不機嫌な神父様には半魔の番が必要です

emanon

文字の大きさ
41 / 42
第二章

ランチタイム

しおりを挟む



 中央教会に所属する神父やシスターの割合は、魔の血脈が三割、残りの七割が人間だ。
 魔の血脈にも様々な種族がいて、所属する半数以上の魔族は獣人族、残りがエルフ族や淫魔、吸血鬼や悪魔なんかもいる。
 魔の血脈でも上位の種族とされる吸血鬼や淫魔は実はそんなに多くはない。悪魔族に至っては教会に三人しかいないそうだが、サァシャはまだ会った事がない。

「それを言ったら、半吸血鬼ダンピールなんてラギ神父しかいないぞ?」
 ジャンと図書館の裏庭にあるベンチで昼休憩をしていたサァシャは、目を丸くした。
「え、そうなの?半魔の人も結構いるから、てっきり他にもいるのかと思ってた」
 持参したサンドイッチに噛り付いて、ついラギを思い浮かべる。彼にもお昼ご飯に、と同じサンドイッチを持たせているから、今頃食べているだろうか。
 因みに、ジャンが今食べているサンドイッチもサァシャが作った。以前は取り巻き(ジャン曰くお爺様が付けた監視)が用意していたようだが、ジャンは図書館業務に就いて以来彼等と距離を置いている。
 ジャンも案の定料理は出来ないようで、外に食べに行く時間が勿体ない、と昼ごはんを食べずに本を読んでいるのを見かけ──身体に悪そうだとお昼ご飯を用意する提案をした。一人分でも三人分でも、作る労力はさほど変わらない。断られるかとも思ったが、ジャンは申し訳なさと嬉しさが入り混じった表情で頷いて、今に至る。
 残念な事に中央教会の食堂は朝晩しか稼働しない。それ故に昼は各自で用意するか外に食べに行くらしいのだが、サァシャが街に一人で行く事はラギに禁止されている。ニルギスにいた頃からも、ラギは放っておくと面倒くさいからと言って食べないので、サァシャは意地でも昼を用意していた。そもそもラギが休憩しているのかすら謎だ。日中の内勤時はほぼ別行動なので、たまに教会内ですれ違うとつい嬉しくなる。
「昔…教会が半吸血鬼を無理矢理作った話は知ってるだろう?」
 ジャンは周囲を見渡すと、声を潜める。
 教会の歴史を学べば、誰しもが知る教会が犯した罪の一つだ。
 まだ教会が設立されたばかりの頃、人と魔族が対立していた時代。教会は脅威である吸血鬼に対抗するため、捕らえた吸血鬼と人間を交わらせて、半吸血鬼を無理矢理作った。
 吸血鬼を殺す力がある半吸血鬼だが、血を飲む事が出来ず、結局その殆どが死に絶えた。非人道的だと魔族や人から非難され、過ちを認めた教会は、後に結ぶ魔族との盟約でこの事実を隠さず歴史書に刻んだわけだが、何百年経っても、未だに吸血鬼の中には教会を忌み嫌う者は多い。それ故に、教会には吸血鬼が少ないのも事実だった。
 教会内でこの手の話はタブーで、サァシャもジャンに少し身を寄せ、小さく頷く。
「そのせいで、教会は未だに半吸血鬼を腫れ物扱いしている風潮があるから……ラギ神父はきっと、苦労されて来たと思う」
 中央教会にいた頃のラギの事は、あまり知らない。なんとなく聞きづらくて……聞いてはいけない気がして、触れないようにしている。あまり中央教会にいい感情を持っていない事はわかるので、サァシャとしてはつい罪悪感を覚える。
(僕のせいで、ラギはまた中央に戻る事になったんだもんね……)
 双月ふたつづきの夜は外に出ない、という約束を破って、サァシャにかけられていた魔封じの封印がとけてしまった。挙句魔獣に襲われて死にかけ、ラギの眷属と番になる事で、生きながらえている。──ラギを自分に縛り付けて。
「……サァシャ?」
 急に大人しくなったサァシャに気付き、ジャンが首を傾げた。つい感傷に浸っていたサァシャは、慌てて取り繕った笑みを浮かべる。
「ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
 食べかけのサンドイッチを口に押し込んで咀嚼していると、膝の上にずしり、とした重みを感じた。
 艶やかな黒い毛、温かな身体。長い尻尾を振りながら、大きな黒豹がサァシャの膝に前足と顔を乗せた。
「ラン!もう追いかけっこはいいの?」
 耳元を両手で擽って問いかけると、ランと呼ばれた黒豹は目を細めた。先程まで、庭の中に降り立った小鳥を追いかけて遊んでいたのだが、もう飽きたのだろうか。
 首を傾げると、ランはベンチに飛び乗って、サァシャの目元を舐めた。
 そのまま顔を擦り付けて来て、触れた所から「大丈夫?」と不安そうな感情が流れて来る。どうやら、落ち込んでいるサァシャに気づいて戻って来たようだ。優しい使い魔が愛おしくて、サァシャは思いっきりその大きな身体を抱きしめた。
「……お前は良い子だねぇ、大好き~!」
 サァシャの愛情表現に嬉しくなったのか、ランは興奮してそのままサァシャにのしかかった。ランの体重を支えられなくて、サァシャはベンチに倒れ込み──ジャンは自分の食べかけのサンドイッチを死守し、すかさずベンチから立ち上がった。
 ジャンという支えを無くし、サァシャはベンチに頭を強かに打つ。
「いたっ!……わかった、わかったからラン……重いってば」
 傍から見れば、サァシャが大きな黒豹に襲われているようにも見える。すっかり見慣れたじゃれ合いに、ジャンはサンドイッチを頬張りながら笑った。
「ラン、また大きくなったな」
「ちょっと!笑ってないで助けてよジャン!」
 黒い巨体に押しつぶされ、顔中舐められながらサァシャはジャンに手を伸ばした。
──拾った小さな黒豹は、この数ヶ月でかなり大きくなった。
 発育不良で最初は眠ってばかりのランだったが、魔力が安定しはじめると、それはそれは活発に動くようになり、気づけばかなりの大きさになっていた。
 ジャンは苦笑いしてサァシャの手を引っ張る。どうにか巨体の下から抜け出すと、ジャンは黒豹の頭をそっと撫でていた。
 最初の頃はサァシャ以外の人を威嚇して怯えていた。魔力が馴染んだ今では、サァシャが好意を寄せる相手なら触れても大人しくしている。
「ご主人様が大好きなのはわかるが、お前の身体はもう小さくないのだから加減したまえよ」
 ジャンの言葉に、ランはようやく身体を起こすと、静かにサァシャの隣に座る。
 乱れた神父服と髪を直しながら、サァシャは頬を膨らませた。
「ねぇ、なんでジャンの言う事は素直に聞くの?お前のご主人様は僕なのに……」
「威厳がないからじゃないか?」
「いげん……」
 ジャンの言葉が胸に刺さった。
 威厳。サァシャには縁遠いものだ。
 肩を落とすサァシャに、ジャンは謝罪した。
「冗談だよ。……すまない、さっきの話はあまり楽しいものじゃなかったからな。君が落ち込んで見えたから、ランは心配してるんだろう」
 感情が同調しているランは、サァシャが落ち込んだり悲しいと必ず慰めに来てくれる。
 使い魔の背中を撫で、サァシャは目を閉じると、そっと黒豹に口付けた。
「ありがとうね、ラン」

「サンドイッチ、美味しかった。ご馳走様」
 ジャンはランチボックスをサァシャに返すと、律儀にお辞儀をした。それから、手にしていた紙袋を手渡して来る。
「今日はチョコレートでいいか?」
 受け取った紙袋の中には、どうやらチョコレートが入っているらしい。サァシャは思わず頬を緩ませた。
「ありがとう、ジャン。でも、いいの?いつもお菓子貰っちゃって……」
 甘い物が好きなサァシャは嬉しいが、お返しに結構な頻度でお菓子をくれるので申し訳ない気がする。
 窺うようなサァシャに、ジャンは手を振った。
「作る方が大変だろう?……君の労力を思えばこれくらい安いものさ」
 料理が好きなサァシャとしてはそこまで大変ではないのだが、好意は素直に受け取る事にしている。
「僕一人で街に出ちゃダメだって言われてるから、色々なお店のお菓子を食べられて嬉しいよ」
 ふにゃりと微笑んだサァシャに、ジャンは少し複雑な表情を浮かべて呟いた。
「ラギ神父が過保護になる気持ちがよくわかる」
「ん?何か言った?」
「いや、別に。午後は討伐課に行くんだよな?」
 ジャンの言う通り明日は魔獣討伐に出る為、図書館業務は午前中だけで、午後からは討伐課で打ち合わせだ。
 頷くサァシャの背中を軽く叩くと、ジャンはニヤリと笑みを浮かべた。
「実は俺も、午後は打ち合わせなんだ」
「やっぱり、明日同行するペアって」
 同じく笑みを浮かべたサァシャに、ジャンは片目をつぶって見せた。
「俺だよ。明日はよろしく」
  
  
  

  
  
  
  
  
  
  
  
    
  
  
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

騎士は魔王に囚われお客様の酒の肴に差し出される

ミクリ21
BL
騎士が酒の肴にいやらしいことをされる話。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...