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終章 攻略! 虹色の魔王

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 俺はジェットスキーなんて操縦したことがない。
 だからこのホバー艇の操作だって当然に初めてだ。
 でもこの操縦感覚はバイクに似ていた。
 学生時代に大型バイクを乗り回していたおかげで方向感覚や加速の雰囲気は理解できた。


「あそこか!」


 何とか操縦してクリティアスの桟橋を目指す。
 えちごが接岸していた場所に4人の影が見えた。
 間違いない、レオンと凛花先輩、デイジーさんにアレクサンドラ会長だ。
 全員いる、何とか無事に持ち堪えてくれていた!


「レオーン!! 凛花先輩!! 会長!! デイジーさーん!!」


 俺は声をあげた。
 彼らもこちらを認識している。
 だけど目の前の魔物が邪魔だ。
 空中にガーゴイルやらグリフォンやらがうようよしている。
 何も考えずに突っ込んだけど、これじゃ俺たちが狙われちまう!
 どうすれば良い!?

 迷ったところでアレクサンドラ会長が皆に号令をかけていた。
 ホバー艇の轟音で聞こえなかったけど皆がそれに合わせて動き出していた。

 先ず凛花先輩が飛んだ。
 ホバー艇の進路にいる魔物を空中を駆けて蹴り落とす。

 すげえ、つーかどうやって飛んでんのよ!
 見れば空中に作り出された岩石弾ストーンバレットを足蹴にして連続でジャンプしてる!
 アレクサンドラ会長との連携が華麗すぎる!

 桟橋へ突っ込んでくるキラーボアやダークベアといった突進系の魔物はデイジーさんが捌く。
 あの人、地味に見えて攻撃力が高いんだよな。
 単に殴るだけなら凛花先輩よりも痛そうだし。

 そしてレオンは桟橋から突出した。
 気合一閃、周囲の魔物を弾き飛ばしている。
 何やら衝撃波みたいなものまで出しているあたり本気の闘いだ。
 凄まじいのひとことで、その闘いぶりをじっくり見て感動したい!
 けれども俺は目の前の操縦で手一杯だった。

 バックギアに入れてプロペラの逆噴射をかける。
 時速100キロメートル近い速度から一気に減速が入った。
 前方に負荷がかかりハンドルを握っていないと吹き飛びそうだった。


「うおおおぉぉぉぉ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」


 小鳥遊さんの叫び声が振動音となって俺の背中に伝わった。
 いや怖えぇって!
 止まってくれぇ!
 いつぞやのディスティニーランドの絶叫マシンよりも・・・いやあっちの方が怖いな。


「あああ、やばいやばいやばい!! 避けろぉぉ!!」


 ブレーキが遅かったのか桟橋に突っ込んじまう!
 こんなんどこで止めるかなんてわかるか!
 あああああ、危ねぇぇぇぇ!!

 どうしようもなくて目を閉じたところで、衝突音もなく、ぐいとホバー艇が持ち上がった。
 どばしゃーん、と激しい水飛沫があがる。


「うひゃ!?」

「きゃぁ!」


 俺と小鳥遊さんの悲鳴が重なった。
 乗り上げた勢いでホバー艇は急停止していた。
 と、止まった・・・?
 けど、これ!
 みんなを下敷きにしてねぇか!?


「やれやれ。相変わらず止まれないね」

「凛花先輩!」


 一瞬の無重力感の後、ばしゃんとホバー艇が桟橋の横に着水した。
 凛花先輩が暴走を受けて降ろしてくれたのだ。


「武! お前は・・・」

「説教は後でいくらでも聞く! とにかく乗れ!!」

「彼の言うとおりだ、皆、乗るぞ!」

「了解!」

「ああ~、助かりました~」


 食ってかかろうとしたレオンを制し、会長がホバー艇へ乗り込んだ。
 ほかの3人も敵と距離があるのを確認した後、順次飛び乗る。

 すぐにホバー艇を離岸させた。
 桟橋に殺到する魔物の攻撃が届かなくなる位置まで走りようやく一息つける。
 こうも毎度、危機一髪なのはどうにかしてほしい。


「武、どうして戻って来た!」

「ああ!? 忘れ物をしたら戻るのは当然だろ!」


 いつもは真面目顔をしているはずのレオンが僅かに笑みを浮かべていた。
 てっきり怒られるかと思ってたけど嬉しさも半分ってとこか。
 悪友同士の冗談を言い合うような雰囲気。
 ばしんと叩かれても悪い空気じゃねぇってのなら良い。


「京極 武。詳しく尋ねる暇が無かったがアトランティスはあのまま沈むのか?」

「そうだ。アトランティスの主が魔王にちょっかいを出されてやられたからな」

「なんだと? 武、お前はアトランティスの主に会ったのか?」

「あの先の階段を降りたところが最深部だったんだよ。アイギスはそこに居た」


 ホバー艇の爆音で互いの声が聞き取り辛い。
 えちごに戻ってからでよいと思うんだけど周りは待てないようだった。
 返答のため運転しながら叫んでるんだけど自分の声さえよく聞こえない。
 果たして通じているのやら。


「単刀直入に聞く。我らはここからどうすればよい」

「先ずはこっから出る!」

「こことは? アトランティスからは脱出したぞ」

「違ぇ! 上だ、上を見ろ!」


 皆が空を見る。
 果てしなく続く大西洋の水平線の上には変わらぬ曇天が広がっていた。
 夕焼けのように少し赤みがかったそれは火山の噴火を受けて輝いているのか。
 その色がこの場に起こる事態の深刻さを物語っているようだった。


「この曇り空がどうだというのだ?」

「あれは空じゃねえ、結界だ。『時空プレインズ・結界フィールド』っていうな」

「『時空プレインズ・結界フィールド』?」

「この結界の中が別次元になんだよ」

「あ~!? 亲爱的武ダーリン、それじゃここは異世界だっていうのかい?」

「そうらしい」


 時折、近くを飛んでいた魔物がホバー艇を見つけて飛来する。
 それらはレオンがすれ違いざまに斬り捨てて問題とはならなかった。
 やがて戦艦えちごが眼前に迫る位置まで戻って来た。


「おいおい、あのイカはなんだ? あれじゃえちごに戻れないな」

「しつこいやつだ。5本は脚を斬り落としたはずだが・・・再生しているのか? ここから見えているだけで8本はあるぞ」

「ああ~お土産にお願いしましたけれど、この子とご一緒はしたくないです~」


 ホバー艇の速度を落としえちごから距離を置く。
 クラーケンが海面から三角頭を出し、がっちりと戦艦えちごに絡みついていた。
 甲板の先輩たちは必死に絡みつく脚を離そうと攻撃しているが、どうもに脚を切断できないようだ。

 戦闘の余韻で船はぐらぐらと揺れるし付近の海面も波立っている。
 おまけに絡みついていないイカの脚が、海面のあちこちから出たり引っ込んだりしていた。
 ハエ叩きみたいにあちこちをべしべしと叩きながら動き回っていた。


「このままじゃ乗船できねぇぞ。クラーケンをどうにかしねぇと近寄れもしねぇ」

「近寄れば転覆させられそうだ。どうする?」

「どうするって・・・」


 俺に聞かれたって方法なんて思い浮かばない。
 この船のメンバーじゃ遠隔攻撃ができねぇし。
 誰かにやってもらうしかねえって。


「あのイカ、クラーケンって元はダイオウイカか何かだったんだよな」

「ほう、あれは純粋な魔物ではないのか? そんな生物がいるとは初耳だ」

「大惨事で生き残ったやつらしい」


 正直、魔物なのか野生生物なのか区別はない。
 重要なのは人間に危害を加えるかどうかだ。


「だからその証拠にレオンが脚を斬り落としても魔力として四散しなかっただろ」

「確かに・・・クリティアスで闘ったとき、斬り落とした脚を足場にできたな」


 俺が南極観測船「しらせ」で聞いた話だ。
 魔力に当てられたか何かで魔物化する生物、だっけ。
 例外的なやつなんだろうけど人間だって新人類フューリーになったんだから不思議じゃない。
 あいつは大惨事を生き延びた、特殊な力を得た生き物なんだ。


「それで純粋な魔物じゃないからってどうなんだ?」

「ああ、だから物理攻撃が効くんだよ。どっかから砲撃すりゃどうにかなんだろ」

「その砲台がある戦艦に絡みついているわけだが」

「・・・・・・そうだな」


 いや、おい。そんな当たり前のことを俺はどうして気付かないんだよ。
 砲撃すりゃ解決だなんて思っちゃった自分が恥ずかしい。
 「お前ならその手段をどうにかできるだろ?」という皆の視線が痛い。
 思い付いて言っただけで無策だなんて言える空気じゃねぇ。


「京極 武。我々が閉じ込められているというこの別次元は外と何が異なるのだ?」

「俺も詳しくはわからねぇけど、外から認知できなくて時間の流れも違うらしい」

「すると結界の外・・・元の世界から見るとこの大陸は存在しないわけだな」


 会長のその推測は正しい。
 アイギスの説明によれば結界外からはある程度の魔力でしか視認できないらしいから。


「それでこの結界は強引に突破できるのだろうか?」

「そのまま突破しようとしても無駄みたいだよ。結界ってくらいだし」

「では結界を破る方法は存在するのか?」

「反属性をぶつければそこの部分が弱まる。その弱まった穴からなら通過できるらしい」

「なるほど、通常の結界と同じ理屈か。だがあの黒っぽい色は何の属性だ?」


 レオンが再び空に目をやる。
 薄暗い夕焼け雲だと思っていたものが、ゆらゆらと揺らめいていた。
 あれが魔力だと理解すると周囲一帯が魔力に包まれていることを認識できる。
 俺たちが不気味な何かに捕えられているということを!


「黒いのは『おり』らしい。俺もよくわからん」

「澱? 我々が認識している属性とはまた別のものか?」

「いや、結界を破るだけなら澱については気にしせず通常の四属性魔力という認識で良い。アレは赤っぽいから火属性だな」

「すると水属性の魔力をぶつければ良いわけか」


 そう言って会長はこの場の面子を見渡す。
 ・・・うん、この場に水属性の奴なんていねぇよ。
 レオンは火、会長は土、凛花先輩は風、俺とデイジーさんは白。
 いるとしたらえちごの上の誰かだけど、今はあそこに近付けねぇ。


「む、あれでは駄目だ、威力が足りない。やはり胴体も再生している」


 クラーケンを観察していたレオンが駄目出しをしていた。
 甲板からの激しい攻撃を受けて平然としているクラーケン。
 あれだけ喰らっても再生するなんてチートすぎんだよ。
 なんなんだあいつは。


「レオンの王者の剣カリバーンならいけるか?」

「向こうで斬り落とせたからな。だがあの浅瀬とこの沖合では状況が異なる、水上からは初撃しか当てられん。それに俺が魔法を使ったところで彼らと似たような結果になる」


 クラーケンを退けるためには威力のある攻撃が連続で必要だということだ。
 結界を壊せれば外から何か呼べるかもしれねぇけど・・・。


「仮に、だ。結界を突破したとして、ここは大西洋の真ん中だ。応援など期待するだけ無駄だ」

「・・・会長。あんたはこの後、どうなるか視てないのか?」

「前にも言ったが私が視えるのは特定地点の光景だ。それに君が絡むと予顕が難しいのだ」


 会長は険しい顔を俺に向けた。


「私があの本部で予測できたのはクリティアスで居残った我らの助けが来るところまでだ。その先、現在は何も予顕できていない」

「この先はわからねぇってことか」

「そのとおりだ。せいぜい世界が存続している、というくらいしかわからない」


 この先、直ぐに世界が滅んだりせず存続していることは確からしい。
 それはわかったけれど今のこの状況をどう解決すればよいかはわからない。
 俺たちでどうにかするしかないってことだ。

 ラリクエゲームでもレオンはこれ以上の強力な間接攻撃を覚えなかった。
 凛花先輩も超近接型だしデイジーさんもそう。
 会長は支援タイプだから汎用能力コモン・スキルの土魔法だけ。レオンと同じだ。

 ・・・この手詰まり感。
 何か新しい力に目覚めるとか強力な武器が手に入るとか。
 そういう状況じゃねえのは俺がいちばんよくわかっている。
 第三者を引っ張って来て水属性の魔力で結界を破壊してもらうしかない。


「水属性・・・」


 俺が知っている水属性の使い手。
 ふたりの顔が思い浮かぶ。
 だがふたりともこの場にいるはずもない。
 香のような一般人はむしろこんな危険な場所にいてくれては困る。

 だからって今更、玉砕を選ぶつもりもない。
 座して死を待つつもりもない。
 やると決めたらやる。
 ここにいる奴ら全員を助けるのが俺の攻略プレイ方針だから。


「武様~。時間の流れが違うとおっしゃられましたが結界内はどのくらい異なるのでしょう~?」

「確か100倍以上だっけな」

「ええ!! 100倍!?」


 邪魔をしないようにとずっと大人しくしていた小鳥遊さんが驚いていた。
 PEを見て時間を確認していた。


「たしか私が目を覚ましたのが5時半でした。今が17時半ですから、あれからほぼ半日・・・外では50日以上ということですか!?」

「そうなる。俺たちを閉じ込めてる間に世界を滅ぼそうって魂胆らしい」

「そんな・・・!!」


 つか50日以上って早すぎだよな。
 外に出られたとしたら浦島太郎気分だぜ。


「外からは認識できないのだろう? 2か月も経てば既にアトランティスとともに没したと考えるのが妥当だろう」

「それじゃ誰も助けも・・・捜索にさえに来てくれないってことですよね・・・」


 小鳥遊さんのトーンの落ちた声に皆が俯く。
 クラーケンを倒すための算段もない。
 これじゃ本格的に手詰まりだ。

 ――手遅れになる前に、あらかじめ使っておくほうが良いですよ――

 唯一、可能性を失わないのが俺の固有能力ネームド・スキル
 アイギスの言葉を思い出す。
 あらかじめ・・・。
 俺はあの撤退の行軍中、俺が打った布石は――。
 

「っ! そうか! 皆、動かすぞ、掴まれ!」

「武!?」


 ホバー艇を急発進させる俺に皆が驚いた。
 倒れそうになって、慌てて機械や手すりで身体を支える面々。


「きゃっ!」

「おい、危ないだろう」

「武、どこへ行く!? えちごを放っておくのか!?」

「俺の考える解決策はこれしかねぇんだよ!!」


 アトランティスを背にえちごを通り越しホバー艇を進めていく。
 この場に手段が無いならあるようにするしかない!
 俺は結界の壁がある海の先を目指した。

 やがて遠いはずの赤黒い曇天が目の前に迫ってきた。


「このままでは結界に衝突するぞ!」

「ぅおっと! ああ、また止まれねぇ!」

「あらあら~」


 アレクサンドラ会長の声でブレーキをかけた。
 が、ブレーキを見誤っていた俺はまた突っ込んでしまう。
 結界なんかに触れたらどうなんの!?

 身体を縮こまらせて構える。
 が、突っ込んだはずの俺たちはふたたび結界の手前にいた。


「・・・何がどうなった? 元の位置に戻ったのか?」

「これは・・・ぶつかる前の位置に戻されたのか」

「これが時空プレインズ・結界フィールド・・・」


 目の前には赤黒い魔力が揺らめく結界。
 強行突破は無意味だという事実を改めて思い知らされた。

 遠目には曇天に見えているから結界に包まれていたことも気付けない。
 あのまま大陸に残っていれば知らぬ間に世界が滅んでいたわけだ。
 そして俺たちもじきに大陸ごと沈んでいただろう。 

 閉じ込められた俺たちはどこかで防衛線を張るしかない。
 近い未来に沈んでしまうアトランティスの上か。
 或いはえちごに乗船して海上か。
 アトランティスには魔物の大群が、海にはクラーケンがいる。
 どこに居ても死んでしまう未来しか見えない。

 それに加えこの結界の時間の流れの差だ。
 浦島太郎をしている間に世界が滅んでしまっては困る。
 ここにいる俺たちが助かったところで人類として生きていけない。
 そうなってしまっては実質的に「詰み」だった。
 ほんとうに恐ろしい策略だ。


「京極 武。ここでどうするのだ?」

「呼ぶんだよ」


 皆が俺に注目する。
 何を呼ぶのだと。
 その視線の前で、俺は結界の外を見ながら宣言するように唱えた。


「――探究者クアイエレンス!」


 ぱきん。
 世界がセピア色に染まり時間が止まり静寂が支配する。

 この固有能力ネームド・スキルは他人には認識できない。
 発動するときの発声でさえも無かったことになるのだから。

 赤黒い結界を目の前に俺は想像する。
 今、この瞬間。
 俺たちが、戦艦えちごとそのメンバーが生きて結界を抜けるのに必要なものを。

 結界を壊せるくらいの強力な水属性の使い手。
 クラーケンの脚を切断できるほどの強烈な遠隔攻撃ができる狙撃手。
 そしてクラーケンを吹き飛ばすほどの・・・えちごと同格の砲台を備えた戦艦。

 俺たちを助けるために駆け付けてくれる。
 そんな突飛な行動力が彼女らにあるだろうか。
 それを俺は創り出そうとしていた。

 大西洋のど真ん中。
 何もある筈のないこの場所に手繰り寄せる、俺たちにとって必要なご都合主義。
 それをこの場に生み出すのだ。
 絡み合ったすべての可能性を紐解くように繋げていく祈りだ。

 その可能性に含まれる彼女。
 出発前のあの日。
 俺の勝手な都合で彼女の想いを拒絶してしまった。
 それなのに俺の都合で呼びつけて闘ってほしいと思っている。

 ・・・あまりに身勝手すぎる。
 ほんとうに彼女を呼んで良いのか。
 この先に繋げられないと俺自身がアイギスにも宣言したというのに。
 また同じように拒絶することになるかもしれないのに。

 ずきりと胸が痛む。
 俺は彼女を利用するだけ利用するのだ。
 俺は・・・どれだけ俺は残酷なんだ。
 でもこの状況を打開するためにこれしか具体的な方法が思いつかない。
 俺の知っている範囲でしか力が及ばないからだ。

 彼女の悲痛な叫び声が頭にこびりついていた。
 あの叫び声をもういちど聞くのか。
 いっそのこと、俺のことを嫌って罵ってくれたほうが楽だ。
 そうしてくれって頼むか。
 って、どんだけ俺は自分勝手なんだよ。
 思わず自嘲してしまう。
 俺はこんな罪なことをするためにこの世界に残ってるのか。

 ・・・それでも。
 それでも、だ。
 俺はこいつらを助けるって決めた。
 遠い未来の俺の子孫たちが、この先の時間をこの地球で紡いでいくために。
 俺ができることは、やる。
 そのためにできることをするんだ。
 たとえ卑怯だ残酷だと罵られても、その先に繋げられるなら良い。
 生きるなんてそんなものだ。

 意を決した俺は願った。
 いつの間にか目の前に現れたデフォルメエルフ、ディアナがむっと頑張る表情をしていた。
 彼女に願いを託すよう、強く強く願った。

 俺が願うことを思い浮かべるたび、俺の身体からずくんと魔力の塊が抜け出ていく。
 視界が真っ白に染まって周囲が明るくなる。
 そのたびに失われた魔力の喪失感で力が抜けていく。

 この願いは壮大で全世界に影響を及ぼす。
 代償がどれだけ大きくたって支払うしかない。
 幾つもの世界線を手繰り寄せ、断ち切り、紡ぎ上げ。
 それでも俺は願い続けた。

 もう意識が飛びそうだった。
 久々に魔力が枯渇して前後不覚になる。
 時間が動き出したら直ぐに倒れちまうだろう。
 そうなっても上手くいったならレオンがどうにかしてくれんだろ。

 幾つもの可能性を紡いだ感覚があった。
 ぱきぱき、ぺきぺきと何かが継ぎ接ぎされていく音が聞こえていた。
 まだ、まだ足りない。
 このままじゃ繋がらない。

 おい俺、こんなんで力尽きるな。
 この願いだけは通さねぇと皆が終わってしまう。
 だから最後まで出し切れ。
 意地でも繋げろ。

 そうしねぇと香に通わせて・・・・しまったことを謝れねぇだろ。
 清算しなけりゃ雪子と合わす顔もねぇ!

 ぴし、ぴし、ぴし。
 聞いたことが無い音が鳴り響く。
 もう精魂尽き果てる手前。
 必死過ぎてそれが何なのか考えることもできずに。
 もはや執念のようなものだけで俺は願っていた。



 俺は――――!

 ここに、俺の、俺だけの物語ラリクエを、創り出すんだ!!



 ぱきぱき、ばりん。
 そうして世界に色と音が戻ったと認識した瞬間。
 眼前に迫る巨大な影が見えたと同時に、俺の意識はそこで途絶えた。


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