腐っても女子、ですから

江上蒼羽

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好きか嫌いか問われたら…②

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ふと視線を下げると、足元に転がる沢山の空き缶に気付く。

どれもこれも種類や度数は違えど、全部アルコール。


「………こんなに飲んだの?一人で?」


芹沢さんは、私の問いに答えずにベッドから降りた。

そのままキッチンの方へ向い、冷蔵庫を開ける。

芹沢さんは、半分程入っていた2リットルのお茶のペットボトル手に取ると、それをラッパ飲みし始めた。

激しく上下する喉仏。


「…………」


私は芹沢さんの放つ異様な空気に何も言えずに、彼がお茶を飲み干すのを静かに見守る。

やがて空になったペットボトルは、シンクに強く叩き付けられ、形を変えた。


「…………ふぅー…」


深く吸って、深く息を吐いた芹沢さんに、私はゴクッと息を飲んだ。

どう声を掛けたら正解か分からない。


「………ろされた…」


掠れた声で呟いた彼の言葉がよく聞き取れなかった。


「…………え?」

「役………降ろされた」


衝撃的な言葉に耳を疑った。


「……昨日になって俺の役、別の人間がやる事になったって監督から言われた」

「う、そ………」


オーディションに受かって、物凄く喜んでいた。

脚本貰った、頑張らなきゃって、張り切ってた姿を知っているから、ショックだった。

シンクに寄り掛かり、視線を落とす彼は自嘲気味に続ける。


「……俺の役、大御所俳優の息子がやるみたいよ?俳優業に興味を持ち始めたとか何とかって……」

「………つまり二世?」


芹沢さんは声を出さずに静かに頷いた。

だから代わりに私が声を張り上げる。


「そんなの、明らかに親のコネじゃん!実力も何もないじゃん!!」


昨今の芸能界は二世タレント、二世俳優の増加が著しい。

中には類い稀な才能を開花させ、親よりも有名になる人もいるけれど、そんなのほんの一握りだ。

大概は偉大な親を追い越せないまま、いつの間にか消えている。


「何の努力もなしに親の名前だけでドラマに出ちゃえるんだ?凄いね、恵まれてるね」

「………」

「親がウチの子使ってって言えば、あっさり決まってた役変えちゃうんだ?てか、そんなの酷いよ!卑怯だよ!」


当事者ではない私が憤った所で現状は何も変わらない。

だからといって黙ってられなくて。


「芹沢さんが頑張って勝ち取った役、素人がやるの?馬鹿みたい!」


喚く私に芹沢さんが「うん……でも…」と声を発する。


「力の強さが物を言うこの業界じゃ、俺は無力だから…」


抑揚のない、淡々とした口調。

それが一層彼の落胆振りを表していて、私の方まで胸が苦しくなった。


「………だから今日は誰とも会いたくないし、話したくない……間宮ちゃん、帰んな?」


芹沢さんは私の方を一切見ずに言った。

彼が私の来訪を歓迎してくれる事はあっても、迷惑がって追い返す事は一度もなかった。

今回の件で相当参ってしまっているんだろうな……って思えても、足は玄関へは向かない。


「………」

「………聞こえなかった?間宮ちゃんとも話す気ないんだ。さっさと帰って」


私に帰宅を促す芹沢さんさんだけれど、私は彼の申し出を受け入れるつもりは毛頭ない。


「芹沢さん」


一歩、二歩、三歩……と、彼に近寄る。

それから、わざとしゃがんで彼の視界に入り込む。

そうすれば彼は嫌でも私と視線を絡めざるを得ない。

辛気臭い空気を一掃するように、努めて明るく言う。


「芹沢さん、デートしよ?」


勿論、ニッコリ笑顔で可愛らしく小首を傾げてみせて。


「…………は?」


帰れと言われたのを無視してのデートの誘い。

当然、芹沢さんが怪訝そうに顔を顰める。


「間宮ちゃん……何訳の分からない事言ってんの?」


その問いにわざとしらばっくれる。


「私としてはシンプルに言ったつもりだけど?」

「シンプルとかじゃなくて……」

「私は芹沢さんとデートしたいの」


芹沢さんは呆れ気味に「はぁ…」と溜め息を吐いた。


「だからさ、そういう気分じゃないんだって。いいから帰んな」


口調に苛立ちが込められているのを感じ取りながらも、それが分からないように振る舞う。


「予定なくなったんでしょ?だったら久し振りのオフを持て余して暇な私に付き合って」

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