仮面の王子と優雅な従者

emanon

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後日談

帝国の日々⑨

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♢しるし♢



「シャルワール様、この度はご心配をおかけして本当に申し訳ございません」
「いいか、次兄上を泣かせたら今度こそ覚悟しておけよ!!」
 ライノアは、シャルワールを迎えにきたアトレイを連れて、城から戻ってきた。開口一番謝罪と共に頭を下げるライノアに、人差し指を突きつけて、シャルワールは吠える。
「またそんな捨て台詞みたいな事言って······帰りますよシャルワール様」
 敵意剥き出しのシャルワールにため息をつき、アトレイは頭を下げた。
「お騒がせして大変申し訳ございません」
「こちらこそ、色々とごめんね。僕が不甲斐ない兄だから心配かけちゃったみたいで」
 申し訳なくて同じく頭を下げたアルフォルトに、シャルワールは大きく首を振った。
「兄上は悪くない!悪いのはそいつだ!」
「いい加減エルディオス様に喧嘩売るの辞めなさいって言ってるでしょう!?そろそろ兄離れして下さい!」
 やいのやいのと言い合いをする二人に、アルフォルトは苦笑いした。
「落ち着いたら今度はクリスティナ嬢と一緒にゆっくり遊びに来てね」
「アルフォルト兄上も、そんなやつは捨てていつでも帰って来ていいからな!」
「······帰ったらクリスティナ様にお説教してもらいましょうね」 
 そうして殆どアトレイに引き摺られるようにして、シャルワールは屋敷の外に迎えに来た馬車に押し込まれ、ライデン王国へと強制送還された。
 遠ざかる馬車を二人で見送っていると、ライノアがおもむろに腰を抱いて、頭に口付けを落とす。
「次泣かせたら、か。······ベッドの上でいつも貴方を泣かせてるのは、許して貰えるんですかね」
「んなっ」
 ライノアの爆弾発言に、アルフォルトは思わず赤面して腰に回した腕を叩いた。
「······エディでもそういう冗談、言うんだね」
 涼しい顔でなんて事を言い出すんだと唸ると、ライノアは軽やかに笑ってアルフォルトの頬に口付けた。
「ルトがどこか寂しそうな顔をしていたので······少しは気が紛れるかな、と思って」
 思いがけずシャルワールに会えて嬉しかった反面、思いのほか自分は寂しかったんだという事に気づいた。
 それから多分これは確信犯だな、と思うことがあり、アルフォルトはため息混じりに問いただした。
「······僕が倒れたって知ったらシャルルは何がなんでも帝国まで来るって、わかってて手紙出したでしょう?」
 チラ、と横目で見れば、ライノアは肩を竦めて見せた。
「さぁ、どうでしょうね」
 アルフォルトの為なら、隣国の王子すらいいように利用する。
 元従者だった未来の旦那様は、やはり弟の扱いが雑だ、とぼんやりと思った。 
 


♢♢♢



「え、引き続きあのじじぃに歴史の授業お願いしたんですか?」
 馬車に揺られながら、目の前に座るメリアンヌは目を見開いた。
 今日はメイド服──ではなく、従者の服装でアルフォルトとライノアの護衛として同行している。その馬車の周りには護衛も数名、馬で併走していて、移動一つでも中々に物々しい。
 窓の外を眺めていたアルフォルトはメリアンヌに頷いた。
「じじぃって······モルト様、教え方はとても上手いから勿体ないなって思って」
「私は変えた方が良い、と言ったんですがルトが聞かないんです」
 ライノアは困った顔で隣に座るアルフォルトの手を握った。
 モルトから後日、今までの非礼を謝罪された。それから、あの日以降暫く寝込んだという噂も聞いた。歴史の授業は別の人間にお願いするだろう、と誰もが思っていた中、アルフォルトは引き続きモルトにお願いする事にした。当然モルトは激しく動揺し、顔色が青くなったり白くなったりしながら、滝のように汗を流し最終的には了承してくれた。
「違う人にお願いしたら、モルト様も色々噂されるだろうし、そうなったら可哀想じゃない?」
「ルトにしてきた事を思えば当然じゃないですか?」
 アルフォルトの頬に手を添え、心配そうに覗き込んだライノアに苦笑いする。
 勿論、言われた事や傷ついた事を忘れるつもりはない。だからこそ、だ。
「逆に考えれば、彼はもう僕やエディに側室の話はしないし、今後下手な事はしないと思う。逆らえない状況で恩を売っておけば、後々エディの助けになると思うしね」
 ニッコリ微笑めば、ライノアとメリアンヌは虚をつかれた顔でアルフォルトを見つめた。
「······前々から思ってましたけど、うちの王子様って中々したたかだわ」
「強かならご飯食べれなくて倒れるなんて事ないと思うけど······」
「転んでもタダじゃ起きないのがルトですから」
 いまいち褒められている気がしない。頬を膨らませるアルフォルトに、二人は楽しそうに笑った。
 
 しばらく馬車に揺られ、たどり着いたのはディオハルトの城下を一望できる小高い丘だった。
 ライノアにエスコートされて馬車を降りると、澄んだだ空気が肺を満たし、アルフォルトは深呼吸する。
「綺麗な所だね」
「ええ、静かでいい所です」
 花束を抱えるアルフォルトの腰を抱き、ライノアはゆっくりと歩きはじめた。
「もうフラついてないし大丈夫だよ?」
 あれからアルフォルトは少しずつご飯を食べれるようになり、今ではほぼ元の体型に戻った。まだ腰が細い、とライノアに言われたが元々肉が付きにくいのでこれ以上はどうしようもない。苦笑いするアルフォルトのつむじに、ライノアは軽く口付けると更に身体を密着させてくる。
「私がルトにくっついていたいだけです」
 臆面もなく言ってのけるライノアに、アルフォルトは頬が熱くなる。最近のライノアはすぐ甘い言葉を言うから反応に困る。
「コラそこ、墓場でイチャつかない」
「い······イチャついてない!」
 メリアンヌの呆れたような声に、背後に控えている護衛達も苦笑いする。ライノアはしれっとしているし、アルフォルトはなんだかとてもいたたまれなくて、唸った。
「······ここです」
 いくつかの墓を通りすぎ、一番奥にある白い墓石の前で立ち止まった。
 抱えていた花束の一つを墓の前に置き、アルフォルトは目を閉じた。
「来るのが遅くなってすみません。エルディオスを守ってくれてありがとうございます、
 墓石に刻まれた名前は、かつて小さな王子を守って命を散らした従者の名前。
 が眠る墓に、アルフォルトとライノアは花を供えに来た。
 本当はもっと早く来る予定だったのだが、アルフォルトが倒れた事もあり、先延ばしになっていた。
 チラ、と隣を見ると、ライノアは目を閉じて静かに祈りを捧げていて、アルフォルトはライノアが祈り終わるまで静かに見守っていた。
 それから、近くにあるライノアを守って亡くなった護衛騎士達の墓にも、花を供えてまわった。彼らがいたから、今こうしてライノアと一緒にいれるのだと、心から感謝し鎮魂の祈りを捧げて墓所を後にした。

 帰りの馬車に揺られながら窓の外の景色を眺めていると、次第に睡魔が押し寄せて来た。
 かくん、と何度か頭が落ちそうになっていると、ライノアの手がアルフォルトの頭に触れ、自分の肩に引き寄せた。
「着いたら起こしますから、寝ててもいいですよ」
 静かなライノアの声が心地良くて、でもアルフォルトは首を振った。
「今寝たら、夜寝れなくなりそう。······ねぇ、何か話してよ」
 ふぁあと小さく欠伸をして無茶振りをすると、ライノアは苦笑いした。
 そっと身体を抱き込むようにライノアの腕に包まれると、胸の奥がじわりと温かくなる。
「······さっき花を供えたの墓なんですけど」
 囁くような声に、アルフォルトは小さく相槌を打つ。
「実は中に彼は眠っていなくて、棺の中は彼の剣と外套しか入っていないんです」
「え?」
 予想外の話にアルフォルトは思わず身体を起こした。目の前に座るメリアンヌも片眉を上げてライノアを見つめていた。
 ライノアはアルフォルトの腰を抱き直すと、再び話はじめる。
「護衛や従者の遺体は、兄上の指示で回収され、埋葬してくれたんですが······回収したライノアの遺体は川を流れたのか損傷が激しくて、顔が識別できなかったそうなんです」
 目を閉じて、ライノアはそっと息を吐き出した。
「近くに剣と外套があったから一応回収したけれど、ライノアにしては体型が大きく、髪の長さも少し違ったようで······おそらく別人だろうと判断し、遺品だけ棺にいれたそうです」
 思ってもみない話に、アルフォルトはすっかり眠気がどこかへいってしまった。
 確かに眠気覚ましに何か話してとは言ったが──予想外の話すぎて、頭が追いついていない。
「遺体は結局今も見つからないんですが、私はそれでもいいと思っています」
 言葉を区切ったライノアは、目を閉じると静かに笑った。
「私が川を流されてルト達に助けられたように、きっと、彼も好きな所へ流れて行ったのかもしれない。それに」
「もしかしたら、どこかで生きてるかもしれないし?」
 ライノアの言葉を引き取るようにアルフォルトが言うと、ライノアはぎこちなく頷いた。
「······そう、だといいですよね。勿論それは自分に都合の良い妄想だとはわかってるんですけど」
「でも、可能性はゼロじゃないわよ?」
 それまで沈黙を守っていたメリアンヌが悪戯に笑う。
 そう。可能性がゼロではないなら、信じるのは自由だ。
 アルフォルトも頷いて見せると、ライノアはアルフォルトの手を握って微笑んだ。
 あんなに人前だと無表情だったライノアが、よく笑ったり怒ったりするようになった。
 それがアルフォルトにはたまらなく嬉しくて、ライノアの手を強く握り返した。

 


 
  





 
 

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