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第3章 到達! 滴穿の戴天
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■■小鳥遊 美晴 ’s View■■
気付くと知らない天井。
こんなの初めて。
ここはどこ?
知らぬ間にベッドに寝かされていた。
保健室みたい。
静かな空間だった。
静寂に混じってすーすーと誰かの寝息が聞こえる。
え? 誰?
「ん・・・みーちゃん・・・」
「響ちゃん・・・?」
私が寝ているベッドに突っ伏して響ちゃんが寝ていた。
えっと・・・。
そっか、ここは高天原学園だ。
大先輩に誘われて先輩に会いに来て・・・七試練を頑張って・・・。
「!」
そうだ、私。あの黒い装置で覚醒しようとして。
そのまま気を失っちゃったんだ・・・。
一緒に来てくれた響ちゃんにも悪いことしちゃった。
・・・。
・・・はぁ。
めちゃくちゃにしちゃったんだろうな。
先輩にも酷い姿を見せちゃった。
誰が見ても嫉妬して我儘な子供だったもん。
あんなの幻滅されちゃう。
先輩・・・。
・・・。
・・・。
もう、お終いなんだ。
そう考えると目頭が熱くなってきた。
喉の奥がつかえて視界がじわりと歪んで。
「う・・・う・・・」
駄目、響ちゃんが起きちゃう。
ずっと付き添ってくれて疲れてるのに。
私は必死に声を押し殺した。
身体だけが泣こうとしてびくびくと跳ねる。
先輩・・・。
私、私・・・。
こんなに好きなのに・・・。
好きだってようやく言えたのに・・・!
・・・。
・・・。
◇
・・・。
・・・。
何とか落ち着いた。
きっと目が赤くなっちゃってるけど。
少しすれば戻る。
響ちゃんは気持ちよさそうに眠ったまま。
どれだけ疲れちゃったんだろ?
このまましばらく寝かしておいてあげたい。
えっと・・・今は何時だろう。
窓の外は明るい。
う~ん? あのとき、午後だったよね?
ずいぶんと寝た感じがする。
感覚的には真夜中。
おかしいなぁ。
身体を起こす。
何だか酔っているみたいにくらくらする。
でも・・・うん、動ける。
部屋を見渡す。
桜坂中学の保健室と雰囲気は似てる。
かなり広い保健室だ。きっと怪我人も多いんだろう。
私は起き上がってベッドから降りた。
PEが傍に置いてあったので身に着けた。
そして私宛の連絡と日時を確認する。
「・・・うそ」
今は次の日の午前中だった。
昨晩、何件かお母さんからの連絡が来ている。
そりゃそうだよね、帰って来なくて連絡がないなら。
でもきっと響ちゃんが何とかしてくれてる。
失踪したわけじゃないんだし。
外の様子を見てすぐ戻って来るとして。
確か、今日もお祭りが続いてるんだよね。
先輩には顔を合わせられないけど、折角だしもう少し見学していこう。
この学園、閉鎖的でなかなか入る機会が無いって言うし。
昨日は落ち着いて見る時間もなかったから。
私は保健室を後にした。
廊下を歩くと誰も居ない。
学園祭なのに寂しい。どうしてだろう?
すぐに出口があったので屋外へ出た。
空は晴れていて眩しい。気持ちの良い秋晴れだ。
目の前に学園広場があった。
昨日、屋台で頑張った広場。
そこはお祭りが続いていて、昨日みたいに人がたくさんいた。
あ、ここ。事務棟だ。
昨日、地図と睨めっこしてたから覚えていた。
学園祭の最中に事務棟に人は来ないよね。
学園広場の屋台は今日も盛況だった。
昨日、私たちが頑張ったエクスグランドも繁盛している。
――試合会場へ持ち込みもできるよ!
そんな売り文句をあちこちで叫んでいた。
そっか、昨日はあれから闘神祭の予選があって。
今日が決勝戦なんだっけ。
・・・先輩、出場するのかな?
ソフィアさんたちもきっと闘ってる。
・・・具現化、かぁ。
昨日の腕輪でも碌な結果じゃなかったから。
きっと私は才能の破片もない。
ずっとコンプレックスだったAR値。
具現化なんて言葉も嫌いだった。
でも具現化研究同好会に入ってから、先輩と出会って。
先輩と過ごす共通項に「具現化」があった。
だから今、私はここにいる。
うん・・・そうだよね。
先輩やソフィアさんの具現化を見に行こう。
私が知らない、見たことがない先輩を見よう。
もう私が届かないところまで行ってる先輩を。
最後に先輩の力を見ておこう。
そうすれば先輩は手の届かない、別の世界の人だって納得できる気がする。
昨日、私の気持ちは伝えたんだ。
先輩からのアプローチはもう無いだろうし。
これで踏ん切りがつけば良いの。
私は自分にそう言い聞かせた。
あの体育館で先輩の試合を見るんだ。
うん、響ちゃんを誘って早く行こう!
・・・っと。その前に。
「買わなきゃ損だよね!」
私はじゅうじゅうと美味しそうな音を出している屋台に並んだ。
お目当ては・・・たこ焼きに焼きそば、それにたい焼き!
ふたり分を買って袋に入れる。
やたら良い匂いがしてくるんだもん。
お腹がぐぅぐぅと主張していたから我慢できない!
◇
珍しい屋台で買い物ができた。
ウキウキになっていた私。
手に持つ袋から芳醇な匂いが漂っていた。
そして少し冷静になって思う。
あれ、この匂い。邪魔に思われないかな?
あ、でも・・・みんな会場で食べてるんだから平気平気!
私はそのまま事務棟に入り保健室へ戻ろうとした。
すると人がいないはずの廊下を誰かが歩いて来る音がした。
部外者が、誰も居ないはずの事務棟に居る。
勝手に進入禁止の場所に入っているような気がしてきて後ろめたく思えた。
見つかったら怒られちゃう!
何故かそう思ってしまった。
だから慌ててその誰かに気付かれないよう、階段室の壁に姿を隠してしまった。
・・・足音はふたつ。
こっちに来る!?
どうして隠れちゃったんだろ、私。
今更のこのこと出ていくと不自然すぎる。
とにかくやり過ごさないと。
ええと、もっと姿を隠す場所は・・・あそこ!
私は非常扉の出っ張り部分に身体をひっつけた。
向こうから歩いてくるぶんには振り向かなきゃ見えないはず。
かつん、かつん。
かっ、かっ。
ふたつの足音がだんだんと近付く。
息を止めて気配を殺す私。
「――それで、首尾はどうなったのだ?」
「すでに手配済みよ。午後にはいつでも突入できる」
男女の会話。
・・・突入?
え? 何の話?
男の人の声は何だか聞いたことがあるような。
「ちっ、吾輩が身を喰らう蛇の傀儡のふりをするなど」
「白色人種の旗印であるおふた方を救うには、彼らの力を利用するのが一番早いと判断したのはゲルオク、貴方よ」
「わかっておる。最後にこの封印の揺籠でまとめて殲滅すれば何も残らぬからな」
・・・。
この声。昨日、私の肩に手を置いた人・・・?
ふたりが何の話をしているのかはわからないけれど。
とても不穏な、物騒な会話であることだけはわかった。
「それにしてもあの女に勘付かれるとはな。何人か割り込ませたのだろう?」
「ええ、そのための辺鄙な極東支部だから。少しぐらいの犠牲を出しても役立ってもらわないと」
犠牲・・・?
何の話・・・?
怖い、怖い!
これ、見つかったら絶対にまずい。
「ゲルオク、試合で力を使いすぎないでよ? 起動に支障を来たすから」
「レベッカ、そなたもだ。煽られてムキにならぬよう」
「その言葉、そっくりお返しするわ」
ふたりが私の横を通り過ぎる。
後ろ姿が遠ざかっていく。
早く、そのまま角を曲がって!
手足が緊張で震えていた。
でも絶対、声を出しちゃ駄目!
息は止めたまま!
「・・・む?」
「・・・どうかした?」
「!!!」
ゲルオクと呼ばれた男の人が立ち止まった。
駄目、気付かれた!?
きょろきょろと左右を見渡してる。
・・・お願い、こっち見ないで!
「・・・レベッカ、腹が空かないか」
「ああ、屋台の匂いね。この辺鄙な島、昔から料理だけは美味しいのよ」
「ほう。ここまで漂ってくるのか。こうも吾輩の食欲を唆るとは」
「午後から長いから何か食べておきましょ」
「うむ、『ヤキソバ』なる炒め麺を試してみたい」
・・・。
・・・。
その男女ふたりはどうにか去っていった。
・・・。
・・・。
「よ、良かったぁ」
危なかった・・・。
私はその場にへなへなと座り込んだ。
気が抜けたら全身の力も抜けてしまった。
「あ~、みっけ」
「ひゃい!?」
いきなり隣から声がした。
私は心臓ごと飛び上がってしまった。
「きょ、響ちゃん!」
「駄目だぜ~、そんな調子悪ぃのに歩いちゃ~」
「お、驚かせないでよ・・・」
「驚いたのはあたし。起きたら居ねーんだもん」
「ごめんって」
良かった、見つかったのが響ちゃんで。
びっくりして立ち上がったはずの私はまた脚の力が抜けてへたり込んでしまった。
◇
高天原の体育館。
『闘神祭 決勝戦』と大きな筆字の垂れ幕が中央にぶら下がっていた。
ああいうホンモノに力(お金)を使うところが高天原のすごいところだ。
でももっと驚くのはこの体育館。
新東京のネオ・ビッグサイト顔負けの広さ。
試合のための舞台も数カ所あって、それぞれに仮設座席が作られている。
こんな大掛かりな設営、国際スポーツ祭典じゃないと見ないよ。
「あ~、あったよ、対戦表」
「えっと・・・先輩の名前はある?」
「ん~・・・あ、あった」
「やった、良かった!」
人がたくさんいた。
圧倒されて試合前に着席できないかと思ったくらいだ。
ちっこい私は頑張ってその中を進んでいった。
ふたりで見た電子掲示板。
『フツヌシの部』と表示された対戦表の片隅に・・・あった!
――高天原学園3年 ヤン リンファ
――高天原学園1年 キョウゴク タケシ
先輩の名前だ!
良かった、試合を見られる。
凛花さんって、あのスタッフの人かな?
先輩と組むなんて・・・とてもすごい人なんだろうか。
「むっつり先輩、むっつりなのにすげぇよな。これ、国際試合だぜ~」
「ほんとだ」
「朴念仁なのに出場できんのか~」
朴念仁って。
珍しいな、響ちゃんが先輩のことディスるなんて。
他の対戦相手を見ていくと様々な所属の人がいることがわかる。
――キャメロット2年 ゲルオク=フォン=リウドルフィング
――キャメロット1年 レベッカ=グレンヴィル
ゲルオクって、もしかしてさっきの『吾輩』の人?
あの人も試合に出るんだ。
そっか、試合だから来てるんだよね。
キャメロットの学生だったんだ。
何だか企んでいそうな雰囲気だったから・・・大丈夫かな、先輩。
――トゥラン2年 フェルナンド=ロドリゲス
――トゥラン1年 エラ=アンダーソン
こっちはトゥランの人だ。
名前だけじゃわからないけど、わざわざ日本まで来てるんだ。
間違いなく強い人たちだと思う。
ほかにも世界政府直轄軍、世界戦線中東軍。
この人たちなんて軍人じゃないの?
この学園、噂に違わず武闘派だ。
昨日の七試練もそんな感じがしたからなぁ。
何となく、他に知っている人がいるかと見ていくと・・・。
「あ!?」
――高天原学園1年 レオン=アインホルン
――高天原学園1年 ソフィア=クロフォード
レオンさんとソフィアさん!
あのふたりも出場するんだ。
先輩とは反対側だから、もし勝ち進んでも決勝まで当たらない。
よかった、応援したい人同士がすぐにぶつからなくて。
「あ~、あのふたりだねぇ。見た目だけじゃなく実力もあんだな~」
天は二物を与えず、なんて言うけれど。
あのふたりは二物どころか三も四も与えられていると思う。
きっとこのトーナメントの中でも活躍するんだろうなぁ。
「みーちゃん、あそこ、空いてんぜ」
「うん、行こう」
私たちは隅っこの空いている席を見つけて陣取った。
人はたくさんいるけれど、それ以上に座席が用意されている。
だから席に困ることはなかった。
「ほら、焼きそば買ってきたんだ」
「やったー、さっきから良い匂いがすると思ったんだ~」
「ふふ、ふたり分あるから。一緒に食べよ」
試合が始まるまであと10分。
客席もだんだんと埋まってきていて、あちこちに食事をする人がいた。
ちょうどお昼だもんね、皆、屋台物を食べている。
私たちも焼きそばに手を付けた。
「あー、美味いね~」
「うん、美味しい」
昨日の夜から何も食べていなかった。
きっと響ちゃんもそうだ。
焼きそばはとても美味しくて、気付けばすぐに無くなっていた。
「ね、響ちゃん」
「うん?」
「昨日、あれからどうなったのか聞いても良い?」
「あ~。寝てたもんな。い~ぜ、時間もあるから話すよ」
そうして私は響ちゃんに、気を失ってからの話を聞いた。
私がゲルオクさんに何かされて気を失ったこと。
ゲルオクさんとレベッカさんのこと。
そして先輩が・・・怒ってくれていたこと。
先輩と・・・終わってなかった?
・・・。
・・・。
ううん、やっぱり駄目だよ。
本気で心配してるなら保健室の私のところに顔を出してるはずだし。
きっと私じゃなくて、橘先輩や御子柴先輩が同じようになっても同じことをしてる。
先輩ならそのほうが自然だ。
だからこの行動は先輩の正義感でやってることで、義務の範疇。
素敵だけど私だけのためじゃない。
自惚れないようにしなきゃ。
「あ~、それよりさー。みーちゃんのおねーさんがものすげー心配してたよ」
「え!? お姉ちゃんが!?」
「うん、帰ったら謝っとかねーと」
「わかった、ありがと」
そう。お母さんやお姉ちゃんにも迷惑かけちゃった。
ダメダメだなぁ、私。
「連絡、響ちゃんがしてくれたんだよね? ありがと」
「いいって。みーちゃんが何ともなかったのが良かった」
「えへ、心配もしてくれてありがと!」
「うん~」
あ、響ちゃんがそっぽ向いた。
少し耳が赤くなってるからきっと照れてる。
こうしてたまに見せてくれる照れた顔が可愛いんだ。
そうして昨日の話をあらかた聞き終えたところで開始のアナウンスが入った。
昨日、観られなかったぶん、しっかり観て応援しよう。
私は気合を入れて、第1試合が始まらんとしている舞台に注視した。
気付くと知らない天井。
こんなの初めて。
ここはどこ?
知らぬ間にベッドに寝かされていた。
保健室みたい。
静かな空間だった。
静寂に混じってすーすーと誰かの寝息が聞こえる。
え? 誰?
「ん・・・みーちゃん・・・」
「響ちゃん・・・?」
私が寝ているベッドに突っ伏して響ちゃんが寝ていた。
えっと・・・。
そっか、ここは高天原学園だ。
大先輩に誘われて先輩に会いに来て・・・七試練を頑張って・・・。
「!」
そうだ、私。あの黒い装置で覚醒しようとして。
そのまま気を失っちゃったんだ・・・。
一緒に来てくれた響ちゃんにも悪いことしちゃった。
・・・。
・・・はぁ。
めちゃくちゃにしちゃったんだろうな。
先輩にも酷い姿を見せちゃった。
誰が見ても嫉妬して我儘な子供だったもん。
あんなの幻滅されちゃう。
先輩・・・。
・・・。
・・・。
もう、お終いなんだ。
そう考えると目頭が熱くなってきた。
喉の奥がつかえて視界がじわりと歪んで。
「う・・・う・・・」
駄目、響ちゃんが起きちゃう。
ずっと付き添ってくれて疲れてるのに。
私は必死に声を押し殺した。
身体だけが泣こうとしてびくびくと跳ねる。
先輩・・・。
私、私・・・。
こんなに好きなのに・・・。
好きだってようやく言えたのに・・・!
・・・。
・・・。
◇
・・・。
・・・。
何とか落ち着いた。
きっと目が赤くなっちゃってるけど。
少しすれば戻る。
響ちゃんは気持ちよさそうに眠ったまま。
どれだけ疲れちゃったんだろ?
このまましばらく寝かしておいてあげたい。
えっと・・・今は何時だろう。
窓の外は明るい。
う~ん? あのとき、午後だったよね?
ずいぶんと寝た感じがする。
感覚的には真夜中。
おかしいなぁ。
身体を起こす。
何だか酔っているみたいにくらくらする。
でも・・・うん、動ける。
部屋を見渡す。
桜坂中学の保健室と雰囲気は似てる。
かなり広い保健室だ。きっと怪我人も多いんだろう。
私は起き上がってベッドから降りた。
PEが傍に置いてあったので身に着けた。
そして私宛の連絡と日時を確認する。
「・・・うそ」
今は次の日の午前中だった。
昨晩、何件かお母さんからの連絡が来ている。
そりゃそうだよね、帰って来なくて連絡がないなら。
でもきっと響ちゃんが何とかしてくれてる。
失踪したわけじゃないんだし。
外の様子を見てすぐ戻って来るとして。
確か、今日もお祭りが続いてるんだよね。
先輩には顔を合わせられないけど、折角だしもう少し見学していこう。
この学園、閉鎖的でなかなか入る機会が無いって言うし。
昨日は落ち着いて見る時間もなかったから。
私は保健室を後にした。
廊下を歩くと誰も居ない。
学園祭なのに寂しい。どうしてだろう?
すぐに出口があったので屋外へ出た。
空は晴れていて眩しい。気持ちの良い秋晴れだ。
目の前に学園広場があった。
昨日、屋台で頑張った広場。
そこはお祭りが続いていて、昨日みたいに人がたくさんいた。
あ、ここ。事務棟だ。
昨日、地図と睨めっこしてたから覚えていた。
学園祭の最中に事務棟に人は来ないよね。
学園広場の屋台は今日も盛況だった。
昨日、私たちが頑張ったエクスグランドも繁盛している。
――試合会場へ持ち込みもできるよ!
そんな売り文句をあちこちで叫んでいた。
そっか、昨日はあれから闘神祭の予選があって。
今日が決勝戦なんだっけ。
・・・先輩、出場するのかな?
ソフィアさんたちもきっと闘ってる。
・・・具現化、かぁ。
昨日の腕輪でも碌な結果じゃなかったから。
きっと私は才能の破片もない。
ずっとコンプレックスだったAR値。
具現化なんて言葉も嫌いだった。
でも具現化研究同好会に入ってから、先輩と出会って。
先輩と過ごす共通項に「具現化」があった。
だから今、私はここにいる。
うん・・・そうだよね。
先輩やソフィアさんの具現化を見に行こう。
私が知らない、見たことがない先輩を見よう。
もう私が届かないところまで行ってる先輩を。
最後に先輩の力を見ておこう。
そうすれば先輩は手の届かない、別の世界の人だって納得できる気がする。
昨日、私の気持ちは伝えたんだ。
先輩からのアプローチはもう無いだろうし。
これで踏ん切りがつけば良いの。
私は自分にそう言い聞かせた。
あの体育館で先輩の試合を見るんだ。
うん、響ちゃんを誘って早く行こう!
・・・っと。その前に。
「買わなきゃ損だよね!」
私はじゅうじゅうと美味しそうな音を出している屋台に並んだ。
お目当ては・・・たこ焼きに焼きそば、それにたい焼き!
ふたり分を買って袋に入れる。
やたら良い匂いがしてくるんだもん。
お腹がぐぅぐぅと主張していたから我慢できない!
◇
珍しい屋台で買い物ができた。
ウキウキになっていた私。
手に持つ袋から芳醇な匂いが漂っていた。
そして少し冷静になって思う。
あれ、この匂い。邪魔に思われないかな?
あ、でも・・・みんな会場で食べてるんだから平気平気!
私はそのまま事務棟に入り保健室へ戻ろうとした。
すると人がいないはずの廊下を誰かが歩いて来る音がした。
部外者が、誰も居ないはずの事務棟に居る。
勝手に進入禁止の場所に入っているような気がしてきて後ろめたく思えた。
見つかったら怒られちゃう!
何故かそう思ってしまった。
だから慌ててその誰かに気付かれないよう、階段室の壁に姿を隠してしまった。
・・・足音はふたつ。
こっちに来る!?
どうして隠れちゃったんだろ、私。
今更のこのこと出ていくと不自然すぎる。
とにかくやり過ごさないと。
ええと、もっと姿を隠す場所は・・・あそこ!
私は非常扉の出っ張り部分に身体をひっつけた。
向こうから歩いてくるぶんには振り向かなきゃ見えないはず。
かつん、かつん。
かっ、かっ。
ふたつの足音がだんだんと近付く。
息を止めて気配を殺す私。
「――それで、首尾はどうなったのだ?」
「すでに手配済みよ。午後にはいつでも突入できる」
男女の会話。
・・・突入?
え? 何の話?
男の人の声は何だか聞いたことがあるような。
「ちっ、吾輩が身を喰らう蛇の傀儡のふりをするなど」
「白色人種の旗印であるおふた方を救うには、彼らの力を利用するのが一番早いと判断したのはゲルオク、貴方よ」
「わかっておる。最後にこの封印の揺籠でまとめて殲滅すれば何も残らぬからな」
・・・。
この声。昨日、私の肩に手を置いた人・・・?
ふたりが何の話をしているのかはわからないけれど。
とても不穏な、物騒な会話であることだけはわかった。
「それにしてもあの女に勘付かれるとはな。何人か割り込ませたのだろう?」
「ええ、そのための辺鄙な極東支部だから。少しぐらいの犠牲を出しても役立ってもらわないと」
犠牲・・・?
何の話・・・?
怖い、怖い!
これ、見つかったら絶対にまずい。
「ゲルオク、試合で力を使いすぎないでよ? 起動に支障を来たすから」
「レベッカ、そなたもだ。煽られてムキにならぬよう」
「その言葉、そっくりお返しするわ」
ふたりが私の横を通り過ぎる。
後ろ姿が遠ざかっていく。
早く、そのまま角を曲がって!
手足が緊張で震えていた。
でも絶対、声を出しちゃ駄目!
息は止めたまま!
「・・・む?」
「・・・どうかした?」
「!!!」
ゲルオクと呼ばれた男の人が立ち止まった。
駄目、気付かれた!?
きょろきょろと左右を見渡してる。
・・・お願い、こっち見ないで!
「・・・レベッカ、腹が空かないか」
「ああ、屋台の匂いね。この辺鄙な島、昔から料理だけは美味しいのよ」
「ほう。ここまで漂ってくるのか。こうも吾輩の食欲を唆るとは」
「午後から長いから何か食べておきましょ」
「うむ、『ヤキソバ』なる炒め麺を試してみたい」
・・・。
・・・。
その男女ふたりはどうにか去っていった。
・・・。
・・・。
「よ、良かったぁ」
危なかった・・・。
私はその場にへなへなと座り込んだ。
気が抜けたら全身の力も抜けてしまった。
「あ~、みっけ」
「ひゃい!?」
いきなり隣から声がした。
私は心臓ごと飛び上がってしまった。
「きょ、響ちゃん!」
「駄目だぜ~、そんな調子悪ぃのに歩いちゃ~」
「お、驚かせないでよ・・・」
「驚いたのはあたし。起きたら居ねーんだもん」
「ごめんって」
良かった、見つかったのが響ちゃんで。
びっくりして立ち上がったはずの私はまた脚の力が抜けてへたり込んでしまった。
◇
高天原の体育館。
『闘神祭 決勝戦』と大きな筆字の垂れ幕が中央にぶら下がっていた。
ああいうホンモノに力(お金)を使うところが高天原のすごいところだ。
でももっと驚くのはこの体育館。
新東京のネオ・ビッグサイト顔負けの広さ。
試合のための舞台も数カ所あって、それぞれに仮設座席が作られている。
こんな大掛かりな設営、国際スポーツ祭典じゃないと見ないよ。
「あ~、あったよ、対戦表」
「えっと・・・先輩の名前はある?」
「ん~・・・あ、あった」
「やった、良かった!」
人がたくさんいた。
圧倒されて試合前に着席できないかと思ったくらいだ。
ちっこい私は頑張ってその中を進んでいった。
ふたりで見た電子掲示板。
『フツヌシの部』と表示された対戦表の片隅に・・・あった!
――高天原学園3年 ヤン リンファ
――高天原学園1年 キョウゴク タケシ
先輩の名前だ!
良かった、試合を見られる。
凛花さんって、あのスタッフの人かな?
先輩と組むなんて・・・とてもすごい人なんだろうか。
「むっつり先輩、むっつりなのにすげぇよな。これ、国際試合だぜ~」
「ほんとだ」
「朴念仁なのに出場できんのか~」
朴念仁って。
珍しいな、響ちゃんが先輩のことディスるなんて。
他の対戦相手を見ていくと様々な所属の人がいることがわかる。
――キャメロット2年 ゲルオク=フォン=リウドルフィング
――キャメロット1年 レベッカ=グレンヴィル
ゲルオクって、もしかしてさっきの『吾輩』の人?
あの人も試合に出るんだ。
そっか、試合だから来てるんだよね。
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何だか企んでいそうな雰囲気だったから・・・大丈夫かな、先輩。
――トゥラン2年 フェルナンド=ロドリゲス
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こっちはトゥランの人だ。
名前だけじゃわからないけど、わざわざ日本まで来てるんだ。
間違いなく強い人たちだと思う。
ほかにも世界政府直轄軍、世界戦線中東軍。
この人たちなんて軍人じゃないの?
この学園、噂に違わず武闘派だ。
昨日の七試練もそんな感じがしたからなぁ。
何となく、他に知っている人がいるかと見ていくと・・・。
「あ!?」
――高天原学園1年 レオン=アインホルン
――高天原学園1年 ソフィア=クロフォード
レオンさんとソフィアさん!
あのふたりも出場するんだ。
先輩とは反対側だから、もし勝ち進んでも決勝まで当たらない。
よかった、応援したい人同士がすぐにぶつからなくて。
「あ~、あのふたりだねぇ。見た目だけじゃなく実力もあんだな~」
天は二物を与えず、なんて言うけれど。
あのふたりは二物どころか三も四も与えられていると思う。
きっとこのトーナメントの中でも活躍するんだろうなぁ。
「みーちゃん、あそこ、空いてんぜ」
「うん、行こう」
私たちは隅っこの空いている席を見つけて陣取った。
人はたくさんいるけれど、それ以上に座席が用意されている。
だから席に困ることはなかった。
「ほら、焼きそば買ってきたんだ」
「やったー、さっきから良い匂いがすると思ったんだ~」
「ふふ、ふたり分あるから。一緒に食べよ」
試合が始まるまであと10分。
客席もだんだんと埋まってきていて、あちこちに食事をする人がいた。
ちょうどお昼だもんね、皆、屋台物を食べている。
私たちも焼きそばに手を付けた。
「あー、美味いね~」
「うん、美味しい」
昨日の夜から何も食べていなかった。
きっと響ちゃんもそうだ。
焼きそばはとても美味しくて、気付けばすぐに無くなっていた。
「ね、響ちゃん」
「うん?」
「昨日、あれからどうなったのか聞いても良い?」
「あ~。寝てたもんな。い~ぜ、時間もあるから話すよ」
そうして私は響ちゃんに、気を失ってからの話を聞いた。
私がゲルオクさんに何かされて気を失ったこと。
ゲルオクさんとレベッカさんのこと。
そして先輩が・・・怒ってくれていたこと。
先輩と・・・終わってなかった?
・・・。
・・・。
ううん、やっぱり駄目だよ。
本気で心配してるなら保健室の私のところに顔を出してるはずだし。
きっと私じゃなくて、橘先輩や御子柴先輩が同じようになっても同じことをしてる。
先輩ならそのほうが自然だ。
だからこの行動は先輩の正義感でやってることで、義務の範疇。
素敵だけど私だけのためじゃない。
自惚れないようにしなきゃ。
「あ~、それよりさー。みーちゃんのおねーさんがものすげー心配してたよ」
「え!? お姉ちゃんが!?」
「うん、帰ったら謝っとかねーと」
「わかった、ありがと」
そう。お母さんやお姉ちゃんにも迷惑かけちゃった。
ダメダメだなぁ、私。
「連絡、響ちゃんがしてくれたんだよね? ありがと」
「いいって。みーちゃんが何ともなかったのが良かった」
「えへ、心配もしてくれてありがと!」
「うん~」
あ、響ちゃんがそっぽ向いた。
少し耳が赤くなってるからきっと照れてる。
こうしてたまに見せてくれる照れた顔が可愛いんだ。
そうして昨日の話をあらかた聞き終えたところで開始のアナウンスが入った。
昨日、観られなかったぶん、しっかり観て応援しよう。
私は気合を入れて、第1試合が始まらんとしている舞台に注視した。
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