにかなるの? この訓練。
寝る前に集気法をしっかりやっておかねぇと。
俺はできる予感がしないことに不安を抱えたまま夜を過ごすことになった。
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